ご注意:苦痛・流血をともなう本編の過激描写は、小説としてのフィクションです。
決して人体に試さないで下さい。死亡・大怪我・病気に至ります。



Любовь


◆第三話


 森の中に獣を追い回していた狩猟の名残で、男の本性はみな
狩人だという例の説は、いったい誰が言い始めたのだろう。
奇想天外な神話のように、いかにももっともらしく聞こえるので、いつの間にか
そういうことになっている、口承のようなものだろうか。
 ともあれ、男は気を惹かれる女がいれば、さして乗り気はしなくとも
それが女を喜ばせるというので甘い口説き文句や贈り物で関心を繋ぎ、
何とかして意中の女を手に入れようとする。
涙ぐましいその努力の力の源となるものは、最初から最後まで、狂おしいほどの
本能的な欲望であることには違いない。
 僕の生まれた時代は、上流の夫人は足首を見せてはならず、女は性的な
事柄からは隔離されて育てられ、生娘で結婚しては、夫の庇護のもと、
老婆となるまで愛らしい無垢で無知な少女のように振舞うことが、最上の
美徳とされる時代だった。
 美徳もへったくれもないものだ。単に、それが金と地位のある男の
すけべな願望の一つに叶っていたからだろう。
 僕の祖父が若かった頃などは、大きな農家に行けば、小作人たちは
男も女も年齢に区別なく、藁にまみれて納屋に並んで眠り、祭りともなれば
誰かれかまわず暗闇の中で輪姦に励み、誰が父親か分からぬ子供が
そこらじゅうにいたそうだ。
 たとえに出すのも憚られるが、某宗教家とて、清い子羊として生きんと
あれほどに唱えていたものが、信徒を率いて新天地を求める苦難の旅の途上、
結果的に洞窟の中で乱交、もとい、神に認められた愛の行為を信徒たちと
繰り広げたではないか。それが人間の本来なのだろう。
 集落の秩序と教育と宗教が、動物的な奔放と生命が求める本性を縛り、
教会の定めた婚姻がそれに美々しい名目を与えることで、それらは
表むきは鎮まったかのようにみえる。
 だけど僕はもう知っている。
男の中に熱く渦巻いている狩猟本能は、面倒くさい手順や、約束、様々な
制約を、いつでもかなぐり棄てたいと望んでいるのだ。
 教会の教えにまっこうから背くようだけど、「ない」とはとても言えないのだ。
人間は、もともと残酷で利己的で、欲望のままに振る舞い、本能を優先して
創られているけだものだ。それはいくら社会的な体裁を整えようとも、後に僕も
通うようになった娼家において、身分や地位に関係なく悪趣味を満たしている
紳士諸君の実態が、何よりも雄弁に教えてくれることだった。
 それは情けなくも、免れ得ない、人間であることの罪だった。
破廉恥なことに耽る時のあの、酩酊こそが。


 マロニエの並木道は、今日も涼しい緑の影を街路に落としてた。
 まともな恋をしよう。
 水車小屋でのことは、穏やかで健全な日常に立ち戻るなり、たちまちのうちに
何かの間違えた汚れとなり、黒くすすけた不潔ごと、押やって忘れるべき
汚点だと、僕は思うようになった。
 あれほど僕の心を占めていたイリーナの美貌も、評判の悪い男たちに
おとなしく犯されるままになっているあんなところを見ては興ざめもして、
もう軽蔑と嫌悪しか覚えなかった。
 街の女たちは、水車小屋にすみついた乞食娘のことをそれとなく
いつの間にか、知っていた。亭主が、息子が、恋人が、水車小屋に通って
そこで何をしているのかも、ちゃんと把握していた。
 無論それは僕の母のような上流の奥方ではなく、おかみさんと
呼ばれる類の、かしましく、いじましい、下層階級の女たちだ。
 女たちは仕事と家事の合間のお喋りの中に、思い出したように声を潜めて
水車小屋の乞食娘についての噂を交換し、詳細を煮詰めていった。
「うちのが、時々台所から肉や野菜の余りをまとめて、こそこそと
夜になってから外に出て行くと思っていたら、まあ」
「うちも一緒よ。妙に仕事を早く終える日があると思っていたら、
そっちへ通っているらしいのよ。にやけた顔をして、腹が立つわ」
 女たちは、イリーナの名も知っていた。
「どこかの街でヘマをして元締めに追い出された娼婦じゃないの」
「違うわ。乞食よ」
「生まれつきの、卑しい乞食よ。食べ物がもらえることに味をしめて、
水車小屋から動こうとしないのよ。すっかり乞食家業が板についているとみえて、
訪れる男がいると食べ物をねだって、媚びた芸をしてみせるそうよ」
「もとは行きずりの芸人が置き去りにした子供かねえ」
「男たちが通うだけあって、見てくれと、あっちの具合は、とびきりだって話だけど」
「ふん」
「なにがイリーナよ」
「うじ虫にも名前があったの」
 女たちは、荒れた足で、ぎりりと洗濯物を踏みつけた。

