ご注意:苦痛・流血をともなう本編の過激描写は、小説としてのフィクションです。
決して人体に試さないで下さい。死亡・大怪我・病気に至ります。

【異教徒の妃】
◆一幕
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 その女は、後宮の女たちの中でも、最も、その位が低かった。
各部族が服従の証として差し出す美媛でもなければ、征服地や植民地から
献上品として納められる選りすぐりの美女でも、臣下がご機嫌うかがいに
奉納する彼らの妻や娘でもなく、捕虜でもなければ、貴族が飼う、あらゆる舞いや
性技を仕込まれた、特殊な芸奴隷ですらなかった。
 郭ごとに門で仕切られた後宮の、幾つもの大門、幾つもの中庭。
二百を超える大広間小広間、贅を尽くした内装、モザイクの床。
そこに納められた千人の女たちは、すべて、帝王に奉仕させるために、広大な版図から
選りすぐられた、美女の中の美女ばかりであった。
 夕陽に照らされた列柱廻廊を抜けて、その女がはじめて連れて来られた時、
後宮を監督する宦官たちは、揃って平伏し、女を肩に担ぎ上げて自らそこまではこんで来た
戦場帰りの若き帝王に対して、謹んで伺いを立てたものだった。

 ------どのように処置をいたしましょう。その者の脚の腱を切り、両目を潰し、
     薬で喉を焼き、歯を一本残らず抜きとり、しかる後に速やかに調教を施して、
     お役に立てるようにいたしましょうか。
 ------それとも、この者と獣をまぐわらせるところをご覧になりたいとの思し召しならば、
     お好みの四つ足をご指示下さいませ。猟犬ならば、すぐにご用意できまする。
 
 鎧についた戦場の返り血もそのままに、王は肩に担いできた女を、床に落とした。
 床に投げ出された女は、王の手で此処まで連行される途上で意識を失い、気絶していた。
その細首には、首枷が嵌っており、その鎖の端は、王がまだ握って持って立っていた。
 女は若かった。
異国の衣を身につけ、戦火の煤でうす汚れてはいたが、その稀なる美しさは、隠しようもないものであった。
雪のように肌が白く、繊細な顔立ちをしており、ほっそりとしたからだつきは、まだ少女のようであった。
 しかし、女は、異教徒であった。
 王が気まぐれに、往来で見かけた女を後宮に投げ込むことを、王の狩りと呼んで、後宮の
宦官たちはその不意打ちに慣れていたが、此度、異教徒を連れ帰るとは。

 異教徒の女が後宮に納められるのは、これが初めてではない。
先王の時代にも、あったことだった。
当時を知る宦官たちは、顔を見合わせた。あの時は、女を改宗さしめたのであった。
 しかし、今回の遠征で王が征服を果たしたその小国は、きわめて信心深く、いかなる
宗教拷問にあっても決して信仰を捨てぬ民族として知られており、彼らの神を捨て、
現人神である帝国皇帝を崇めるのならば命を助けてやるとの王の降伏勧告にも応じず、
ついに城壁を崩されて、街は炎上、廃墟と化し、老若男女、惨たらしく皆殺しとなったはずであった。
 その戦場から凱旋してきた王が、まっすぐに後宮に馬を乗り込ませ、側近の反対もはねのけて、
こうしてはこび込んできた異教徒の女。
 ゆえに、宦官たちは、この異教徒の扱いにおいて、王に伺いを立てたのだ。
異教徒の女は清楚な白い花のように美しかったが、美しい女など、幾らでも此処に揃っている。
衣服からも、女が、異教徒の王族ではないことも明らかであり、となれば、人質でもない。
わざわざ異教徒を後宮に連れ帰る理由は、王が変わった趣向で、この生き残りの
女を罰することを望んでいるとしか、考えられない。
 宦官は謹んで申し上げた。

 ------王よ、この者を、王のお好みに叶う慰みものとなるように、どのように
     処置をいたしましょう。王に逆らった愚民の標本として、剥製にするのは
     いかがでございましょう。それとも、手足を切り落とし、生かしたまま薬液を満たした
     壷に漬け、禁中に飾るのは。

 ------それとも、後宮専用の王の器となさり、王の小水や、お愉しみの後を、
     その唇で清めさせる栄誉を与えて、王の行く先々に、鎖を引いて
     連れてゆき、控えさせておきましょうか。

 後宮こそは、帝王の為の女奴隷を集めた、広大な敷地。
ひとたび門をくぐれば、二度と出られぬ、女たちの牢獄である。
その、ありとあらゆる種類の美しい後宮の女たちを監督し、監視するのが、去勢されたこれらの
宦官たちであった。
 衛兵も兼ねている彼らはみな屈強で、大柄であり、武芸に優れ、肉体そのものが武器であり、
女ならば素手の一振りで殴り殺すことが可能であった。
また、彼らの多くは、医師の資格を持ち、帝国の神秘の技の一つとされる、外科手術も出来た。
医師を多数含む宦官たちは、女たちの性器を調べ、帝王のお召しにいつでも応えられるように
女たちの健康に留意し、それを記録する。
後宮には侍女がおらず、女たちの世話は、すべて、この宦官たちの手によって行われた。
浴場での入浴も、食事も、宦官の厳重な見張りのもとですまされ、排便排尿を行う際も、女たちは
前後から監視している、専属の宦官の、その目から逃れることは出来なかった。
 去勢された宦官たちは、女を悦ばせることは出来なかったが、その分だけ内に澱み、
陰湿に歪んだ強い性欲をもって、女たちの躾にあたった。
 後宮に通う唯一の男、つまり、若き帝王への絶対的な服従と隷属を後宮の女たちに教え込むのが、
宦官のもっとも重要な役目であった。
 彼らは、王のためにある女の穴を貫くことと、女の肌を傷つけること以外の手法で、日々、女たちを従わせた。
女たちは、去勢された彼らの手で、乳首や陰部を撫ぜられたり抓られたり、口淫の練習と称して、
起立した陰茎を模した道具をしゃぶらされ、そうしないと食事が与えられない日もあった。
常に女の性欲を高めさせ、その身に従順を仕込むには、女の性感帯を刺戟しておくことが、
鞭をふるうよりも効果的であることを、後宮に勤める代々の宦官たちは熟知していた。
 女たちは次第に、宦官たちに、それをねだって、惨めにも媚びはじめる。
すると宦官たちは、この世であたうかぎりのそれらの美しい女たちを、切なくさせたままに、今度は
放置しておくのだった。


