ご注意:苦痛・流血をともなう本編の過激描写は、小説としてのフィクションです。
決して人体に試さないで下さい。死亡・大怪我・病気に至ります。



Любовь


◆第一話


 僕の生まれ育った故郷は、僕が生まれた年にようやく
鉄道の単線線路が通った程度の、名もなき地方だった。
 中世からこの方、これといって華やかに栄えることも、歴史や
災害の大舞台となることもないままに、ゆるやかに衰退していこうと
している、昔からある川沿いの古い街。
 都会の金持ちが別荘地にするには、風光明媚に届かず、さりとて
近年盛んになってきた工業地帯として興隆するには、場所が不便で
のどか過ぎる、そんな街。
 森と谷と山に囲まれて、僕は育った。
 交通の主力はまだ馬車に頼っており、自動車は、お役所と、僕の家、
あとは街の唯一の産業である織物工場の経営者の家に、時代遅れの
中古が数台あるばかり。
 それすらも、野道のぬかるみや羊の群れを怖れて、のろのろと
走るだけとあっては、道路の整備された都市部のように隣りに婦人を
乗せてかっこよくかっ飛ばすというわけにもいかず、僕らの街の
自動車は、まだまだ所有者の見栄の範疇を出ない、馬と並んで
馬場に仕舞われている、重たい飾りものにしかすぎなかった。
 広場を中心として、何百年も前から同じ姿で建っている石造りの建物。
徒弟制度の中で生きる職人たちと、金満地主。
町の人たちの話題といえば、どこそこの牛が何匹の仔を生んだとか、
新しく配属になった郵便配達人の歩き方がおかしいとか、流行から
はるかに遅れてようやく届いた、服飾や帽子やお髭のかたち等。
革命の後、外国との戦争の気配は時折きこえていたけれど、それも
遠いどこかの話で、少年時代の僕の毎日は、朝の牛乳と昼の学校と
放課後の遊びとでほとんどを占めていた。
 教会の尖塔と市長舎の日時計。
 家の階段のところにあった背の高い柱時計よりも、思い出すのは、
薄い色に暮れてゆく空に鳴り響いていた鐘の音と、鳥の影。


 僕の家は、いちおうは上流に属す、商会だった。
父と兄たちがよく、「都に行ったら、うちなど下の下だ」と言っていた
おかげで、後年、都に出た時にもあらかじめ身の程を意識することが
出来たものの、田舎においては何不自由なく暮らす、「おぼっちゃん」だった。
 とはいえ、跡継ぎとして父の仕事を支えているのは二人の兄たちであり、
僕は、遅れて生まれてきた末っ子として、家族の愛を独り占めにして
甘やかされた。本当は女の子が欲しかったという母ですら、僕への
可愛がり方は街中の失笑をかいかねぬほどのものだった。
 街には、ほかにもたくさんの子供たちがいた。
ご他聞にもれず僕も大勢の少年たちと知り合い、仲間を作り、
いっぱしの徒党を組んで街中を走り回ったが、子供の世界にも
おのずと上下の区別があり、専用の自転車を持っている僕は、やはり
そこでも、「おぼっちゃん」であったことは否めない。
 だから、ことさら僕は気負っていた。
 煙草もお酒もかなり早いうちにこっそり試みたし(吐いたけど)、乳くさい
赤ちゃん坊やと言われないように、悪がきたちの真似をして、出来る限り
乱暴にも振舞った。
 ずる賢いことに、父母の前では兄たちをならい、いい子でいた。
そんな時の僕は、家の雰囲気に居心地よく溶け込んで、心の底から
母や父に甘える、かわいい末っ子であったはずだ。
 その二つは対立するものではなかった。
二面性の習得は、本能を制御する、社会性の第一歩でもある。
たとえば、愛する母とは別に若い女の人を外にかこっている父が、家庭内に
おいてはこれ以上はないというほどの、よき父親であり、夫であるようなものだ。
或いは、婚約者のご機嫌を哀れなほどにオロオロととりもって、たまには
女の前で号泣までしてみせる兄たちが、その一方で、夜になると馬に乗って
隣りの街に出かけ、寡婦の家や、あやしげな館に通うようなものだ。
「どこに行くの」
 僕が訊ねると、そんな時、父はにっこり笑って僕の頭を撫で、兄たちは
目配せをして、口に指を立て、「そのうちお前にもわかるよ」という顔をした。
 共通項は一つ。
「お母さんには、内緒だぞ」


