ご注意:苦痛・流血をともなう本編の過激描写は、小説としてのフィクションです。
決して人体に試さないで下さい。死亡・大怪我・病気に至ります。


[雄鹿の館]・V




 その部屋は、狭く、照明も、蝋燭の暗い暖色のみであった。
そのために、調教台の上に載せた女の裸体は、古典的な絵画から抜け出して
きたもののように、薄い影をひいて、寂しげに見えた。
 左右の柱に両手首を、両足首を、台座の脚に拘束具で留めさせると、
いつものように肉玩具は、台の上に上体をうつ伏せにさせられた格好となった。
張りつめた豊かな胸と、細い腰。
突き出されている女のまるい尻は、紅色の陰部の溝をのぞかせて、その先に、閉ざされた
もう一つの性感帯を怯えたようにぎゅっとすぼませ、これから行われる調教を待っている。
 準備ができると、ギョームは、調教部屋から下僕を退出させた。
下僕は暖炉に薪を足して、うやうやしくギョームに礼をし、部屋から出て行った。
 四肢を縛られたシモーヌは、観念したように目を閉じて、伏せた顔を横に向けていた。
その頭の前には、女の表情をくまなく映す三面鏡が据えられており、そのせいか
調教部屋はいっそう、中世の手術室のような趣きになっていた。
 目の前にある、女の白い尻と、ほっそりとしたかたちのいい両脚を、ギョームはしばし眺めた。
肛門をつつくと、怯えたシモーヌが身じろぎし、拘束具の鎖が、がちゃりと鳴った。
どの女も、口が利けないとは、残念なことだった。
 以前、支配人のクラオン侯にそれを言うと、黒髭をたたえたクラオン侯は年齢不詳の
笑顔で、笑い出した。

 ------そちらは巷の娼館でも間に合いますでしょう。
     口が利けないからこそ、いかなる責苦も受け入れる、肉玩具なのですよ。

 つづいて、『雄鹿の館』の支配人は、その冷ややかな目で、ギョームの目をじっと見据え、その
薄い唇を半月型を吊り上げた。
「ギョーム様、お愉しみいただけておりますでしょうか。他にご希望がございましたら、
何なりと、お申し付け下さい」
 それは、クラオン侯が挨拶がわりに、いつもギョームに告げることであった。
客人の口から、まるでさらなる要求を待ち望んでいるかのように、何度も、クラオン侯は
それを繰り返すのであった。
クラオン侯の信を得る為に、ギョームは思いついたことを頼んでみた。
その晩、ギョームが奉仕させている女は、マノンであった。
「では、ひとつ」
「どうぞどうぞ。何なりと」
 陰毛を剃られている間、卓上に横たえられ、脚を拡げられたマノンは、毛を刈られる羊のように
下僕たちの手で抑えつけられていた。
 館の女たちは、召使のような黒いドレス一枚しか与えられていなかったが、それを腹のところまで
捲り上げられ、下着のない下半身を男たちの目に晒されているその姿は、哀れで、扇情的であった。
些細な要望であったかもしれぬが、かえって、そのことはギョームの立場をよくしたようだ。
 クラオン侯とギョームの監督のもと、下僕の手で泡立てた石鹸を秘処に塗られ、恥毛を剃られてゆく
マノンの股間を眺めながら、クラオン侯はギョームにワインをすすめ、微笑んだ。
「ギョーム様はご趣味がよろしい。好き好きではありますが、このマノンや、シモーヌは、
陰毛がないほうが確かに、引き立って見えます」
 それから、クラオン侯は、その長い指の、人差し指と中指を、毛の処理が済んだ肉玩具の
穴の中に差し込んだ。
 マノンはすぐに、呻き、喘ぎ出した。
女の中で指を巧みに動かしてマノンを呻かせていたクラオン侯が、その指を
すばやく引き抜いてみせると、愛液とは違う透明の水が、マノンの股から迸り出た。
「ギョーム様も、どうぞ」
 美しい女は、下僕に両膝を開いたかたちで抑え付けられたまま、二人の男の手で代わる代わる、
何度も強制させられた。
 ギョームがマノンを辱めてやると、すぐに、指があたたかなもので濡れた。
マノンは恥毛を剃られていたので、陰部から透明なそれが溢れ出すところがはっきりと見えた。
 ギョームに膣壁を、クラオン侯に陰核をかわいがられたマノンの迎えた絶頂は、下僕に
抑え付けられているその身が卓上で弓なりになるほどであった。
 噴水の芸を強いられた女の薄紅色の花びらから零れ出た淫らな液は、床にまで
飛び散り、腰をあげさせると、背中のほうまで濡れていた。
 頬を紅潮させてもがいている女の顔を、クラオン侯は満足げに、目をほそめて観ていた。