 だから僕も、あんな乞食女のことなど、気にすることはない。

 脳裏に踊るイリーナの肉体から目を逸らすようにして、僕は自分に言い聞かせた。
何でもないことだ。あれは娼家や、場末の見世物小屋で行われている類の淫芸だ。
何の問題もない。僕はそれを少し早く見てしまっただけだ。
 尻に使われたねじれ飴をおとなしく唇で迎えていたイリーナの美しい横顔を
脳裡に思い浮かべ、僕は何とかして、イリーナを嫌おうとした。
 やっぱりイリーナは淫乱な乞食娘だった。餌を求めて、誰にでもああするのだ。
ボリスも言っていたではないか。
「犬のちんちんの格好を教えてやるために、二日間、絶食させたんだぜ」
 イリーナは舌を出してボリスとグレゴリの前でそれをやったそうだ。
きっと潤んだ眼をして、彼らが与えるものを懸命にしゃぶったことだろう。
「イリーナに言葉が喋れたら」
 今後どうひっくり返っても上流階級になることも金持ちとなることもないであろう
ボリスはぐつぐつと笑った。
「ご主人さまと言わせてやるのにな。犯してやる度に、『ありがとうございます、
ご主人さま』とな」
 忘れてしまえ、イリーナのことなど。そして、僕の育ちにふさわしい、まともな
女の子と付き合おう。
 善悪の大揺れは当然ながら善が勝ち、日常と非日常の刺激は、考えれば
考えるほどに日常の安寧が勝ちを占め、そうと決めると、僕はほどなくそれを
実行に移した。
 登下校の途中で見かけては胸をときめかせていた馬の尻尾は、名をポーリナといった。
ポーリャは僕の勇気を振り絞った誘いを、三回も(!)慎み深く辞退した挙句、
ようやく交際を承知してくれた。
 僕は有頂天だった。

