ご注意:苦痛・流血をともなう本編の過激描写は、小説としてのフィクションです。
決して人体に試さないで下さい。死亡・大怪我・病気に至ります。

【異教徒の妃】
◆二幕
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 後宮にあらたに納められたその女奴隷は、異教徒であった。
奴隷の中でも、もっとも位が低く、犬畜生よりも劣る異教徒の奴隷の女。
 若くて美しければ娼館に送られることもあったが、たいてはそこで客に手酷く苛まれて死ぬ。
鎖で繋ぎ、残飯を与えて飼うような、そんな身分の賤しい女であった。

 王が肩に担いで後宮に連れて来た女のことは、後宮の女たちの間に
瞬く間に伝わり、そして、忘れられた。
女の姿を見たものも、ほとんどいなかった。
最下層の女奴隷たちが共有している、蜂の巣のように室が並んだ房の中でも、もっとも
日当たりが悪く、風とおしの悪い室にも、その女の姿はなかった。
ほかの区画とは少し離れになっている、迷路のような後宮の、廻廊の果ての薄暗い一隅。
立ち入りが禁じられているその陰気な一画が、女の房として割り当てられたことが何よりも、
異教徒の女の、その身の程を知らしめていた。
 そこは、地下牢であった。
 地下牢に入れられた異教徒の女をちらりとひと目見た者は、たいへんに美しい娘だと
女たちに伝えたが、女たちは乳房もあらわな衣の胸元を指先でつまんですこし整えて、
扇で口許を隠し、高慢に目を細めるだけで、意に介そうとはしなかった。
 女が収監されたあたりの暗部が視界に入るだけでも、女たちは、不潔なものでも
目に入ったかのように、眼を逸らした。
 美しい異教徒の女。
それが、どうしたというのです。
此処には、世界中の美しい女が揃っているではないか。
何を騒ぐことがあろう。王は、その女を、宦官たちの慰みものとして彼らにお与えなさったに違いない。
それとも王は、少年の頃に一度そうなさったように、今回も異教の神を崇めるその不届きな女に
強制改宗を試さんとのお心づもりであろうか。
同じ苛むのであれば、若くて美しいほうが、王のおもちゃにはちょうどいい。
地下室には、拷問部屋があるそうだから、その女、そこに入れられたのでしょう。

 それを証拠だてるように、大勢の宦官たちが入れ替わり立ち代り一日中、女奴隷を収めた
地下牢に出入りしていた。その際には、女の悲鳴やなき声が、厚い壁を通して、地下から
聴こえるとの話であった。

 宮殿の中に宮殿を建てたような、広々とした、天井の高い後宮の浴殿で、湯気に包まれた女たちは
周りにいる宦官たちの目を意識しながらも、ひそひそと囁きあい、噂を取り交わした。
 蒸し風呂、水風呂、薬草や花びらを浮かべた香りの湯。
この世のありとあらゆる風呂を揃えた浴殿の天井は、色硝子の天井となっており、天気の
いい日にはそこから幾筋もの光が浴殿にさし込み、流れる湯を虹色に染めた。
(その異教徒の女。届いた日には、首に首枷を嵌められたままだったとか)
(それなら、そのまま、中庭に繋いで下さればよかったのに。賤しい女に、わらわたちがたんと
芸を仕込んで、四つん這いで歩かせ、はしたなく餌をねだらせ、その様子を王にもご覧いただいたものを)
 全裸の全身を汗に濡らした美女たちは、、その想像にぞくぞくしながら、湯気の中に身をふるわせた。
 後宮の宦官たちは、たまに適当な女を王から与えられて、去勢されたおのれらの一物のかわりに
道具を使って、女を好きに嬲ることがゆるされていた。
その際には彼らの歪んだ性欲は、女を三日ともたずに果てさせるほど、苛烈を極めるのが常であった。
(王が狩った女は、まさに、それ用のための女なのでしょう)
(薬を投与されて、もう自分の名も云えぬほどに脳が冒されているとか、いないとか)
 地下室は、はるか昔、後宮がもっと小さかった頃から、そこにあるのだといわれていた。
石壁で頑丈につくられた地下室は、内部が幾つかの小部屋に分れ、そのうちの一つは牢だった。
長い間使われていなかった地下の扉が、異教徒のために開かれるのは、先王の時代に続いて、
これで二度目である。
 王が連れて帰った異教徒は宦官に抱えられて、その鉄の扉の向こうへと消えた。
 もしも、倦み果てた後宮の女たちが、その暗く狭い地下の房で行われていることを知ったならば、
美しい異教徒の女に加えられている無体な調教と、無残な様子に、陰湿な愉悦を覚え、
さらに噂に興じたであろう。
 異教徒の女への調教は、まず、宦官たちの手によって開始された。