 集められた女たちは、後宮の門をくぐったが最後、もとの身分を剥奪されて、王族であれ娼婦であれ、
ひとしく若き帝王の奴隷となった。
しかしそこにはおのずと、身分の上下がやはりあった。
帝王は十二歳で即位したが、その帝王の子を生んだ女たちが、奴隷の身分のまま女たちの最上位に。
出身や後見人の有無から位階は順に下って、王のお手がつかぬ奴隷が最下層に。
侵略地から容姿を見込まれて後宮に送られてきた女であっても、もとの身分から賤しい奴隷であるならば
与えられるその部屋は、何人かで使う大部屋なのが普通であった。
そしてその最下位の女たちよりも、最も賤しいものとされて、厳格に区別されているのが、帝国の
威光を無視した、異教徒であった。
 帝国における異教徒の奴隷は、家畜よりも値段が低かった。
彼らは、根深い軽蔑と侮蔑でもって、帝国人民から虫けらのように扱われた。
異教徒たちはたいていは皆殺しとなったが、たまに助けられることもあった。
しかし運よく、奴隷として帝国に送られてきても、その扱われ方は陰惨を極めた。
使役され、酷使され、若くて美しければ異教徒を試すことに悦びを覚える者たちの間で散々にまわされて、
襤褸切れのように棄てられるのだ。
また、帝国で医学が発達したのには、これらの異教徒の奴隷を使っての人体実験が功を奏したとの
事実もあった。
 家畜以下の、喋る道具。
それが異教徒に与えられた呼称であった。そしてそれは、此処、後宮においても、変わりない。
 後宮の宦官たちの目が、王の足許に伏せっている、若い女の上に注がれた。
異教徒の女の美は、たしかに、一見の価値があった。
美しい女など見慣れた宦官たちの目にも、その娘は、異教徒であることを忘れ果てさせるほどに清らかで、
やさしそうであった。
編み上げて、冠のように頭部に巻いていた異教徒の娘の茶色の髪は、いまはほどけて、
意識のない横顔や、小さな赤い唇、かたちのいい小ぶりな胸のふくらみの上にも、かかっていた。
しかし、此度の戦では、頑強な抵抗の罰として、老若男女問わず、王の命により一人残らず
皆殺しになったのではなかったか。
また、若い女は、敵兵に捕まることを怖れて、塔から投身したと聞いている。
 宦官たちのその疑問に応えるように、粗末な織りの衣からのぞいている女の細い足首の片方を、王は蹴った。
「”うさぎ”だ。歩くのには支障はなさそうだが、走れない。そのせいで、逃げ遅れて捕まったのだ」
 うさぎ。
それは、帝国における医学用語の隠語で、片輪ものを指す。
動物実験を行う際、うさぎの片脚に薬を注入することから、びっこをひく者を指す呼称となった。
しかし、たとえこの女が”うさぎ”であっても、後宮に一度納められれば、二度と走ることもないであろう。
「王」
 宦官が申し出た。

 ------では、両脚ともに不具にさせ、この異教徒を、いざりにいたしましょうか。
      宴にはべらせましたら、一興かと存じます。

 これほどに美しい女が、無体をはたらこうとする男たちから、床を這って逃げる他ないとなれば、
その惨めな様子は、よい見世物となり、貴人たちの気晴らしとなるであろう。
逃亡出来ぬように脚の腱を切ったり、宴の出し物として奴隷に拡張調教を行うことは、帝国に蔓延し、定番と
なっている、貴族たちの間の洗練された性奴隷の愉しみ方の一つであった。
 余計なことはせずともよい、と若い王は、その静かな声だけで宦官たちを縮み上がらせた。
太陽の昇るところから、沈むところまで。帝国の広大な版図を統べる残忍な若い王は、
猛禽のような眼をして彼らを眺め、床に倒れている異教徒の女の腹に片脚をのせると、その男らしい美貌を
酷薄にゆがめて、薄く笑った。
「異教の神を祀る聖堂に仕えていた、神の花嫁だ。聖句など口にされてはたまらない。薬漬けにして狂わせてしまえ」
 そして、王は手に握っていた女の首枷の鎖を、失神している女の近くに投げ落とした。
処女検診の必要はないぞ。
「この女が生娘かどうかは、余が知っている。------見ろ」
 王の手が、女の衣を引き裂いた。
気絶したままの女は、王の手ではだかに剥かれ、仰向けに転がされた。
透きとおるように肌が白く、華奢な女の裸体が、宦官たちの眼の前に晒された。
首枷の嵌められた女の首が、抗うことも出来ずに、がっくりと力なく傾いた。
瞼を閉じたままの女の顔は、雪の結晶を固めたかのように儚く、唇と、乳房の先だけが赤かった。
王は異教徒の女の両脚を左右にひろげ、その股間が宦官たちにくまなく見えるようにした。
女の恥毛は薄く、その溝は浅く、花びらの色をしていた。
そしてそこには、王の一物に貫かれ、破瓜された後の血が、まだ生々しく付着したままになっていた。


[続く]

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