 欺瞞の日々は、すぐにひび割れた。
いかに真面目な少年面をしたところで、神様は、成長期にある僕の偽善と
身に潜む汚らわしさをよくご存知だ。
 僕を呼び止めたボリスが、建物の影で、口を広げた麻袋の中身を見せた。
「何か分かるか、ミハイル」
 袋の中には、手錠と首枷が、重たげな鎖ごと折り重なって入っていた。
 ボリスは下品に嗤って袋をじゃらじゃらと鳴らしてみせた。
ボリスは鍛冶屋で働いている。そこで家畜用のものを改造して作ったのだろう。
「イリーナに使うのさ」
 案の定、ボリスはそう言った。
「水車に四肢をくくりつけて固定してやると、もう逃げないからな。
張型で責め抜き、ひいひい泣かせてやる」
 兄貴分のグレゴリは、採掘場に出稼ぎ中とかで、その日のボリスの連れは
鍛冶場の下男たちだった。
 似たり寄ったりの小汚い男たちはこれまでにもボリスと共に何度かイリーナを
使ったことがあるようで、陰湿な期待に、その目をどろりと濁らせていた。
 鉄製の手錠と首枷を肩に担ぎ上げ、彼らが村はずれの水車小屋へと
向かうのを、僕はイリーナへの淫靡な希求と、女体への潜在的な渇望をたっぷりと
おのれ自身に思い知りながら、切なく苦しく、見送った。
「……水車小屋の、乞食娘の話だけど」
 倉庫には集まった少年たちの、見聞を持ち寄った艶話はしだいにもっと
きわどいものになり、噂話は今日もそこへと帰着した。
 当たり前といえば当たり前ながらも、美貌で、乞食で、淫売で、手の届く
距離にすんでいる若い女となれば、興味津々にならぬわけがない。
「この前自転車で近くまで行ってみたんだけど」
「どうだった」
「小屋の中から女の子のすごい悲鳴が聞こえてくるから、怖くなって帰ってきたよ」
「悲鳴か」
「可哀想にな。食べ物が欲しくて言いなりになっているんだろう」
「違うだろ。うれしいのさ、あれをされるのが」
「悲鳴だって」
「区別くらいつかねえのかよ」
「絶叫を上げるほど泣いて悦んでたんだろ。こうやってあれを咥えて腰をふってさ」
 学校の倉庫でいくら細部を論じても、しょせんは想像の範疇だった。
中には、すでに経験豊富な女中とそれを済ませている者もいたけれど、それは
ほんの一握りだった。苦心の末に学校の教師が思春期の少年たちに教える性教育の
イロハとは、当時実にお粗末なものであり、それはどこか童話めいてすらいた。
『女性の腰には蜜をたたえた蜜壷があり、発情すると、お前たちの性器がそこを
満たすように出来ている。』
 誰が言い出したのか、ではみんなでくだんの乞食娘を見に行こうと決まった。
おそらく彼らの頭の中にある想像のイリーナとは、街で見かける老いた乞食と
あまり大差のない、人間のかたちをしているだけの雌なのだろう。
級友の相談を横目に、僕は黙って天窓の埃を見上げていた。
「先客がいたら?」
「その時は、覗き見だ。小屋の壁に割れ目がある」
 彼らはまるで楽しい遠足を計画するように、計画を整えた。
当時はやっていた清潔への概念から、「乞食に触れるべからず」を確認しあい、
あくまでも一目イリーナを見るだけであることを、彼らは互いに確かめ合った。
 誘われた僕は、断った。
「野暮だな、ミハイルには恋人がいるんだから」
「ああ、馬の尻尾のあの子ね」
 弾む足取りで水車小屋へと向かう彼らを見送り、僕は、イリーナが僕だけの
秘密ではなくなるような寂しさと、まるで僕の恥部を覗かれるような
落ち着きのなさを覚えずにはいられなかった。だが僕は、苦々しいそれらを
胸のうちで潰した。
 僕はひとりで家に帰った。
 夕食を食べ、馬の尻尾に明日渡す手紙を書き、母からおやすみの
キスを受けて、女中が火のしで温めてくれた、洗い立ての清潔な敷布の
中にもぐり込んだ。
 寝台の中で、僕は寝つくまで、ポーリナのことや、幾何の宿題のことを
考えようと努めた。しかし蓋をしても蓋をしても持ち上がってくる、こまやかな
泡をたたえた炭酸水のように、きれいなイリーナの面影は僕のうちに溢れては
かよわげに壊れてはじけ、その夜も、僕の夢の底から消え去ることはなかった。


 見舞いに行くだけだ。
 自分にそう言い聞かせた。
 僕は鞄の中に、傷に効く軟膏をしのばせた。ボリスたちに手錠を
架けられたのなら、きっと怪我をしているだろう。
「何処に行くの、ミハイル」
「どちらへ、ミハイルぼっちゃん」
「図書館」
 母と女中に肉と野菜をはさんだ簡単な弁当を作ってもらうと、それも
鞄の中に入れた。 
  ----すごいものを見たなあ。あれ、下町の職人たちだろ?
  ----噂以上の美人だったな。声もいいし。やらせてくれるかな。
  ----バカ、泣き叫んでいたじゃないか。
  ----食べ物と引き換えの奉仕なんだから、仕方ないよ。
 きっと僕は自覚している以上に、嫉妬深いのだ。男の心理は単純なようで
複雑で、これ以上、学校の友人たちに先を越されたくなかったというのが
偽らざるその時の本音だったろう。
  ----つまり、やれるってことだろ?
  ----別に悪いことじゃないだろ。イリーナの為にもなるんだし。
    あの娘は、脚を開けば、その奉仕に見合うおまんまがもらえることを
    身をもって覚えたのさ。
「病気に気をつけろよ」
 横を向いてそう吐き捨てたのは、髪にきっちりと櫛を入れた生徒だった。
「乞食どもは、うじ虫を体内に飼っているからな」
 彼の名はエフゲーニーといって、母方は彼曰く、生粋のゲルマンだった。
家の教えを素直に受け継いだ高慢さを隠さずに、エフゲーニーだけは
騒いでいる少年たちを白い目で見ていた。
一片のあたたかみも他の価値観の入る余地もない、自らの正しさを
信じて疑っていないあの狭量な、自信に満ちた顔を、僕はいまでも思い出せる。
エフゲーニーはナイフで鉛筆の芯を尖らせる作業に戻った。
「不潔な乞食女など家畜よりも劣る。鞭をくれて、せいぜい身の程を
思い知らせてやるんだな。それにしてもお前たちはのんきだな。
もうすぐ世界を清浄化するための戦争が始まるっていうのに」