「ウ……ア、ア」

 異教徒の女の涙や、痛みを訴える叫びは、処置を行う宦官たちに無視された。
地下室は狭く、壁は厚く、ほとんど陽が入らなかった。
 鎖が余裕のない、軋んだ音を立てた。
きつく拘束された女の陰部に性具が窮屈に押込まれた。女は呻いた。
吊るされた女の脚の間は、尻の穴まで見えていた。
「王は、お前を、玩具として生かしておくことをゆるされた」
「異教徒への破格のご厚情。伏して、王に感謝いたせ」
 台の上に上体を固定された女は、金属の責具を嵌められた胸先をそらした。
その乳首の責具から伸びた糸は、張り詰めるまで伸ばされて、左右の柱の
留め具に留められていた。
 様々な器具で身体を開かれた女は、息も絶え絶えに、鎖の間に引っかかって身を引き攣らせていた。
女の涙と汗、それに失禁した股間が、医療用の清潔な布で拭われた。
生理的な不浄においても、女に自由はなかった。
宦官たちの見ている前で、もう幾度となく、女は脚を吊り下げられたその格好のまま、放尿してしまっていた。
 神の花嫁として、純潔を守って過ごしてきた娘には、去勢された宦官とはいえ
男の目の前で排泄行為を行わされることは、何よりも耐えがたかった。
 宦官たちは、異教徒の女の口に漏斗を挿して、冷たい水を大量に呑ませることで、それを促した。
堪えきれずに、女の尿道からそれが零れ出すと、宦官たちは銅製の桶を下にあてがい、
地下室に響くその水音を、羞恥に嘆く女自身に、よく思い知らせた。
 ひくひくと全身を泣き濡らし、つらそうに異教徒が喘いだ。
ふたたび呻き声が絞られ、拘束具がめちゃくちゃな音を立てて、女の苦痛に合わせて鳴った。
硬いものが、肛門に深々と沈められてゆく間、女の乳房は糸で釣られるままにふるえた。
その小さな乳首に噛まされている金具は、女の乳首に集中している、過敏な神経を苛んでいた。
責具の中から王がそれを選び、処置の間は、女に嵌めさせるように、宦官に命じたのである。
 戦場帰りの王は気絶している異教徒の髪を手で弄び、その白いからだを撫でながら、
宦官たちに向けて、残忍な笑みを浮かべた。

