ご注意:苦痛・流血をともなう本編の過激描写は、小説としてのフィクションです。決して人体に試さないで下さい。死亡・大怪我・病気に至ります。

少年王

■十幕


 脳裡の奥深いところで、雪が降っていた。 
雪は白く散り、赤く染まり、闇に消え、また白に変わり、視界を染めた。
 また斧が振りかざされ、雪の上に首が落ちた。
ルーティアに想いを寄せて、幾度となく熱心に恋文を送ってきていた
縁戚の若者の首だった。
 雪がルーティアの脳裡を染めた。冷たい目をした少年が向こうに立っていた。
少年がルーティアの方を向いた。意識は雪に閉ざされ、暗灰色となった。
 氷の花ごしの接吻。少年王の唇は、はじめて女にそれをするかのように、
ぎこちなく、何かをためらい、何かを探して癇症に苛立っていた。
女の方から自発的に応えて欲しいと願い、甘くやさしいことを、その裏返しの
ような性急で手荒なことを、繰り返した。
 応えることができなかった。
 滅ぼされた国の、生き残った女が、どうして征服者を愛せるだろう。
 それなのに、抵抗することも出来なかった。
強く抗うことは、もう出来なかった。王に明け渡すまいとする、亡国の
王女としてのなけなしの意地も誇りも、愛を拒む哀しみも。
 そのあたりで途切れているルデアの記憶は、それからの年月、いつも
後宮に通ってきていた猛々しい王のことを、誰とは認められなかった。
 王子はこんなにもお背が高くない。
 王子はこんなにも腕が強くない、胸がひろくない。
 王子はこんなにも。
 こんなにも、の続きはルデアの言葉にはならなかった。
もう二度と傷つけぬという約束の言葉は、あっさりと裏切られた。
血にまみれて床に転がっていたイチジクの枝は、ルデアの中から、
少年への思慕を、心を、少年王と通いかけていた女の何かを、
結ばれた果実ごとこそげとり、刃で潰し、王子の見ている前でルデアの
体内から掻き出していった。
 その間、王子は冷徹な顔つきで見ているだけだった。
「お前に、ルデアの名を与える」
 そう宣告されたあの日より、ルーティアは消え、若い王の奴隷だけが
異国の後宮に残された。首輪をかけられ、王の訪れを待つだけの女が。
 