 以来、クラオン侯は、時々、ギョームが女を可愛がっている最中に、ふらりと
客室に現れることがあった。
おそらく、『雄鹿の館』の支配人として、どの客室へも同様に巡回しているのだと思われた。
 礼儀ただしいノックをして室に現れるクラオン侯は、たいていは壁際に立ち、客よりも
肉玩具のほうへと、その冷たい目をあてて、見物をきめこむ。
そして現れた時と同様に、一礼をすると、しずかに、音もなく去ってゆく。
 一度だけ、ギョームがイヴォンヌという金髪の女の唇へ肉棹を押しつけた時、クラオン侯は
すばやくイヴォンヌの背後に回り、イヴォンヌを羽交い絞めにして膝をつかせた。
「どうぞ」
 ギョームによって喉奥を突かれ、クラオン侯に指で乳首を抓まれている間、
金髪のイヴォンヌは、ウーウーと、小獣のような唸り声を発し、嚥下させた後は放心したような
目になって、床にへたりこんでいた。
 どの女も美しかった。
どの女も口が利けず、館を訪れる男たちに奉仕するために、『雄鹿の館』に飼われていた。
そして女たちは、クラオン侯を、ひどく怖れていた。
 娼館の主が、商品の女たちを手づからしつけ、性技を仕込むのは、当たり前のことである。
しかし『雄鹿の館』の女たちは、陵辱者や征服者への恐れだけではない、まるでクラオン侯が
本物の悪魔であるかのようなひどい怯えかたを見せるのであり、中には、唇をわななかせて
失神しそうになる者までいた。
 そんな時も、クラオン侯は冷たい笑みを崩さずに、ギョームをもてなしているのが
どの女であっても、一定の冷徹さで、壁際から見物しているのであった。


