ご注意:苦痛・流血をともなう本編の過激描写は、小説としてのフィクションです。決して人体に試さないで下さい。死亡・大怪我・病気に至ります。

少年王

■四幕


 王妃の侍女か。近う。
 あの奴隷女には、膣にイチジクの枝を入れてやると脅してやるとよい。
何でも言うことをききますぞ。
 まあ、神官長さま。それはよいお話をありがとうございます。
 ふひひ、水桶に血だらけの恥部を映してかよわく王女が泣き悶えていた様は、
あらゆる美女の淫芸を見てきたわしの目にも、忘れられぬものでしたぞ。
 神官長さま、もう一度見たいとはお思いになりませんこと?
 なになに、いまのは戯言。
 神官長さまと王妃さまが手を組めば叶いますわ、きっと……


 その夜の宴は、異様な雰囲気に包まれた。
若さよりはすでに威厳ある風格の王の姿に客人がひれ伏し、仰ぐのは常のこと。
その隣りの若き王妃も、嫁いでまだ三月にも満たぬというのに、東国の姫らしい
高慢さを隠すことなく、内心で何を思うのか、表情の薄い仮面笑顔で宴を高みから
見下ろしている、その晩だった。
 あれは……。
 客人たちの目は、王と王妃の目を盗みながらも、ちらちらと、どうしてもそこに
向かわずにはいられなかった。
 踊り子たちがあでやかな舞を披露しているその向こう、王座の柱に鎖で
繋がれている、美しき獲物を。
「これなるは、偉大なる王が王子の頃に征服せしめたる北国の王女。
王の奴隷として後宮にいる女なり。名をルデア」
 王が狩りの折に得た珍しい白虎や、顔が二つある猿などの披露に続いて宴の間に
引き出されてきたのは、うら若い、そしてたいそう美しい女奴隷だった。
「ルデア?」
「ほれ、数年前にも一度、王が酌をさせたことがある、あの女奴隷」
「まだ生きておられたのか」
 ルデアには首枷が嵌められており、その鎖の先は宦官が握って持っていた。
口上が終わると、ルデアは宴の間を引き回されてから、王座の隣りの柱に鎖で
くくりつけられた。宴の間、晒し者にしようというのである。
 癇症な笑い声がふってきた。
「獣と同じく、はだかにさせればよろしかったのに」
 王妃だった。
 それに迎合して、女奴隷の美しさに息をのんでいた宴の間は笑いに包まれた。
 女奴隷ははだかでこそなかったが、薄もの一枚しか与えられていなかった。
白い薄絹を透かしてそのなおやかな肢体の線が、腰の細さとともにはっきりと見えた。
立ったままの姿勢で柱に繋がれたその両手両脚には、重たげな鉄枷が嵌められて、
両腕は柱の後ろに回されていた。
 ルデアは伏目になったまま、風にもたえぬといった風情で、客人たちの好奇の目に
耐えていた。その姿は、まるで今から火刑にかけられる女か、神話の怪物に
差し出されようとしている生贄の乙女のようだった。乳房もあらわな踊り子たちや、客人に
はべっている女官たちの腹の出た格好よりも、かえってずっと隠微にみえた。
ルデアのもつその初々しい恥じらいと処女性、あれが亡国の王女であるという
痛ましさは、加虐性の強い王妃にとって、何よりのご馳走だった。
 何よりも客人たちの目を奪ったのは、女奴隷の際立った美だった。
すらりと伸びた脚も、首輪をはめられた細首も、結い上げた髪も、鎖で固定されている
二の腕みせる弱々しい白さも、宴の喧騒を離れた、何かの花か、清浄に見えた。
身を覆うものを他にはもたず、乳房を目立たせるように胴体にも鎖をかけられた女は、苦しそうに
