ご注意:苦痛・流血をともなう本編の過激描写は、小説としてのフィクションです。
決して人体に試さないで下さい。死亡・大怪我・病気に至ります。



蔦の塔



■十.(最終回)


 少年の日、ぼくのものを含んでくれた病の人の唇。
ぼくの肉棹を受け入れて包んでくれた、あの人の深くやわらかな蜜壷。
病の人にとって父が特別の男であったように、ぼくにとっては、病の人が
特別な女だった。それは、いかなる高貴な恋人をもっても、いかなる遊戯を
経ても変わることのない、金剛石に等しいぼくの不変だった。
 ぼくの背が伸び、病の人を軽々と膝に乗せて可愛がることが出来た日の
喜びを、ぼくは今でもはっきりと思い出せる。あの病の人によってぼくは自分が
男であることを知り、あの人の中において、ぼくは大人の男になったのだから。
 どこもかしこも繊細で華奢な病の人は、いみじくも塔の客人の一人が称したように、
いつまでも妖精のようだった。その気品のある顔立ちや、その白い肌は、浮世の
あくたにまみれた、どのような女とも違っていた。
 妖精は、枷をつけられて蔦の塔に閉じ込められていた。人間にいたぶられ、
その白い脚で、二度と明るい野を歩むことがないように。


「貞操帯というのがあるでしょう」
 サロンの話題は、今日も病の人のことだった。
貴婦人たちが扇を口にあてて笑い崩れた。興味津々に光らせて身を
乗り出している女たちに、男はそのかたちを宙に描いて説明してやった。
「公爵が考案した貞操帯には、二本の淫棒が内側についていましてね。
それをあの方のお尻の二穴にこうして挿し入れて」
 別の男が酒をすすりながら、窓際から続きを引き取った。
「腰のところにまで引き上げて、きっちり留めてしまうのです。調教棒が外れて
しまわないように、しっかりとね」
「まあ、それで」
「そんな帯をお腰に装着されたその方は、それからどうなりますの?」
「そのまま両手を壁に繋いで翌朝まで、その格好のままにしておくのです」
 貴婦人たちは笑い出した。
「あら、それではその方、ご不浄にも行けませんわ」
「そうですわ。お尻に栓をされているのも同然ですもの。もちろん、事前には
お浣腸をしているのでしょうけれど」
 男たちは顔を見合わせて、肯定のしるしに、うっすらと笑った。
その貞操帯は、病の人の肛門性交の躾けの為に特注された、新しい責具だった。
男たちは好んで、それを病の人に取り付けた。
 父の死後、いちばん変わったことといえば、父がいた頃には保たれていた
品性の崩壊であった。それはもとより糜爛な風俗に首まで浸かって生きてきた
貴族の男たちにとっては、もっけの幸いというべき、歓迎すべき変化でもあった。
父が存命の頃ならば客人が求めても許されなかったことでも、父の死後、
新しく蔦の塔の管理人となった母と公爵は、積極的に奨励し、淫辱の見世物と
なることを病の人に強いていた。
 もしもそこに何らかの秩序と品性が残されているとすれば、それはいたぶる側の
客ではなく、いたぶられる側の病の人の慎ましさと、美しさに他ならなかった。
 母の手で肛門に薬液を浣腸される病の人の哀しい姿には、母や男たちの