 
 南の国の都に、あやしい画が流通しはじめた。
例にもれず、この国の裏路地にもその手のあいまいな宿がひしめいていたが、
売春宿と共存するそれらの店にその画が出回りはじめると、界隈を利用する人々は
奪い合うようにしてそれを入手し、娼館にまで持ち込んで、食い入るように回覧した。
いかがわしいことに目がない上流階級の貴族たちもその例外ではなく、元値の
何倍もの大金を払ってまでして、その画を求める者が続出した。
その絵には、題がついていた。
 『王を惑わしたる淫乱な女奴隷』
 王の名は古代の王の名に差し替えられ、そして画の中のはだかの女には
名がつけられてはいなかったが、人々はその性奴隷の名を察した。
 陰画であるから、女体の淫唇が閉じたところ、開かれたところ、その奥に隠された
細部まで、上から下から、あますところなく絵師の筆で細密に写しとられている。
細い腰から尻のまるみ、ほっそりとした体型がよく分かるような構図で、性交の
さなかの体位をうかがわせる絵もあった。
 ひそかに都に売り出されて始めたこれらの陰画は、後宮で王の寵を独り占めに
していると噂のあったルデアを描いたものなのだと、人々はすぐにさとった。
 それを描かせたのは、王妃だった。
「恥毛も残らず写し取りなさい」
 絵師を王宮に呼び入れた王妃は、ルデアの性器を克明に描きとらせ、それに
色を塗らせた。肉芽や肛門もその例外ではなかった。
 絵が出来上がってくると、ルデアの乳房を描きとった画の真上に、王妃は
焼き鏝をあてるように、印を押し付けた。
『王に不幸をもたらした淫乱な性奴隷』
 その見本画は集められた絵師たちの手でさらに大量に複写され、
そして、王を惑わした卑しい奴隷女の道具だてとして、裏筋にばらまかれた。
王妃はそういったかたちで、ルデアを何重にも辱め、晒し者にした。
「この女が、何でも咥えたがる淫乱女であることをよく分かるようにしなければ」
 縛り上げられ、絵師たちの前で股を広げた痴態をとらされているルデアを
睨みつけて王妃は目を細めた。王妃は、近くの卓から太い張型を取り上げた。
「それに相応しく、おしゃぶり中の画もいるわね」
 王妃はルデアの性器に淫棒を挿入して固定させた。
淫唇が固形異物を含んでいるその写生画は、花のつぼみに肉棒を押し込んだ
ような、痛々しい一枚となった。
 神秘と好奇心に包まれた後宮の女、しかももと王女であり、若い王の寵を
独占していた美しい奴隷女の性器画と挿入画は、闇から闇へと、とぶように売れた。
ルデアの画には肝心の顔がなく、首から下しか描かれていなかったが、人々は
男も女もその画に魅入り、これが王がお可愛がりになっていた王女のものか、
名器と名高いこれらの肉体を用いて、奴隷女は王を虜にしたのかと、ルデアへの
あらゆる感情を募らせた。
 王妃は人心をよく心得ていた。
 最初にルデアの性器画をばらまいておいて、王妃は次に、王宮内の
拷問室で尋問されているルデアの様子を描かせ、それを順番に売り出した。
縛られたルデアや、はだかにされて鞭打たれているルデア、
鎖で繋がれて四つん這いにされているルデアなどを克明に描かせておいて、
画の横には、
『王にわざわいをもたらした身の程知らずの奴隷に与えられた罰』
 と説明を書き添えることも忘れなかった。
 人々は舐めるようにしてその画に魅入った。奴隷女の白い肌に浮かぶ
鞭傷の痕を数えては、苦悶にゆがんだ美貌の女の想像にふけった。
 画に描かれた女の乳首は必ず大げさなほどにかたく勃ち、薄い色で塗られてあった。
『淫乱女の悦び』
 縛り上げられた乳房から乳首が突き出ている一枚は、とくに人気があった。
縛めの鎖の間に垣間見える白い乳房はかえって猥褻で、女の陰部の画とともに
人々の脳裡に奴隷ルデアの印象を強烈に強めることになった。
「これが王さまをたぶらかした女奴隷ルデアか」
「見ろよ、お仕置きを受けているのに、乳首をおったてて股を濡らしてやがる」
 性臭すら漂う気がするほどに生々しいその画を回し見ながら、人々は
感想を述べ合った。
「好色な、淫乱女め」
 娼婦や貴婦人たちは、目の前の女そっちのけで男が夢中になっているその画に
唾を吐き捨てた。