 ここに、寄る辺のない少女がいて、からだを差し出す代わりに
食べ物をくれと言ったなら、僕は黙って少女にお金を遣るだろう。
十分すぎるほどに遣るだろう。エフゲーニーはそうする代わりに、少女を
足蹴にして追い払い、武器を持っているのならば、ためらわずに乞食の
少女を射殺するだろう。下町のおかみさんたちよりも酷い言葉で罵ることを
彼ならば一片の良心のいたみもなく、権力や権威の影からひやひやと
居丈高にやるだろう。エフゲーニーのような人間は人間らしい心を持たずに
外面だけを整えて育ち、規律規範で他人を裁くことが大好きな、一種の
先天的な異常者なのだ。
 それなのに、僕はこれから、イリーナの許に向かおうとしている。
神様の前にざんげをする資格もない、一匹の雄となって、イリーナという
乞食娘に僕は、何かを求めようとしてる。
「よう、ミハイル」
 その夕べ、小屋の中には、採掘場から街に帰ってきたグレゴリ一人しかいなかった。
 ちょうど済んだところだといい、グレゴリは煙草に火をつけた。半壊になった
水車小屋の屋根からは、その日の赤い夕焼けが、爛れた色でのぞいていた。
「イリーナを使いに来たなら、空いてるぜ」
 グレゴリが僕にそれをけしかけた。その足許で、イリーナはうつろな眼をして
横倒しに倒れていた。上半身ははだかで、細い腰を申し訳程度に
隠している布からは、すらりとのびた二本の脚が、今しがたグレゴリが
放ったものをこびりつかせて、膝頭をふるわせていた。
 誓って言えることが一つだけあった。言い訳にしようとも、それが
理由になるとも思わないが、せめて繕いたい。
 僕は相手がイリーナでなければ、断じて、此処には来なかった。
「イリーナ。ミハイルがお前にご馳走を持ってきてくれたぞ」
 グレゴリがイリーナの髪を引っ掴んで引き起こした。
ううん、と小さくイリーナが呻いた。イリーナの足指の爪は、薄色の貝殻を
並べたように小さかった。
  グレゴリは、僕が持ってきた弁当を鞄から勝手に取り出すと、
そのうちの一つを自分でむさぼり食べた。やがて食べ終わると、僕がまだ
動けずにいるのをなんとみたか、グレゴリはこういう時に経験者の男が
よく浮かべるあの表情、「仕方ないな」と言いたげな、侮りと、共感と、余裕からくる
親切心をちらりと出して、僕の代わりに、僕の見ている前でイリーナのからだを
ひっくり返した。
 グレゴリは僕に、イリーナの前に回るように指図した。
「淫乱女の可愛いお顔をよく見ておけよ」
 グレゴリは決してイリーナと抱き合わず、いつも背面から犯すのだということを
僕は思い出した。
 イリーナの下着がはぎとられた。
 ああ、ん……。
 それは、痛いような甘いような、はかない女の声だった。
苦しんでいるのか、悦んでいるのか、分からなかった。グレゴリは腕を伸ばして
イリーナの中に指を差し入れ、背後から抜き差ししているのだった。
 ほどなく、グレゴリの手淫に促されたイリーナは、ぱたぱたと淫水を
ふり零しはじめた。それを合図としたように、すでに過敏に出来上がっていた
イリーナは堪えきれずに唇を開き、赤く染まった小さな声で、僕の前でなきはじめた。
 女の膣に潜り込ませた指を動かして、グレゴリがイリーナをさらにいじり上げた。
イリーナが顔を伏せようとすると、グレゴリの手がイリーナの髪を掴んで、上を向かせた。
「お前の淫乱ぶりをこのおぼっちゃんによく見せろ」
 身をよじらせながら、イリーナは逃げ場を求め、いやいやをするように首を振った。
イリーナの身体を挟んで向こう側にいるグレゴリは、イリーナを深くえぐり、浅く擦り、
女体を自在に呻かせて、捏ね回しているように見えた。
見ようによっては、イリーナは自らグレゴリの手を咥えこんで、いやらしく
腰をくねらせているようにも見えた。
「お前もやってみろよ」
 グレゴリが僕をそそのかした。
「……」
「やりに来たんだろ、おぼっちゃん」
 イリーナが泣き出した。僕の手は、いつの間にかイリーナの乳房を下から
握っていた。それはやわらかく、固く尖った乳首を頂きとしながら、僕の手の中で
無抵抗にかたちを変えた。イリーナはまったくの無抵抗に、前から後ろから、
されるがままになっていた。
 やれよ、とグレゴリが愉快を潜めた怖い目をして僕をあおった。
イリーナが突っ伏して尻を振り立てた。厭がっているような、よがっているような、
はげしい泣きじゃくり方だった。グレゴリはもう手を動かしてはいないのに、イリーナの
方から尻を上下させていた。
「見ろよ。こいつはこうされるのが好きなのさ」
 そのひと言が僕の理性を崩壊させた。
イリーナは乞食じゃないか。
何をしたってバレはしないんだ。イリーナはこんなにも淫乱なんだ。
この小屋で男たちからいつもそうされているんだ。あれに慣れているんだ。
イリーナは街の、僕たちのお情けにすがって生きる乞食じゃないか。
 そして僕の中の悪魔は正直に囁いた。
 ----やれよ、ミハイル。
 不潔で淫乱な乞食め、と僕は目に軽蔑をこめてイリーナの乳房をもみしだいた。
多くの男たちが通り過ぎて汚していった、そのほそい身体を憎んだ。
この女には懲罰が必要だ。そうだろう?