「美しい女だろう。逆らったり粗相をすればどうなるか、まずは懲罰から思い知らせよ。
異教徒に信仰を捨てさせるほどの手間はない。薬を与え、たっぷりと辱めてやれ」

 王は、異教徒の自殺防止に、厳重なる監視と、意識を弱らせる薬の投与を宦官たちに命じた。
しかし、苦痛を快感に錯覚させる淫薬は、女に与えようとはしなかった。
埋め込まれたものが、宦官の手で、ゆっくりと抜き挿しされた。
膣の方にも、淫具がはめられて、別の宦官の手で、じっくりと動かされた。
時折、それらの潤滑をたすけるために、蜂蜜のようなものが、女の陰部に塗り込まれた。
それ自体が生き物のように、調教用の淫具はぬめぬめと女の深部で蠢いた。
(-------……赦して下さい。お願いです、赦して……お助け下さい……)
 後宮の奴隷、ましてや使い捨ての異国の女の訴えに、耳をかすものなどいなかった。
 天窓が朱く燃えて、瞼を染めるその赤みの強さで、夕方になったと知れた。
斜光は陰惨な責め苦が行われている室内と、そこに蠢く宦官たちの大きな影を、
赤い陰気の中に沈ませた。
 誰も近付かず、立ち入りを禁じられ、中を覗いたことのないその地下室は、古い時代、
外界と通じた疑いをかけられた後宮の女や宦官を取調べたり、罰したりするための、拷問部屋であった。
壁際の側溝は水責めの水や、血や肉片を洗い流すためのものであり、石壁や天井には、責め具を
架けたり、人間を吊るしたり、固定するための滑車や留め具がたくさんついていた。
 異教の聖堂に仕えていた若い女が入れられたのは、その地下室であった。
地下牢ほど、後宮の暗部を凝縮した場所はなく、去勢された宦官たちのねじ曲がって特化した
性欲を顕在化させるのに、相応しい室はなかった。
 夕陽が沈み、室がいちだんと暗くなった。
 王のための奴隷を傷つけることは許されなかった為、彼らは慎重に、若い女を淫棒で刺戟し、
処女であった女の性感帯の開発に取り掛かっていた。
 角燈のあかりの下、陰核を責められた女が、びくびくと膝をふるわせた。
暗い地下において、苛まれる女の美だけが、そこだけぼうっと淡く、燃えるようであった。
そのはかなげな顔立ちや、苦しげな声、雪で磨いたような白い肌が、後宮に監禁され、
死ぬまでいたぶられる対象としての最下級の賤しい女を、最上のものに、見せていた。


 地下室には続き部屋があった。
石階段を数段上がり、控えの間を通り抜け、半二階になったそこが、
異教徒の女にあてがわれた牢獄であった。
 寝台と、暖炉のほかには、何もなかった。通風孔がわりの小さな窓は、女の手の届かぬ
はるか上の方にしかなく、その窓の位置は、ちょうど地上の高さであった。
 暗い牢であった。
 牢の扉は、重たい音を立てる鍵つきの頑丈な鉄格子になっており、いつもそこには
見張りの宦官が立っていた。
 真夜中の侵入者は、灯りを持っていた。
鉄格子の扉を開かせると、その者は宦官をさがらせ、奥の壁際にある女の寝台へと歩いてきた。
 後宮中の女たちがそうであるように、囚われの女もまた、両手を寝台の左右の柱に縛られていた。
それは、女たちに自傷や自慰をさせぬための処置として、就寝前にかならず、見回りの宦官たちの手で
毎晩そうされるのであった。
 異教徒の女は、この暗い、ながい間使われていなかったらしき、薄暗い牢が、怖かった。
それでも、入って来た若い男が、誰かを知った時の恐怖ほどではなかった。
男は、女の寝台から掛け布をはいで床に落とした。
異教徒の女奴隷は、はだかのまま、寝かされていた。
女は男の影に怯え、手首を拘束する鎖を鳴らした。逃げたくても、叶わなかった。
「薬が効いているようだな」
 若い男の嗤い声は、確かに聞き覚えがある、王のものであった。
男の目は、戦場から戦利品として持ち帰った女を、あの日と同じように見下ろした。
 竦みあがっている女の腹の上に、鞭の先があてられた。
それはそこに留まるようにみえて、女の肌の上をすべり、胸をまわり、乳首の上でとまると、
その薄紅色の尖りを、侮辱的につつき、軽く叩いた。
 その硬質な鞭の動きを、女はおそれた。
鞭は、首筋を這い、女の唇と、鼻筋、頬を、ゆっくりとなぞった。
その鞭先が不意にさがり、きつく閉じ合わせている、女の股のつけ根に向かった。
「お前が少しは通しやすくなったか、試してやろう」
 寝台の上に男の重みが乗ってきた。王は、女のからだの上に圧し掛かった。
男の熱い息と、その嗤いが、女を覚えのある恐怖のどん底に突き落とした。
郷里が戦火に包まれた、あの日のことが、女の脳裡に悪夢のようによみがえってきた。