汚らしい思惑などの届かぬ、一種の殉教者的な美があった。尻に栓をされて
排出を我慢させられている間の、あの人の悶えようには、墜とされた処女の
聖なる苦難といった趣きが漂っていた。
 首輪をつけて塔の中を歩かされている時も、公開排泄の為にしゃがみこまされている
時においても、あの人の清楚と気品、その慎み深さは、どんな貴女よりも勝っていた。
 それは母や男たちが穢せば穢すほど、あの人の内側から穢されぬものとして
滲み出てくるようだった。
「交尾や自慰行為を大勢の前で見せるなどと。つまり、塔にいらっしゃるその方には
行儀や慎みというものが全くないのですわね」
 大またをひらき、不浄を滴らせている美女の股ぐらを思い描いて、不細工な女たちは
無遠慮に笑い、可笑しそうに身をよじった。
 サロンに集った男たちは女たちの期待に応えて、どんな質問にも答えてやった。
彼らはそうやって、いわば二次的に、病の人を回顧の中でふたたび辱しめて
楽しむのだった。
「それで、そうして放置しておいて、翌朝はどうなりますの」
「これは、肛門拡張の一環でして」
「そうでしたわ。その方、あまりにも淫らで、お尻の穴でもよくお感じになるとか」
「調教すればね」
「調教は順調ですのね」
「その貞操帯を外してみますと、一晩中、拡張棒を挿れられていたあの方の
あそこは、このくらいに口を開いたままになっています」
 男が指で円形を作ってみせた。貴婦人たちの目が丸くなる。
「まあ、そんなに」
「内視鏡のついた医療器具なしでも、きれいな色をした直腸が見えるほどです」
「おいたわしいこと。それで、その後はどうされますの」
「『女体ろうそく』の芸?」
「それとも、『芋虫』のご褒美かしら」
「いやいや」
 男たちはにやにやと笑った。
「肛門に『芋虫』を埋め込むなどもったいない。一晩中おあずけにさせてしまった
お詫びをこめて、我々のもので可愛がって差し上げるのですよ。あの方の括約筋の
ゆるみもちょうどよくなっている按配です」
「公爵が手をかけて躾けているだけあって、お行儀がよいのです。相手が
変わるたびに身をかがめてお尻を突き出し、『お願いでございます。もっと挿れて
擦って下さいませ』と懇願なさいますよ」
「あら、めす犬として調教されるうちに、お言葉を失くされたときいておりましてよ」
「だから、言葉の代わりに下口からよだれを垂らして、尻を上下に振るのです」
「本当に淫乱なめす犬ですのねえ」
 貴婦人たちは病の人の話となると、何としても侮辱を浴びせずにはいられない
ようであった。そこに集っているのは母と同類の女たちであり、どの女も不細工で、
人間よりは、豚か牛に似ていた。
「さほどに淫乱な姫ならば、公爵さまも行儀の仕込み甲斐があられることでしょうねえ。
ところで、その公爵さまのことですが」
 一人のずんぐりした婦人が顔つきをあらためて、声を潜めた。
ぼくは目立たぬように、話がよくきこえる位置まで移動した。
 喋っているご婦人は、誰よりも強い関心を病の人に抱いており、サロンには欠かさず
その醜い顔を出して、男たちの語る病の人の話に色の薄いその舌先で唇を
舐めながら、しっかり聞き入る常連でもあった。