 平和きわまりない、退屈な街だった。
緑の並木道に吹き抜けていた初夏の風。
少し街を外れると、そこには中世さながらの鄙びた景色が広がって、
白い雲の流れる青い空の下、僕たちは釣りをしたり、草すべりをしたり、
転がりまわって遊んだ。
 牧歌的極まりないそれらの日々にも、やがて変化が訪れた。
それは僕たちのからだの変化と足並みを揃えていたが、誰も
そのことには気がつかなかった。年長の少年たちから順番に、
それは訪れた。大人の男たちが酒場でにやついて話している
会話の内容や、お尻をふって歩く街のおかみさんたちに、興味津々。
 まだ少年の僕たちには、それを向ける矛先がなく、また教会の
教えもそれを禁じていたので、それらは「たまに」でしかなかったけれど、
髪に花やリボンをつけた同じ年の女の子への興味と同じくらい、
身体のどこかから、煙のようにむくむくとおきあがっていた或る衝動は、
行き場もないままに、駆け回って遊ぶ僕たちの内に溜まってきていた。
「ミハイル」
 母が、家を出ようとする僕を呼んだ。
僕はしぶしぶ、その包みを受け取った。
小間使いたちは他へお遣いに行ったので、代わりにやる者がいないのだ。
「ミハイル。なに、それ」
「……ほどこしもの」
「なんだ。つまらない」
 僕は友達に待ってもらって、大急ぎで裏通りに走って行った。
じめついた裏通りの片隅には、すえた匂いを放つ、古びた木桶があった。
中身もよく見ないまま、僕は包みの中身をその中にぶちまけると、
紙袋もくしゃくしゃにしてその中に捨てた。昨夜の夕食のあまりの肉が
脂の塊と野菜くずの中に浮いているのが、ちらっと見えた。
もしかしたら、うじ虫も。
 後も振り返らずに大通りに戻ると、友達が僕のわき腹を小突いた。
「ボリスの奴、また」
 見れば、落第生のボリスが、仲間を引き連れて、老いた乞食を
追い回しているところだった。
「泣いてみろよ」
 町の悪がきたちがとくに面白がったのは、乞食に餌を与える
遊びだった。
 多分、その乞食は、さきほど僕が残飯を入れにいったほどこしものを
あさりに来たのだろう。そこを、街いちばんの悪がきたちに見つかったのだ。
「お恵みを下さいと言え。頭を地面にすりつけろ」
「この道を通りたかったら、通して下さいと、犬のまねをしてお願いしてみせろ」
 乞食には、性別も年齢も関係なかった。
女の乞食も等しくそうされた。僕たちの目にはどれも等しく、薄汚れた、大昔
この野原に集落が発生して以来何百年となく人の営みの隅っこに貼りついて
じっとしている、黒灰色をした、臭い何かでしかなかった。
 この時代、乞食はどの大都市にも、どの小さな集落にもいた。
 僕の父や母はそれを厳しく禁じていたけれど、乞食は、街の下層民に
とっては、かっこうの憂さ晴らしの標的だった。
「あいつらは町に居ついた寄生虫だからな」
「狂犬や病気持ちの犬は棒で打って追い払うだろ? それと同じさ」
 乞食のぼろ着をはがして、できものだらけのしなびた背中や尻に石を
投げつけながら、悪がきの大将ボリスはそう言ってにやにやと笑い、
いつまでも陰湿な乞食いじめを止めようとはしなかった。
「行こう、ミハイル」
 友達が僕の袖をひいた。
 乞食は泣くことも叫ぶこともせず、道端にうずくまり、ただ少年たちに
打たれるままになっていた。
 何かの予感にひかれて、僕は曲がり角のところで振り向いた。
 今となっては、本当にそれを見たのかどうかも定かではない。
少女は滅多なことでは人が大勢いる街に足を踏み入れることはなかったのだから。
 後ろ姿しか見えなかった。
 薄汚れた肌着をまとった、ほっそりとした乞食が、ボリスたちが別の乞食に
熱心になっている隙をぬすんで、大急ぎでほどこしものの桶のある通りに
姿を消すところだった。もつれて汚れた金髪を、春の夢のようにかがやかせながら。