 最新の攻城兵器を幾つも擁した、圧倒的な大軍に、古い城壁都市は敵うべくもなかった。
破城槌で城壁が打ち壊され、主軍は城門を突破。
一方、反対側の城門も完全に占拠され、住人を閉じ込めた街の上に、投石機からは石が、
城壁からは、火矢が次々と放たれた。
退路を断たれた住人は、ことごとく、装甲兵の槍で突かれ、剣で屠られ、騎馬のひずめにかけられた。
抵抗が収まると、兵士たちは、いっせいに、街の財の略奪に走った。
生きたまま火中に投じられる老人や子供に混じり、犯され、殺される女たちの悲鳴が方々で上がり、
赤々と燃える火炎は、真昼を闇に変えるほどに燃え盛り、街を片端から焔で包み、灰と変えた。
 王は、悠々と、馬を巡らせて、その光景を眺めた。
若年で即位してより、いかなる戦にも、王は陣頭に立って戦ってきた。
その鎧は返り血で赤く染まり、その剣の先からは、屠った異教徒の血が、まだ滴っていた。
 その白亜の聖堂が、王の目にとまったのは、偶然であった。
焔と煙の合間に、夢のように白く浮かび上がった、異教徒の神殿。
「立て篭もっていた尼どもは、全員、塔から身を投げて死んでおりました」
 内部を調べた近衛の報告を聴きながら、王はふとした気の迷いで、そちらに馬を向けた。
「こいつしか残っていないのか」
「びっこを引いていて、投身した尼さんたちに遅れてしまったところを、踊り場で捕まえたのだ。
見てみろ、すごい美人だぞ」
「口を開けさせろ。さあ、舐めてごらん。歯を立てたら、ぶん殴ってやる」
「たんまり可愛がってやるからな」
 聖堂の扉は打ち壊されていた。
内部は暗く、打ち壊された祭壇のほかは、もとから何もなく、がらんとしていた。
柱の影で女を取り囲んでいた兵士たちは、現れた王の姿に、とび上がり、慌てて女から離れた。
その下から這い出した女は、後ろの祭壇へすがりついた。

「王さま。王さま。お待ちくださいませ。畏れながら申し上げます。
このような汚れた女では御身が穢れまする。これは異教徒の女。賤しき奴隷にございます」
「いいえ滅相もございません。王にお渡しすることを、拒んでいるのではございません。
偉大な御身がお望みとあらば、このような賤しき奴隷一匹ごとき、
なにを惜しいことなどありましょう。この天地同様、血の一滴、小指の爪にいたるまで、
この女は王のものでございます。ははーっ、すぐに、すぐにそのようにいたします。
ただちに女に首輪を嵌め、衣を剥ぎ、ご用意を」
「縛り上げろ。王がお望みであるぞ。ええい、このめす犬め、言うことを聞かせてやる。
こいつめ、こいつめ。どうせ王はお前を愉しんだ後で、お前をすぐに殺すのだ。
王が聖堂を覗かれるとは不覚であった。こいつを散々犯してやった後で持ち帰り、打ちのめしてでも
改宗させれば、最高値のつく女奴隷として売れたものを」
「どうせなら、手間をかけずに一気に犯しておくのだったぞ。いや、今からでも遅くはない。
王がお戻りになるまでに、こうしてやる、こうして。うげえええええ、王よ、王よ、お赦しを、お赦しを!」

 首を刎ねられた兵士たちの頭部のうち、一つは前にとんで、女の足許にまで転がって落ちた。
女は、壁際で身を竦めたまま、身動きもならなかった。
血刃を床に投げ出した若い王の、酷薄そうな美貌すら、悪い夢のようだった。
王は、凍り付いている女を見て、口端を歪めるようにして、かすかに、そして残忍に笑った。
返り血の一滴すら、王は浴びてはおらなかった。
「助けてやったのに、その顔はなんだ」
 怖ろしさで、女には、男が何を言ったのか、わからなかった。
つかつかと歩いてくると、王は女の首枷を掴み、がたがたとふるえて膝から下に力の入らない女を
引きずるようにして、聖堂の外に連れ出そうとした。
女はわなないて抗った。ただただ、この若い男が怖かった。
すると王は、鞭を振り上げて、癇症に女を打った。
ごく軽く、加減された強さではあったが、女はよろめいて後ろに倒れ、柱に頭をぶつけた。
そのあまりのか弱さが、かえって王の獣性を呼び覚まし、燃え立たせた。
何の配慮も、何の躊躇も、何の遠慮も、それを王が異教徒の小娘に対してはかることがあるだろう。
たとえ女が王族の貴女であったとしても、帝国を統べる王は、思うように振舞うことがゆるされる。
戦中を駆け抜け、兵士たちの首を刎ねた後の王は、その精に血の臭気を吸って、常にも増して
荒々しく、猛々しかった。
 女の衣が引き裂かれた。
雪のように白い女の肌と、処女の胸が、王の眼下に晒された。
王の手はそのまま衣を引き下げて、まだ少女のようにかよわげな、女の肢体をあらわにさせた。
女は王に抗い、何とか逃れると、衣で前を覆い、救いを求めて、祭壇の前に身を投げ出した。
天窓から差し込む光の下に膝をつき、女は、ふるえる唇で何かの聖句を口にした。
淡い光の中に膝をついて祈る半裸の女の、その姿は、女の素朴な敬虔心そのままであった。
王に向けたそのむきだしの背中は、陶器のようにすべらかで、かよわげに白かった。