「公爵さまのことですが、蔦の塔に入り浸りであることは、皆様もご存知ですわね」
 ずんぐりしたご婦人は、不器量な顔を前に突き出し、太くて短い指を
ひらつかせながら、その噂を一同に聞かせた。
 サロンは固唾をのんで静まり返った。公爵にまつわるその噂の内容が、彼らに
そうさせるのだった。
 衆目を集めたことに満足の笑みを浮かべ、ずんぐり婦人はさらにもったいぶって、
声を落とした。
「昨夜の晩餐会でのことですの。王妃のさまの口から、国王陛下に、蔦の塔の方を
そろそろ解放して、更生措置として公爵にその身柄を譲渡なさいますようにという
お願いがございましたの」
「王妃さまから?」
「当然、王妃さまと公爵さまとの間には、事前の密談があったのですわ。
誇り高い王妃さまにとっては、夫がそのような淫乱女にいつまでも執心して
いるのはご気分の悪いことでしたでしょうからね。王妃さまは余命いくばくもない
気の毒な姫君を公爵さまのお城で休ませてやりたいと仰せでしたの」
「それで、王はなんと」
「かなり困惑されておられました。王妃さまの手前あからさまにはできませんが、お若い
王さまには蔦の塔の方に未練があられるのですわ。卑しい女だからこそ、恥も外聞もなく
その肉体を駆使して殿方をとりこにしてしまうことには長けていたとみえますわ。
そこで、公爵さまが助け舟を出されたのです。国王さまにおかれましては、いつなりと
わが所領地に蔦の塔の方をお訪ね下さって結構ですと。公爵さまはとにかくその女の
所有権を得て、一日もはやくご自分の領地に女を移送させたいのです」
「ご自身専用の性奴隷にするためにですか?」
「卑しい女に相応しい、処罰を与えるために決まっているではありませんか」
 ずんぐり婦人は鼻の穴を大きくして、黄色い歯をむき出しにした。
「公爵さまは、所領のお城に女牢をお持ちなのです。そこには、蔦の塔の方のような
卑しい女たちが、惨めな姿で生かされているのだそうです。公爵さまは、その手の
女たちに苦役や処罰を与えることで反省を促されるのだそうです。そんな女が
何人も、公爵さまのお城の地下牢には飼われているそうですわ」
「あら。それはいいこと」
 サロンの女たちは頷きあった。
「淫臭を漂わせた汚い女たちは、隔離してやるのがいちばんですわ」
「美しいかなにかはしりませんが、殿方たちの玩具になって悦んでいるような女は
生まれつき根性が歪んでいるのです。そのような痴女をわたくしたちと同じ生き物に
されては困りますわ」
 ずんぐり婦人は扇をたたみ、まるで公爵の領地を見てきたかのように張り切って
詳しいところをくっちゃべった。
「公爵さまのお城では、そのような女たちは、特殊な椅子や寝台があてがわれ、開脚
したまま眠ったり、食事をとるのです。それはいつでも、公爵さまや専属の獄吏たちが、
女どものあそこをなぶって試せるようにです。淫乱女の更生は難しいのだそうですわ。
だからしょっちゅう検診棒で検査し、さまざまなことを試さねばならないのです」
「しかしそれでは、蔦の塔におられる現状と変わりないではありませんか」
 男たちが肩をすくめた。
「それにこんな噂も聞きますよ。公爵の城に入って生きて出てきた女はいない。
お城からは、まるで異端審問の拷問にかけられたような女の悲鳴が絶えないとか。
蔦の塔の方はかなり衰弱してきておられますからね。そんなところへ送られたら
すぐに果敢なくなってしまわれるのでは」
 ずんぐり婦人は細い目をいよいよ細くした。
「ご心配はご無用ですわ。公爵さまが特に躾けの必要を認めた女には、念入りに
延命措置をほどこし、繰り返し更生を試してやるのだとか」
 ずんぐり婦人は恍惚といってもいいほどの顔つきになった。母と同じく
この女も、目をつけた女をいたぶりぬくことに愉悦を覚える類の女であった。
ずんぐり婦人の口はますますよく回った。
「わたくし、公爵さまにお願いしておきましたの。公爵さまがその方を領地のお城に
引き取られましたら、わたくしも淫乱女を更生する側に加わらせてもらえるようにと。
そういった卑しい女には生半可な手では通じませんわ。念入りにその女のあそこを
かき回し、恥知らずの声を絞り出させて、反省を促してやるつもりですわ」
「ほほ、王さまが公爵さまのご領地にお入りになられても、王さまがご覧になるのは、
鉄枷を嵌められた哀れなめす犬の断末魔の姿かもしれませんわねえ」
 醜女たちは興味のなさそうなお上品を装いながら、ひそひそと笑みを交わした。
「美人で品がよくとも、それではその女もかたなしね」