目を伏せてどこも見ようとはしていなかったが、人々の視線はその女の身を貫いていた。
「皆さまがた」
 王妃が立ち上がった。
新婚の直後から、一種の不気味な性格の悪さでもってあっという間に宮廷の人心を
恐怖で支配してしまった王妃は、この国の王妃に相応しい態度でもって切り出した。
王妃の扇がすっと真横に流れた。
「いかが。そこにいるもの。稀にみる美しい奴隷ではありませんこと」
 戦に敗れた国の王女に対して、それは配慮のない、残酷な侮辱だった。
ルデアよりも若い王妃は、さらにつけつけと言った。
「お優しいわが王は、わらわの願いを聞き届けてくれました。
今宵一晩、奴隷ルデアを後宮より連れ出し、こうして皆さまの前に披露することを」
 『奴隷』というところに、王妃は力をこめた。
「さて、余興ついでです。皆さまの手元にあるそのお酒を、順番に、この女奴隷に
与えてやってはもらえぬか」
 いったい王妃は何を言い出すのか。
宴の座に出ていた大使は、敷布の上で手にしていた杯を取り落としそうになった。
なじみの女官が慌ててそれを受けた。
さては夕方、王妃のご機嫌うかがいに赴いた時に王妃がこのことを黙っていたのは、
大使に言えば反対されると思ったからに違いない。
「今宵は、王とわらわの婚姻の祝いの宴」
 あっけにとられている広間を見回して、王妃はまだ若い声で、かん高く笑った。
「この哀れな奴隷にも、祝い酒を与えてやりたく思うだけですわ。
そしてそれは是非とも、征服者であるこの国の方々の手で行われるべきです。
さ、一人ずつ」
 王妃は端にいた大臣へと視線を移した。
うろたえて、大臣は王を見た。
王は無言だった。王妃の言うとおりにせよというのである。
 さすがに惨いと思ったものか、女官が難しい顔をして大使の顔を見た。
「大使さま、あの王妃さまは……」
 女官がぎょっとしたことに、大使はもっと深刻な顔をしていた。
「新たに王妃が廷臣の間に配っているあの酒に」
「え?」
「王妃が、毒でも混ぜていなければよいが」
「まさか」
 女官が口をおさえて叫んだ。百人を超えるこれだけの人数である。
もし奴隷が毒殺されたとしても、誰がどの酒にそれを混ぜていたのか、
犯人を見出すことは容易ではない。
 大使は思い直して首をふった。
「いくら何でも、王の奴隷に手をかける真似はするまい。もし混入するとすれば
せいぜいが淫剤だろう」
「さあさ、皆さま、どうぞ」
 最初の大臣を皮切りに、人々は立ち上がって、柱の前に列を作り出した。
「奴隷には挨拶をさせなければ」
 にたりと王妃は笑った。
「奴隷、盃をいただく前にこうお言い。『お情けを下さいませ』と。お前がいつも
後宮ではしたなく王におねだりしているようにやってみせるのだ」
 怯えた顔をして、ルデアはこちらに迫ってくる広間の男たちを見、それから王妃を見、
王妃の冷笑からびくりと目を逸らして、助けを求めるように上座の王を仰いだ。
 王は、片頬杖をついたまま、ちらりとルデアを見たが、宴からも離れた一点を
見つめるようにして豪奢な王座から動かなかった。
「これは王のご命令です!」
 勝ち誇った王妃の声が、鞭のように宴の音楽を断ち切った。
「よいのですか、大使さま」
「これは様子をみるしかない」
 大使は小声で女官に囁き返した。
 王妃が王の寵愛する奴隷を殺めでもしたら、一気に外交問題である。
しかし王がこの蛮行を余興として認めている限りは、大使には何もできない。
 