 調教台の左右には、消毒液と、手術道具のように並べられた、様々な形状の
責具が揃えられていた。
 調教師の言葉には、ギョームもまったく同意であった。
女のからだは無理強いするよりも、手間をかけてかわいがるほど、淫らにひらき、しまり、
男を悦ばせるように出来ている。
「シモーヌ」
 声を掛けてやると、両手両脚を拘束されたシモーヌのからだが、緊張のためか、ちいさく震えた。
うつ伏せにされて縛られている女の陰部の溝を温めるように撫でさすってやり、恐怖をとりのぞいてやる。
肛門をいじった指や道具で、膣や陰核、その他の繊細な粘膜に触れないように気をつけながら、
潤滑液を垂らしてやり、全体をくつろげるように愛撫してやる。
 膣を指で責められたシモーヌの呼吸が、乱れはじめる頃を見計らって、ギョームは女の尻の穴に
調教用の淫具の先を挿し入れた。
 『雄鹿の館』を訪れた、最初の晩。
 ギョームは引き出されてきたシモーヌを暖炉の前に押し倒し、ろくな前戯もないままに、
おのれの肉棹を深々とシモーヌに沈めた。
シモーヌは若く、美しく、大鹿の角の上に架けられている剥製の女に似ていた。
そして、ギョームが探し求めている、忘れられない女に。
(オーレリア)
 これほどに欲しいと思った女は、ひさしぶりだった。
 シモーヌを貫いているのか、オーレリアを襲っているのか、もはやわからなかった。
オーレリアを失った年月の痛みは、凝縮されたものと変わり、持て余してきた溶岩のようなそれを
ギョームはシモーヌにぶつけた。
泣きじゃくり、悲鳴を放っているシモーヌの、その泣き声すらも、男を煽った。
 ギョームはシモーヌの細腰を圧し伏せ、鉄の棒のように堅くなった一物でめちゃくちゃに
女の子宮を突き上げ、女の膣壁をすり上げた。
オーレリアも、ここで、こうされたはずだ。この女にも、そうしてやる。
 それも、口実であったやもしれぬ。
感度を見るために、シモーヌの乳首をはじき、その陰部をくつろげ、拡げた時に、男の欲望は
堰を切り、突破口を求めて、女に襲い掛かっていたというのがただしい。
よがり泣いている女の美しい肉体を握り潰すようにして、ギョームは一晩中シモーヌを
辱め、いたぶり、鏡の前で後ろからも前からも犯し、欲望のままに扱った。
 ギョームはシモーヌの調教権を買ったのだ。
それが、『雄鹿の館』の客となるということだ。それならそうして、何が悪い。
(オーレリアが、誰かに買われたように)
 男の精で股間を濡らし、びくびくと腿をふるわせていたシモーヌは、あの時、まるで、
クラオン侯を見るような怯えきった目をしてギョームを見上げ、その身を男のからだの下で
わななかせていた。
 あの日の償い、というわけではないが、それ以後、ギョームはシモーヌを丁寧に調教した。
淫具をシモーヌの肛門の中に丁寧に埋め込んでやる。
シモーヌが怖がるので、その間も、空いたほうの手を下からしのばせ、陰核を撫ぜてやる。
肉芽に加えられる刺戟のほうが強く感じるので、女はそちらに意識を奪われ、異物挿入への
恐怖が薄れる。
 シモーヌの肛門は、今はまだ、いちじく型の小さな責具の太いところを、ようやく咥えるほどである。
それを慎重に抜き差ししてやっていると、扉が叩かれ、クラオン侯が入ってきた。
シモーヌの喘ぎ声と、打ち鳴らされる拘束具の響きばかりが、調教部屋の音であった。
「ずいぶんと、シモーヌを気に入って下さって」
 珍しく、壁際からクラオン侯が話しかけてきた。
シモーヌの頭の上には三面鏡が据えられているので、悶える女の顔は、肛虐を見物する
男たちに丸見えであった。
床に滴り落ちるほどの潤滑液を与えているので、淫具は、さほど抵抗なく沈んでいく。
 鏡の中のシモーヌの顔が、ひき歪んだ。
直腸にあたっている突起部分が、気持ちが悪いらしい。いずれは、これに感じるようになる。
ギョームはその部分を内壁に軽く擦り付けるようにして、責具を揺さぶってやった。
女の尻が、ひくつきだす。
「シモーヌの感度はいかがです」
「悪くはない」
 ギョームはシモーヌの尻に責具を埋めたまま、シモーヌに休憩を与えてやった。
そう、悪くはない。この女は異物に過敏な反応をみせている。
 オーレリアは、どうだったか。
肛門性交にひどく恥じ入りながらも、椅子に坐ったギョームの膝の上に尻を乗せて、
拡げた両脚を椅子の外に出し、乳房を振りたててよがっていたオーレリア。
 クラオン侯が壁から背をはなした。
シモーヌがびくりとふるえた。
尻に挿したままの淫具が、シモーヌの怯えにあわせて、かすかに上下していた。
「ギョーム様、あなたは本当に紳士でいらっしゃいます。ですが、この館では遠慮はご無用です。
いかがでしょう、ためしに今宵はひとつ、シモーヌを泣かせてやっては」
 クラオン侯は、室から出て行った。