 ----女を、こんな美人を、好きに出来るんだぞ。

 グレゴリは僕の手首を取ると、イリーナの陰部に導いた。
花色のそこはすでにずるずるに潤みきり、グレゴリの指の動きの余韻に
ひくついているように見えた。下着をおろされて尻まで剥き出しにされたイリーナは
汗をかき、小さく喘いで、続きを求めていた。
 いつしか、催眠術にでもかかったかのように、僕はグレゴリの
見ている前でイリーナの股の間に手を入れていた。びしょ濡れの溝を一往復
するうちに、指が埋もれていく感触があって、その穴が見つかった。
生れ落ちてすぐに泳ぎ出す魚のように、どうするか知っている者のように、
僕は粘膜の間に指を潜り込ませていった。
 くしゃくしゃになった髪の間からイリーナが小動物のような悲鳴を放った。
僕はびくりとした。
「いきなり二本も奥に入ってきたからさ」
 グレゴリがやり方を指南してくれた。
「密壷は、少しずつ堀り進め、女がよがるところを探るんだ」
 すでに出来上がっているイリーナの中は湯の中のように熱かった。
 僕は殻から身をほじり出すようにして、指を動かし始めた。
手本でグレゴリが見せていたように、狭い穴の中で指を曲げ、敏感な
膣襞を擦り上げ、肉芽にも指の腹を添えた。すぐにイリーナは悶え狂いはじめた。
 アアア……。
 のけぞるイリーナをかわいがる僕の指は狂った鞭と化した。
誰よりもこの僕に屈服して欲しくて、僕はほとんど意地になっていた。
イリーナの片足首を押えつけたグレゴリが、イリーナの足うらを藁でくすぐりながら
笑って見ていることすら、もう目に入らなかった。
藁の上に押し倒されたイリーナは壊れ物のような悲鳴を放ち、もがき、身悶えた。
それでも僕はイリーナを開放してやらなかった。イリーナは叫んだ。
「ヒーッ」
 いつもこうしているんだろう?
 僕の真下で、イリーナは不恰好に脚を拡げられ、その乳首はぴんと勃っていた。
 いつもこうしているんだろう。お前はこれが好きなんだろう。どんな男にされても
こうなるのだろう。だから罰せられるのだ、ほら、こうして。
 肉芽を責め立てられて狂い泣いているイリーナを見つめながら、それでも
まだ僕は、かちかちになった自分のものをイリーナの内なる場所に与えようとは
思わなかった。いくら消毒液でイリーナの膣を拭ったとしても、ごめんだった。
子供の残虐と、大人の入り口に立った情欲に引き裂かれながらも、僕はまだ
それだけはやりたくなかった。
 矛盾しているようだけれど、僕は、イリーナが欲しかった。
独占慾だろうか。それとも、これでもこれが、多くの少年たちがカレンダーガールに
初めてのその兆しを覚える時のあの、初恋というものだろうか。
 僕の鞄を探ったグレゴリが軟膏を見つけて取り出した。
グレゴリはイリーナの肛門にへらで軟膏を塗りこんだ。肛門のまわりだけでなく、中にまで。
 グレゴリは薬を塗ってやると言って、薬つきのへらを根元までイリーナの中に挿れた。
 愛の神聖への錯覚をあざ笑うかのように、やがてイリーナがひくひくと
絶頂反応をみせはじめた。
 軟膏つきの異物を咥え、汚水を垂らしているその白い尻に、たとえ消毒液が
なかろうとも、イリーナが僕だけのものになるのならば、僕は何でもやったことだろう。


>次へ>目次へ>topへ戻る

Copyright(c) 20010Asabuki all rights reserved. inserted by FC2 system