 公爵のお渡りがない日、母は女の肌を傷つけぬかたちで、これ以上はないという
ほど残酷な仕置きを病の人へ集中して行うのを常としていた。その日もそうだった。
「奥方さま。母屋にお客様がおみえでございます」
「客」
 塔の地下室で母は鞭を片手に薄い唇をひん曲げた。
「約束もないのに誰だい。せっかく公爵さまがお城に引き取って下さるというのに
首をふってこの女が抵抗を示したので、罰してやっているところなのだよ」
 下男の手から名刺を渡された母は、ふと顔色をあらためた。
「ああ、それでは会わないわけにはいかないね。最高のもてなしで応接間に
通しておくれ。急いで棟にもどって仕度をしなければ」
 その客とは、国母の遣いであった。
 お目通りを叶えた今日の午前、ぼくは国母さまが最近熱中してご興味を
示されておられる、東欧の青磁器の話を国母さまにしておいたのだ。
「わが館にもいくたりか品がございます。国母さまのお目にかなうものがございましたら
きっと母は国母さまにそれを差し上げますことでしょう。しかし不調法者のわたしの
目には、それが本物かどうかも分かりません。国母さまが鑑定士をご存知でいらっしゃい
ましたら、本日の午後にでも、ぜひわがやへ検分に来ていただきたいものです」
 母が塔から出て行き、母屋へと足早に立ち去ったのを見届けて、ぼくは
医師が型をとってくれた鍵を使い、蔦の塔へと入った。
 驚いて止め立てしようとする見張りの下男たちへは、「母にゆるしを得たのだ」と
塔の鍵を見せて厳しく言うことで、全員追い払った。
 女が同性である女を性的にいたぶる時、それは男とはまた違う陰湿な方法を
とるものだ。それを誰よりもよく知るぼくの脚は、暗い階段を地下に降りてゆく間、震えて
ふらついた。
 地下牢の暗がりに、女の裸体がぼうっと白く浮いていた。病の人は両脚を拡げられた
かたちで板の上に拘束され、両足首に巻かれた鉄鎖は、左右の柱と繋がれていた。
白い乳房の先は金具の留め具で挟まれて天井からぴんと吊るされ、わり拡げられた
脚の間には、淫具の先が見えたままになっていた。
 残酷にも、母は、病の人をこのままにして立ち去ったのだ。
 痒み薬を性感帯に塗りこみ、身動きできぬように拘束し、正気の者でも発狂しそうな
痒み地獄に病の人を追い上げながら、女が口から泡をふき、白目を剥くまで敏感な
部分をいたぶりぬいて悶絶させる。ほんの些細な女の弱みも見逃さぬようにじろじろと
眺め、頃合をみては膣や尻の穴に淫剤を注入して、恥ずかしい体位のまま放置する。
それが母のお気に入りの嬲り方だった。
 床には使用済みの淫具が数本転がっていた。女の口には舌を噛まぬように
口枷が嵌められていた。さっきまで泣き叫んでいた女の顔は汗と涙で濡れており、
股間には失禁の水たまりがあった。
 ぼくは女の肛門から垂れている細鎖を引っ張った。中に押し込められていた
珠の先が窮屈に顔を出し、女の体液に濡れながら陰門から長くくびり出てきた。
それを引き出す間ひと珠ごとに病の人は酷く苦しんだ。途中で手を止めると、
らくになろうとして肛門が珠を自然排出する。その様子が可笑しいといって、母は
それに『淫乱めんどりの排便の芸』という名をつけ、客が来るたびに披露させていた。
「ほらほら、この女は自慰だけでは足りず、お尻の穴からも淫具を出し入れして
こうしてよがり狂うのです。縛っておいてもこうですからねえ。まったくどれほど
淫乱なのか。お客さまがお前のお尻をご覧になっているのだよ。もっと身をよじって
次々とひねり出してみせるのだ、この淫売女が」
 ぼくは病の人の鎖を解き、責具の類を全て外して、痒みを中和する薬を乳首や
陰部に塗り、その身を床におろして支えてやった。ぞっとするほど軽かった。
 ぐったりとして動かぬ病の人を、ぼくは両腕に抱きとめた。
 少年の日からの憧れの全てをこめて、ぼくは病の人の乳房に、瞼に、その唇に
接吻の雨を降らせた。白い膚の隅々にまで唇と指を這わせ、ぼくは、ようやくぼくの手に
戻ってきた病の人を、あらんかぎりの優しさで清め、抱きしめた。
 どれほど時が経っただろう。病の人は気を失ったままだった。ぼくは目から涙を拭い、
用意の短刀を取り出した。
 横たえた女の白い胸に片手をおき、ぼくは呼吸を整えた。地下室は静まっていた。
 意識なく首を傾けていた女が、その時、うっすらと目をあけた。
 かすんだ眸がぼくを見た。ぼくの姿をとらえて、そして病の人は微笑んだ。かすかに
正気を取り戻した女の唇が、小さくうごいて、その名をつむいだ。
「……」
 病の人は、父の名を呼んだ。ぼくの上に父の面影を見て、父に向かって微笑んでいた。
「あなた。この塔にいれば、きっとまたお逢いできると思っていました……」
 熱い涙がこぼれるのを、ぼくは止めることが出来なかった。ぼくは病の人をかき抱き、
臨終の父が最期に呼んだ病の人の失われた名をその耳に囁いた。愛してる、愛してる。
 病の人は小さな息をついた。その腕から力が抜けた。愛する男の腕の中で、
至福の笑みを浮かべて、音もなく露がこぼれるようにして病の人はことりと息絶えた。
 ぱちぱちと暖炉が燃えていた。冷え切った鉄鎖や水槽の水が地下室の床や
天井に薄い影をつくっていた。
 ぼくは病の人を横たえると、短刀をおのれの胸に突き立てた。