 屋敷に送られる黒馬車の中で、ギョームは目を閉じ、額に手をあてた。
窓がない馬車であったが、外は、どうやら、小雨が降ってるようだ。
 帰り際に、はじめて、自分以外の客の姿をみた。
初老の男が、首輪を嵌めた女を連れて、廊下を曲がるところであった。
 王侯の饗宴のごとく、あらゆる料理が供される『雄鹿の館』の晩餐。
クラオン侯と食事をとっていると、ワインを運んできたのは、金髪のイヴォンヌであった。
ギョームが見つめている中、クラオン侯を怖れるイヴォンヌは、ぶるぶると震えながら
彼らのグラスにワインを注いだ。
「イヴォンヌ」
 クラオン侯が冷たい目で、卓上を叩き、促した。
イヴォンヌは、床に膝をついて前かがみになり、黒いドレスを胸のあたりまで捲り上げると、
彼らの方へ、尻を突き出した。
下僕の手で、瓶の鶴口に似た淫具を肛門に挿し込まれたイヴォンヌは、それが動かされはじめても
ずっとその姿勢でいるように求められた。
 彼らは食事を続け、イヴォンヌの呻き声を聴きながら、ワインを飲み干した。
イヴォンヌが開放されるのは、彼らのグラスが空になった時で、呼ばれたイヴォンヌはふらつく
足取りで立ち上がると、彼らのグラスにワインを注ぐのであった。
「以前、オーレリアという名の玩具が、堪えきれずに、客人の前でご褒美を床に落としてしまいましてね」
「ほう」
 興味なげに、ギョームは料理を口にはこんだ。
ちらりと見ると、肛門責めにあっているイヴォンヌの白い尻がわなわなと震えている。
「オーレリアは、お客さまが、鞭の先で陰部をなぞるのに、堪え切れなかったのです」
「その者は、粗相のお仕置きをされたことでしょうね」
「もちろんです。列席のお客さまたちへの詫びとして、オーレリアは、ダーツの的にされましたよ」
「ダーツですか」
「解剖される蛙のかたちにして、回転台の上に縛り付けました。性感帯に矢が刺されば高得点です。
おお、もちろん陰核は皮をむき上げて針でとめ、芽をむき出しにさせておきます」
「なるほど」
 ギョームはワインをひと口、口に含んだ。
「オーレリアの泣き叫びぶりは、素晴らしいものでした。ゲームが終わるとそのまま回転台を
逆さまにして、晒し者にしてやったのです。乳首と陰部にダーツの矢を刺され、蛙の格好で
逆さまになっている肉玩具の姿に、お客さまはたいそう御悦びでした。鼻血を出した様子ときたら、
まるで下口から呑まされたワインを吐き出しているようで」
「仰りたいことはよく分りました、侯」
 ギョームは席を立った。
「そうならぬよう、シモーヌの括約筋は、ここにいるイヴォンヌのように、よく鍛えておいてやるとしましょう」

 馬車は、橋の上を渡っていた。
新聞売りの声、乞食の歌、外の喧騒がわずかに聴こえているところをみると、
都市部に入ったのだろう。
 シモーヌの抗いともがき、そのはかない声を思い出すと、また、おのれの一物が
堅くなってくるのが分った。
 侯は、いつも後で、女たちのからだを調べているに違いない。
おそらく、ギョームはクラオン侯に、試されているのだ。だから、オーレリアのあの話は嘘なのだ。
クラオン侯はギョームを見極めようとしている。
肉玩具へ施してやる仕置きの程度に応じて、淫宴に招く資格のありなしを。
 馬車の鞭の音に、女の悲鳴と拘束具の音が重なった。
(オーレリア)
 それは、倒錯的で、強烈な快楽を男に呼び覚ますものであった。
拘束された女を犯している間、ギョームは正面の鏡に映っているシモーヌの顔を見つめていた。
 助けを求めている、オーレリアの顔を。
 
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