 雪解けの水が流れる小川のほとりに、ひとりの少女が住み着いて
いることを知ったのは、いったい、いつ頃だったろう。
魔法使いが集う「妖精の木」、祖父母の時代まではまだそこに
処刑場があったという首吊りの丘、捕まえた魔女を晒し刑にしていた岩棚、
古い時代の境界を示す石垣など、地方伝説と伝承が色濃くおちる郊外の、
さらにその果てに、乞食の少女がひとりですんでいた。
 粗末な木橋を越えた町はずれに、その廃屋はあった。
 天井が半ば崩れ落ちたその水車小屋は、もとからそんな廃墟
だったわけではなく、或る年の落雷によってその姿になったのだそうだ。
 校長先生の話によれば、
「夏の嵐のことだった。街を雷雨が襲い、鉄道の線路をつくるために
積み上げてあった鉄材も直撃を受けた。鉄の上にめらめらと
蒼い火が燃えていた」
 とのことだから、僕が生まれる前の年のことだろう。
 街を襲った落雷の、そのうちの一つが、町はずれの小川のほとりの
水車小屋にも落ちたのだという。
 放棄されて、修繕されることも、使われることもなくなったその
小屋に、いつ頃からか、流れ者が棲みつくようになっていた。
 最初、少女は一人ではなかった。
 もとはといえば、年老いた芸人夫婦が手を引いて町にやって
来たらしいが、詳しいことは誰も知らない。
 町の広場で風琴を鳴らして乏しい日銭を稼いでいた芸人夫婦は
或る日を境に姿を消してしまい、水車小屋には、少女がひとり
残されていたのだそうだ。
 少女。
 といってもいいのだろうか。
乞食には性別も年齢もなく、乞食は乞食で、それ以上でも以下でもない。
ただ、子供の乞食は比較的珍しい。
近代化に向けて富国強兵に励むお国からのお達しで、路上の孤児は
見つけ次第行政に保護され、首都の施設に収容されるのが
当時の決まりだったからだ。
「鉄道に乗ってかい」
「鉄道で運ばれてさ」
 孤児、捨て子、乞食。
 聞いた噂では、施設に入れられた子供たちは、男なら兵隊に、女なら、
農家の手伝いや、その頃はまだ卑しい職業とされていた看護婦として
教育されるのだということだった。
「国に引き取られるなら安心ね」
 慈悲深い母は刺繍をしながら、そう言った。
 だが僕の村の少女は、いつまで経っても官憲に通報されず、首都の
保護施設に引き取られることがなかった。
その存在すら、知られてはいなかった。
 水車小屋の少女は、むしろ隠されていた。
 村の男たちの手によって。