 男たちは縛られているルデアに酒を呑ませていった。
唇に盃をあてられ、酒を流し込まれている奴隷は、身動きすることもできずに
与えられるまま、それを嚥下するしかなかった。小さな声の哀願が、ひそやかに
宴の間に虚しく流れた。
「お情けを下さいませ」
「お情けを下さいませ」
「お情けを下さいませ」
 盃は小さかったが、数名が過ぎた時には、もうルデアは苦しい息をついていた。
唇に押し込むように呑ませる者もいれば、頤に手を沿え、そうっと呑ませてやる者もいた。
男たちは誰もが、鎖に縛られている女のその美しい顔から目を離さなかった。
「お情けを下さいませ……」
 次々と呑まされる酒の効果で、ルデアは目が潤み、色っぽく声がもつれてきた。
ルデアに酒を呑ませる男たちの列はまだまだ続いていた。
零れ落ちた酒が女奴隷の口許を濡らし、首筋を濡らし、肌着を濡らした。
濡れて透けた薄衣では、ルデアの肌の色を隠せなかった。
「さあ、どうぞ。王女さま」
「肌が透けておりますぞ。乳首の色も」
 男たちはしだいに、わざと衣の上に酒を零すようになった。またたく間にルデアの
短い衣は酒に濡れ、ぴったりと白い肌にはりついた。酒に冷やされることで
その寒さに女の乳首がたった。鎖に縛られて喘いでいる美しい女奴隷は
極上の出し物となって、宴の昂奮を煽った。
「おほほ。しっかりわらわたちの婚姻の祝い酒をいただきなさい、奴隷」
 王の手前、客人たちはルデアの肌には指一本触れなかったが、その代わり、
酒に濡れぼそる女体を濁った目でたっぷりと視姦した。
 行列の中ほどが過ぎた。大使の番が巡ってきた。
「王女さま」
 大使はぐったりとしている王女に囁いた。
「王女さま。おひさしゅう。東国の大使でございます」
「お情けを下さいませ」
 大使が誰か分かっていないような、ぼうっとした目だった。鎖が音を立てた。
酔いに苦しめられて、小さく王女は喘いだ。
「わたくしに、お情けを下さいませ」
「今宵は、以前のようには嫌がらないのですね」
 数年前、尻を上げさせられた格好で男を拒んでいた王女は、潤んだ眸で大使を仰いだ。
大使は盃をルデアの唇にあてて、そうっと呑ませてやった。
それから断固たる態度で、しかし表情は晴れやかに、大使は王と王妃の前に進み出た。
「おそれながら。見たところ、王の奴隷は酒に弱く、もう限界のようです」
 王妃の目が吊り上るのを無視し、大使は王に向かって言った。
柱に縛られたルデアは素足で床を踏みしめていたが、鎖が支えていなければ、今にも崩れ
落ちそうだった。
「せっかくの遊びに水を差すようではございますが、これまでにされたほうが
よろしいかと存じます」
 東国大使の進言に、王は無言で頷いた。