「お前の神が助けてくれるとでも思っているのか」
 王は笑いながら、ゆっくりとそんな女に近付いた。

 びっこを引く女に逃れる道は残されてはいなかった。
王は女を追い詰めると、その両足首をとって、両脚を開かせた。
女の片方の脚は、それと分らぬほどに、少し歪んでいるようであった。
「”うさぎ”か」
 王の手が、その細い脚のかたちを、付け根まで撫で下ろした。
荒い息と、浅黒い強靭な身体が、床に組み敷かれた女の上に乗った。
王は無理にも、獲物を貫きにかかった。
まだ男を通したことのない若い女には、その固い痛みは、石か何かを力いっぱいに
股間にぶつけられているようにしか思えなかった。熱く固いものが身を抉ってくる感覚に女はもがき、抗った。
 生娘であった女のそこは、きつく、狭すぎた。
王は苛立ち、女の身を深く曲げさせて、真上からおのれを突き入れた。
突然、窮屈な軋みを立てて何かが奥まで挿入され、引き抜かれた。また大きく、今度は深く沈められ、
男の体重ごと奥深くにまで打ち込まれ、引かれ、埋められた。
身を裂かれた女は、壊れもののような悲鳴を上げ、王の胸板を押し戻そうとした。
逃れようとしては引き戻されて、髪を乱して女は泣いた。
神のすまう聖堂の天井に、男の荒々しい動きが立てる音と、泣き叫ぶ女の声が響いた。
がくがくと揺らされながら、あまりの痛みに、女は声を絞って泣きながら、か細い手足をもがいて抗った。
 その抵抗の罰のように男の動きがはやくなった。
王の側近が王を聖堂に捜し求める声が聴こえてくるのと、王が、女を床に乱暴に投げだすのが同時であった。
「王、王。いずこにおわします」
「ここだ」
 大声で王は応えた。
女は残骸のように床に打ち伏していた。
その髪を掴んで仰向けにさせ、王は、あらためて女を調べた。
脚の間を、陵辱されたあとの生々しい血で汚し、ひくひくと、びくついて、ふるえている女は、
小ぶりの乳房と、細い腰からまるい尻へと続くまろやかな、そしてまだ生がたな感じのする曲線をもっていた。
女は逃げるような素振りをみせて、抵抗の腕をあげたが、すぐにがっくりと光の中に首を傾けて、
王の腕の中で気を失ってしまった。
気絶した女をそのまま片腕に抱いて、王はその優しい顔立ちや、その乳首、先刻の暴行の痕を股の間に
とどめたまま弛緩している、すんなりとした脚の美を、もう一度男の目で検分した。
 気絶している女の、乱れてほどけた美しい髪を、王は手ですくった。
(異教徒か)
「王。王。これは何ごとでございますか」
 首と胴体が分かれている兵士たちの死体に、駆けつけた近衛兵たちは、驚いて聖堂を見回した。
王がやったのに違いなく、そして、王が抱いている美しい異教徒の娘の脚からも、血が流れていた。
「ご無事でございますか、王」
「その娘、よもや、王にご危害を」
 女の身体は、軽かった。
「異教徒の信仰のほどを審問するのに、いい生体を手に入れたぞ」
 王は、異教徒の女をその肩に担ぎ上げた。
乾いた埃が舞い上がり、外の火炎の色を映した透けた色のかけらとなって、ちらちらと聖堂に舞い落ちた。


[続く]

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