 少女の名は、イリーナといった。
誰が乞食の少女にその名を名づけたのかは分からない。
「ミハイル。面白いものを見せてやろうか」
 ある日、校門の処で、落第生のボリスから声をかけられた。
僕が宿題を写させてやったお礼のつもりだろう。
担任のアレクサンドル先生は都会からやってきた背の高いインテリで、
子供が嫌いらしく、すぐに鞭を取り出してくるので、一番若い先生なのに
学校中から怖れられていた。
 薄笑いしながら、ボリスは教科書をまとめた鞄を肩に担ぎ、
馴れ馴れしく、僕の肩に手をおいた。
 万年落第生のボリスは頭は弱いが、体つきはもう大人の男にひけを
とらなかった。悪いことばかりするので、疎まれもし、また、一部の
少年の間からは英雄視されもしていたが、その顔つきは人間というよりは
愚鈍な狒々で、骨格もごつごつしており、蔭ではこっそりと「原始人」と
あだ名されている少年だった。
「面白いものって何、ボリス」
 僕は迷惑げに身を引いた。きっとろくなものではないのだ。
グロテスクな毛虫とか、ヤギとロバの交尾とか。
「おもちゃさ」
 ボリスは歯磨きをしていない汚れた歯を近づけてきた。
「おぼっちゃんのお前はまだ見たことがない、おもちゃさ」
 ボリスの取り巻きの少年たちがにやにやと笑い崩れた。
その様子では、ボリスたちはすでに「それ」を知り、何度か「それ」で
遊んだことがあるらしかった。
 怖がっていると思われたくなくて、僕は「いいよ」と彼らに頷いた。
僕の友達の、地主の息子と織物工場長の息子も一緒だった。
家の生活水準がだいたい同じとあって、僕はきちんと磨かれた革靴を
履いている彼らといつも一緒だった。
「遠いのかい?」
 街からどんどん離れていくことに不安になって、僕は革鞄を握り締めた。
「ボリスたちと付き合ってはいけませんよ。あの悪たれ、将来は
ろくなもんじゃない」
 母の小言が思い出された。彼らについて行くことは、母の言いつけに
逆らうことになる。
 ところが、その年頃の少年というものは、ぜひとも親の言いつけに
逆らってみたいものなのだ。肝試しや勇気試しよりも、もっともっと
根源的なところで味わう、神に逆らうがごとき、良心の葛藤の魅力が、
その時も僕の頭を完全に痺れさせていた。
「面白いんだぜ」
 べたついた声で、ボリスは僕をいざなった。
そのくせ、どう面白いのかは、彼らはわざと説明しようとはしなかった。


 それからの午後の記憶は、くるくる回る回転木馬のようなものだ。
ボリスたちは逃げ回るイリーナを捕らえると、羊の仔のように抱え上げて、
水車小屋の蔭で待っている僕たちの前に連れて来た。
「まずは、消毒だ」
 ボリスは嫌がるイリーナから衣を引き剥がすと、小川に突っ込んで、
その顔や手足から泥よごれを落とした。
 僕は、泥汚れに黒ずんだ衣から現れた少女の白い肌と、その可憐な
美貌に完全に目を奪われてしまい、少女の頭を水に沈めてはげらげら
笑っているボリスたちにも気がつかぬほどだった。女きょうだいのいない
僕にとっては、正真正銘はじめて見る、異性のかたちだった。
 あの頃イリーナは、何歳くらいだったのだろう。
 それは女のからだでもなく、幼女でもなく、少女のからだというには、
性を匂わせて、あやうく発育していた気がする。まるく膨らんだ乳房には
赤い実のような乳首が寒さにこごえ、細い腰から続く白い尻には、子供の
ものではない女の張りがあった。
 後年になって、警察の事務官と都の社交界で知り合った時に、
外国人による売春組織摘発に携わったことのある彼からこんな話をきいた。
「かわいそうに、幼女の頃から売春をさせられてきた少女たちは
身体だけが先に大人になるのです。心は、子供のままにね」
 ----それとも、イリーナは、実は僕よりもずっと年上だったのかもしれない。
栄養不足の為に、成長が遅れて見えていたのかも知れない。
どちらにせよ、人間としての実年齢や、女の性とは別種のもので、イリーナの
姿かたちは出来ていたような気がする。夜明けの露や、月の光で。
 そしてこの日以降、僕は思い知ることになる。何をしていても、おそらくは
生涯の終わりまで、忘れられず、頭から離れなくなる。間違えて人の世界に
迷い込んでしまった天女のようなイリーナ。涙を浮かべた、その眸を。