 王妃は宦官を使ってルデアに調教をほどこす一方で、怠りなく、自分に
忠誠を誓う者たちをルデアを使って試すことも続けていた。
 ルデアは王が寵愛する奴隷であり、その奴隷を辱しめることがそのまま
もう死んだと思しき青年王への見限り、神官長の後押しを受けて次の王となる
王弟への支持の表明になるとあっては、時流の機微に敏感な者で、その淫靡な
会合に参加しない者はいなかった。
「王をたぶらかした生意気な淫乱奴隷を、皆さま好みに再調教してやって下さいましな」
 被征服地にそうするように、王の女を支配し、屈服させ、言いなりにさせる
愉楽と錯覚につかまった男たちは、王妃に促されるままに無力な囚われ人である
ルデアのからだを開き、美しい一輪の花に群がる毒蜂の群れようにして、牢獄へ通った。
「卑しい家畜奴隷にふさわしく、肛門拡張を」
 前かがみにさせたルデアの白い尻を指して、王妃は彼らに細い棒を配った。
地下室に集った男たちは順番にルデアの肛門に棒を挿していった。
それ専用の性奴隷なら男の拳まで呑み込むほどに拡張される部分に
細い調教棒が一本二本と差し込まれていった。
「王女が苦しそうですが……」
「まだまだ」
 ルデアの肛門にぎっちりと棒が埋まってしまうと、その様子がおかしいと
いって、王妃たちは大いに嗤った。
 宦官の手で押さえつけられた女の尻からは、花束を逆さに突っ込んだら
こうもあろうかというように、挿し込まれた調教棒が何本も突き出していた。
ルデアは身を貫く痛みに冷たい汗をかき、息をするのも苦しそうだった。
男たちはそんなルデアを取り囲んで鑑賞し、その顔や乳房に酒を浴びせた。
「悦んでおられる」
「この次は淫剤を塗って試してみませんこと」
 王弟はルデアの悶え苦しみようにハラハラしていたが、いざ棒を引き抜く
段階になると、自らそれを受け持った。
「お頑張りあそばせ、王弟さま」
 愚鈍で醜男の王弟と、気品ある美人奴隷の構図がまた見ものだった。
王弟はいきなり鷲づかみにした棒束をこねくり回し、ルデアを泣き叫ばせた。
男たちはどっと笑い崩れた。
「王弟さま、そんなことをしたら、ルデア王女の尻が裂けまするぞ」
「きつくて取れない」
「一本ずつ引っこ抜くのです。押したり引いたり」
 王弟が棒を動かすたびにルデアはかぼそい悲鳴を放って突っ伏し、それは
全ての調教棒が女の肛門から抜き取られるまで、延々と繰り返された。
 ぼろぼろになって独房に戻されてくるルデアには、医師の検診が待っていた。
悪知恵だけには長けている王妃は、ルデアの肉体を痛めつけても決定的に
損なうことはしておらず、ルデアの美を保たせることで、男たちの興味を
うまく繋ぎとめていた。


 大使の前には、王妃からの招待状があった。
肛門拡張中の奴隷ルデアがようやく放尿芸を身につけたので、床に額を
すりつけて零したものを自ら舐めとる奴隷の淫芸をぜひご覧あれと書かれてあった。
 王の生存が絶望的になるにつれ、王妃はもはやルデアを捕らえたことを
大使に隠そうとはしなかった。
 大使は出席不可の返事を出した。
 王妃はこういった招待中を廷臣中に配っていた。
不在中の王をまだ支持する者の中にも、美しい奴隷への興味から顔を出して
みようかという者もあり、たいていの者はそのまま王妃王弟派に取り込まれて
戻っては来なかった。
 王妃は惜しみなく新客にルデアを与え、寝返りの証文とした。
 王がこのまま未帰還ならば、次王として即位するのは神官長の強力な
後押しのある王弟となるのは必定。そしてその場合は、政略結婚の保持の
必要性から、兄王の后であった東国の王妃がそのまま王弟の妻となるだろう。
王弟があれでは、神官長と、東の国から嫁いできた王妃のこの二人によって
その後の国政は左右されるのに違いなく、そうなれば、今のうちから
王妃に取り入るほうが得策というわけで、王妃はただルデアを餌として投げ出して
おきさえすれば、宮廷人たちの寝返りを促せるのであった。