 王妃が王の女奴隷を後宮から引き出してきて晒し者にしたその晩の宴は
宮廷の語り草となった。
 王妃のいたぶりには、次なる趣向が備えられていた。
王妃は、王女ルデアに集客の前で排尿行為をさせたのだ。


 大使は居並ぶ列席者の中に、以前、王の間で見かけた顔をとらえた。
「あれは、王弟さまですわ」
 女官が教えた。大使は怪訝な顔を王弟に向けた。四年前には見たこともない。
「そんな王族男子がいたのか」
「誰も認めてはおりませんけれど」
 女官はひそひそと事情を打ち明けた。
「先王のご病状がいよいよ危ういという時に、神官長が突然に王都に
連れてきましたの。先王がまだご壮健であった頃に、辺境貴族の娘に
生ませた王子だとか言って。
もうろくした先王は、神官長が勧めるままに、実子だとお認めになったのですわ。
それ以来、宮殿に一室を与えられて住んでおりますの。でもどう?
異母弟さまといったところで、ちっとも兄王さまに似ておられないでしょう」
 どうやら王と王弟の容貌や気性の差については、宮殿中でいい物笑いに
なっているらしかった。精悍な狼のように体格のよい美丈夫な王と比べ、王弟は
鈍そうにずんぐりとしており、あばた面。兄王が酷薄な猛禽ならば、弟はだらしなく
口を開けっぱなしにした醜怪な野豚といった具合。
 その野豚が、その小さな目で先刻からしきりと柱に縛られている女奴隷をちらちらと
粘っこく見つめているのが、大使の注意をひいた。
「先王のお胤だと信じる者など誰ひとりおりませんわ。ですから王弟さまとして
尊敬を払われることもなく、ああして、一貴族の待遇で宮廷に寄宿されておりますの」
 そうする間にも、広間の中央に、何かの用意が始まっていた。
奴隷が捧げ持ってきたのは、金盥だった。
「恥しらずの奴隷がどうやら、もよおしているようですわ」
 つめたい目と獲物をいたぶる悦びに引き歪んだ唇で、王妃が注意を促した。
あれだけの酒を呑まされれば、当然のことになる。鎖で縛られたルデアは先刻から
切なげに脚を寄せ、身をよじるそぶりをみせていた。
「鎖を外しておやり」
 利尿作用のある薬が酒に混ぜられていたものと、大使は気がついた。
王妃の真の狙いはこれなのだ。
「盥を跨がせて、這い蹲らせるのです」
 金盥は王座の真正面に設えられた。
 宦官たちの手でそこまで連れて行かれ、王と王妃の方に尻を、客に顔を向ける体位で
金盥を跨がされたルデアは、いやいやするように最後の抵抗で身をよじった。
その膀胱は限界にきていたが、王女は生まれ持った品性でそれに耐えた。
前のめりに床に顔を伏せるようにして、首輪をつけられたルデアはびくりびくりと内腿を
ふるわせながら、それを我慢していた。
 心得て、宦官たちはルデアの鼻をつまみ、冷たい水を無理やり飲ませた。
「……あッ」
 無理やり開花させられるつぼみ。それは我慢できるものではなかった。
固唾をのんで見守る男たちの前でついにそれは決壊した。
 金盥に落ちてゆくその最初の音が、雨のように、大きく響いた。
 たおやかな美女の尿口から勢いよく噴出してきた小水に、大広間中が
しんと静まり返った。ルデアは膝と腰をずらし、羞恥に目を閉じた。喘いでも
生理現象からは逃れられなかった。大量に飲まされた酒の作用を男たちの前に
陰部から排出する他、女はもはやそれを止めることも隠すことも出来なかった。
 両脇の宦官がルデアの衣を胸のあたりまでめくりあげた。半隠しになった乳房が
かえって卑猥だった。
「ほほほ。あのように大量にしゃあしゃあと。はしたない!」
 勝ち誇った王妃が笑い声を上げた。
 流れ出していたものがようやくおとろえ、そして雫となるまで、見守る
男たちはぴくりともせずに、その音を聴き、ルデアの姿態を見ていた。
 排尿が終わるとルデアは引き上げられて股を拭われた。奴隷が不浄物の満ちた
金盥を掲げ持ち、美女の尿を客人たちの間に見せて回った。
 ルデアは鎖ごと宦官に抱き上げられて、宴の間からはこび去られた。

 宴の間に、音楽と踊りが戻った。
廷臣たちは、一様にほうっとため息をついた。
淫虐の宴には慣れっこの彼らであっても、王が寵愛する女奴隷が王妃の趣向によって
後宮から引き出され、宴の余興に辱しめられたいまの一幕は、格別であった。
彼らの脳裡には、濡れた衣がはりついた女奴隷の肢体と、白い尻、
桶を跨がされていた被虐の姿態が焼きついていた。
残されたルデアの尿を間近で嗅いでみる者もいた。王弟もそれは例外ではなかった。
金盥に鼻を突っ込むようにして、王弟は何ごとかを堪能していた。
 ざわざわと客人たちは感想を述べあった。
「しかし、あのように美しい女だと放尿も麗しいものですな」
「宦官の手で赤子のようにお尻を拭われていた時の、あの切なげなお顔」
「頬を染めて、息も絶え絶えといった様子でしたな。絶頂のあとのような」
なんといっても、最後にこぼした涙がよかった。
羞恥の極みを強要された女奴隷は、連れ去られる前に、堪えきれずに泣き出したのだ。
すすり泣いている女奴隷は、公開排泄の淫芸の印象を払拭するほどに、清らで可憐だった。
「乳首がつんと勃って」
「王がご寵愛になるのも無理はない……」
「これでルデアが子を孕めるのならば後押ししてもよいのだが……」
「まあ、使い捨てでしょうな」
「それにしても一度くらいはルデアさまのもてなしにあやかりたいもので。わしの肉棹を、こう」
 宮廷人たちの隠微な囁きをききながら、大使は気が気でなかった。
王妃はまずいことをした。なぜ、気がつかぬ。
 大使の目は王座に向かった。
 ルデアが連れて行かれた後も、王は変わらず王者然として王座に構えており、
その顔からは何ひとつ、何を思うのか伺えなかった。
 しかし翌日から、夜における王の王妃への訪れは、ぱたりと途絶えた。


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