 川から上げられたイリーナは、再度、土手に投げ出された。
がたがた震えて、イリーナは突然現れた僕たちを見上げていた。
「こないだみたいに、ひいひい泣かせてやろうぜ」
 はだかのイリーナを眺めながら、ボリスが唇を舌でなめた。
 僕の目の前にいるのは、乞食の少女だった。
両親も、あたたかな寝床も、その日の食べ物すらもこと欠く少女だった。
乞食という言葉をあてはめることすら冒涜のような気がするほどに、
ひ弱く無力な、なにかの繊細な生き物だった。
「分かってるだろうな、イリーナ。お前は、街のお情けで生きているんだからな」
「逆らったら、この前みたいに裸のまま四つん這いして歩かせるからな」
「逆さ吊りにして水責めにしてやるからな」
 ボリスの仲間がイリーナをひっくり返すと、その胸のふくらみを
鷲づかみにした。
 僕の足はふるえ、心臓は波うち、頭の中はかあっとなった。
 僕はボリスや少年たちが何をしようとしているのか、その時まで
本当に分からなかった。本当に知らなかった。
イリーナのふるえる両脚が膝から持ち上げられても、まだ僕は茫然と
していた。友達の地主の息子も、織物工場の息子も同様だった。
「やめろよ」
 僕と同じように俯きがちになって、ようようそう言ったのは、
地主の息子だった。彼には、僕の家よりももう少しあけすけに
何でも弟に話す男兄弟がいて、三人の中ではいちばん耳年増だった。
「怖がって、痛がっているじゃないか」
 不幸なことに、それがボリスの意地と残虐性を煽ってしまった。
べっと唾を吐くと、ボリスは近くに落ちていた枝を拾い上げた。
何をするのかと見ている僕たちの前で、ボリスは、イリーナの
両脚をもっとひらかせた。
「賎しい女乞食は罰してやらないとな」
 少女の脚の付け根の暗がりに、ボリスは枝の先をあてがった。
その日まで、ボリスもイリーナの性器を眺めまわしたり、つついてみたり
するだけで、実際に深くまで触れたことはなかったのだろう。
もしかしたら、本人が豪語しているように、自慰のやり方をすでに熟知
しているとか、女中とあれをしたことがあるというのも、嘘だったのだろう。
 それだけに、彼は意地になっているようにみえた。
僕らの見ている前で、イリーナの陰部があばかれた。
罪悪感で動転してはいたが、僕は一方では、イリーナを観察することを
忘れてはいなかった。白くほそい脚の間にぱっくりと花の色をした部分が
開かれるのを、何かの解剖の授業のように、僕は凝視した。
金髪を乱して、イリーナは暴れた。少年たちがそれを押さえつけていた。
うっすらとはえている少女の恥毛に、心臓が沸騰しそうだった。
「ここだ」
 ボリスが枝の先をイリーナの一部に挿し入れた。
「見てろよ。うじ虫にも、女の穴があるのかどうか調べてやる」


 随分と長い間、僕は、イリーナが処女をうしなったのは
その時だと思い込んでいた。地主の息子も、織物工場長の息子も、
その場に居合わせていた少年の誰もが、そう信じていた。
 ボリスにいたっては、その後幾度も声高に、
「イリーナの初物を奪ってやったのは俺だ」
 鼻の穴を広げてのし歩き、自慢して憚らなかったほどだ。
 僕たちは全員、間違えていた。
 イリーナのほっそりとした脚の間に伝った鮮血は、怪我を負わされた
為であり、破瓜のものではなかった。
 小川のほとりに暮らしていたイリーナは、その頃にはもうとっくに、
もっと年長の少年たちや、町の男たちの、玩具だったのだ。


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