「天井から吊るされて、片脚を大きく上げられたルデアちゃんは、不自由なその
格好で二穴責めされるんだ。お尻に淫具を突っ込まれたまま立居で潮を
噴かされたり、乳首や肉芽に錘をつけられたりして、毎日そりゃ酷いんだ」
 ちらちらと王弟は何かを言いたそうに大使を横目でうかがった。
「このままじゃ、ルデアちゃんが壊れてしまわないかと、僕心配なんだけど」
「この淫乱奴隷にイチジクの枝を挿れてやって下さいな」
 王妃の命令により、ただちにそれは果たされた。
その日はもっと小型のイチジクも用意され、枝の代わりに紐のついたそれは
ルデアの肛門に埋め込まれた。
 それはいいんだけど、後で抜き取れなくなってね、と王弟は肩をすくめた。
「大量の潤滑液を使って、ようやくイチジクは肛門から出てきたんだ。
出血もしたし、便もついてきた。石が詰まったように痛かったみたいで
後ろ手に縛られたルデアちゃんは男たちの足許に倒れ伏して、
おゆるし下さい、おゆるし下さいって泣き叫んで、可哀想だった」
「そういう淫芸があるのですよ」
 ため息をつきつつ、大使は説明した。
始末が悪いので、調教師がその場にいたとは思えない。
あとで王妃に無体なことをむやみに試さぬよう、注意をしておかなければ。
「奴隷の肛門に淫具を入れて、自力で排泄させるのです」
「王妃はその芸を仕込むと言ってた」
「馬鹿なことを」
 尻の穴は一度ゆるんで切れたら、二度と元には戻らない。
垂れ流しになった奴隷は、たいていは悪い病気にかかってほどなく死んでいく。
「王弟さま」
 大使は王弟に向き直った。
王弟さえしっかりしていれば、ルデアの扱いはましになるというのに、王弟は
すっかり王妃の言いなりのようで、王妃を前にするだけで卑屈になるのだから
期待はできない。それでも、大使は一応言ってみた。
「王弟さまは、今でもまだ、ルデアが欲しいですか」
「うん。新しいおもちゃを試してあげた」
 王弟は醜い顔を笑顔で崩した。
「ルデアちゃんはとても従順なんだ。王の命が危なくなってもいいのかと
王妃と神官長が揃って脅してやると、哀しそうな顔をして、何でも云うことをきくんだよ。
昨日など、兄上にそうするように僕たちにお尻を差し出して、
『どうぞお気の済むように可愛がって下さいませ』って。
ご褒美に、王妃と交代でいろんなおもちゃを半日かけて挿れてあげたんだ。
ルデアちゃん、下口をぱくぱくさせて、よだれもいっぱい垂らして、奥と前に
咥えこんだまま気絶するほどに悦んでた」
 だめだ、こいつ。
「あ、大使どこへ」
 最後の手段だ。東国の王に手紙を書いて、娘の王妃を叱ってもらおう。
早足に自室へ向かっていた大使は、王妃がルデアの醜態を描かせるのに
集めた絵師たちが廊下に集っているのを見かけて、足をとめて引き返した。
「何を描いているのかね」
 また王妃がルデアを使ってよからぬ猥雑画を描かせているのかと
写生されたものをのぞきに行った大使は、画を見るなり恐怖で髪の毛を逆立てた。
 大使はどなった。
「これは、いつのことだ」
 細部の仕上げ作業をしている絵師たちは、「今しがたのことです」と応えた。
それを聞くなり、大使は踵を返し、地下室目掛けて走り出した。

 拷問室の拘束台には先刻までルデアが繋がれていた鎖枷が揺れていた。
床にはルデアが失禁したあとがそのまま残されていた。全身から汗を噴出し
絶叫を放っていたルデアも、鎖が外された今は、びくんびくんとその身を
男たちが取り囲んでいる板の上で硬直させ、痙攣しているだけだった。
「家畜には、家畜印が必要。これでよい」
 室の片隅には赤々と焼けた石を詰めた炉があり、女囚に使われた焼印が
文字の数だけ刺さったままになっていた。
 そこへ止め立てする獄吏たちを殴りつけ、大使が地下牢に駆け下りてきた。
「王妃さま」
 大使は宦官の手で手当てをされているルデアの姿を見て、目を覆った。
ルデアの右尻に、死んでも消えることのないように一文字ずつ刻印された印。
それは清い雪の上に彫りこまれた穢れのように、大使の目にもはっきりと焼きついた。
 『淫乱な公衆便器』
「これで、この女はもう、王の前に出ることはできない」
 男たちが一人ずつ、ルデアに焼印を押し付けるのを見守っていた時の
ように、王妃はにんまりと笑んだ。その焼き痕はルデアの清楚な顔との
落差でもって、いっそう痛々しいものになっていた。大使は崩れ落ちるルデアを
両腕で抱きとめ、抱きかかえた。
「その便壷をお使いになりたいのなら、早速どうぞ、大使」
 王妃はルデアの首輪の鎖を大使に渡した。
「よく躾けてやりましたから、上の口からも下の口からも、一滴残らず
 腰をふって飲み干しますわよ」
 すれ違いざまそう言い放つと、王妃は勝ち誇り、高らかに笑った。
 

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