 月日が過ぎた。
 駆けつけた医師の手により一命を取り留めたぼくは、許婚と結婚後、今も変わらず
先祖が築いた河べりの館に住んでいる。
 王に付き合って狩りをし、舞踏会に顔を出し、年に一度は所領地を視察に回る。
王のお気に入りの遊興場は『雄鹿の館』で、王はぼくを誘っておしのびに出る。
また、王はぼくの館の蔦の塔にも、昔と同じように月に一度は通ってくる。
 ぼくは館の敷地外れに立つ古い塔に若く美しい女を幽閉しており、性奴隷として
気ままに使っている。貴女であれ、奴隷であれ、美しい女は貴族たちの間で
共有するのが粋な慣わしなので、当然その女もそうされる。
 ぼくは塔を訪れた客人たちに、女の脚を開かせて女の陰部をよく見せてやる。
「調教済みです」
「何でも言うことをきくかな?」
「試してごらんになればお分かりになります。絶対服従を仕込んでおります。どうぞ
ご存分にお愉しみ下さい」
 王だけでなく、他の多くの貴族たちも塔に通ってくる。
 ぼくは趣味がいいことで一目おかれており、ぼくの供出する女は、必ず高い満足を
彼らに与える。
「新しい性玩具を入手しました。試してごらんになりますか」
 いつでも差し出せる性奴隷を所有していることは、貴族の品格であり、財の誇示であり、
宮廷の人脈を渡る上での社交の強みだ。蔦の塔に幽閉してある女は、その為に使う。
 母は数年前に体中が黒くなる伝染病にかかり、この世のものとも思えぬ醜悪な塊と
なって死んだ。悪臭ただようその死骸は棺に入れても内部から膨張してガスを出し、
葬儀に参列した者はみな途中で逃げ出した。
 公爵は所領に帰り、後のことは知らない。
 幼妻との間には子がまだ出来ないが、妻は妻で、大勢の愛人と楽しくやっているようだ。
 湯船の中、ぼくは膝に乗せた女奴隷の乳房を揉む。その肉芽を湯の中で抓んでやる。
背後から貫き、両脚を拡げさせて痴態をとらせ、恥ずかしいことを口にさせる。
 女たちは蔦の塔に飼われている間、ぼくの手で、その足枷の錠を開閉される。
飽きたら、女を『雄鹿の館』に売り渡し、『雄鹿の館』の支配人に頼んで調達しておいた
新しい女の中から一人選んで、また蔦の塔に連れ帰ってくる。
 蔦の塔を訪れた客人たちが、四つん這いにさせた女の尻に、新式の責具を
嵌め込んでいる。可愛がられている女が引き攣ったなき声を上げている。
それを聴きながら、ぼくは塔の窓に目を向ける。
 曇った窓からは、灰色の河と空しか見えない。雪が降っている。この塔にいた女が
此処から見ていた風景は、白と灰色に閉ざされている。それは清い色だ。
 かつてこの塔にひとりの美しい女がいて、一人の男を愛し、愛された。
 曇った窓に、ぼくの顔が映っている。男たちに犯されている女の姿が映っている。
しかし振り返っても、その女はもうおらず、そして女が愛した男も、ぼくではない。



[蔦の塔 完]

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