ご注意:苦痛・流血をともなう本編の過激描写は、小説としてのフィクションです。
決して人体に試さないで下さい。死亡・大怪我・病気に至ります。



蔦の塔



■三.


 椅子にかけたままの、病の人の足枷の鎖が小さく鳴った。
切々と、外国帰りの男は続けた。
「七年前、まだ何も知らぬ乙女であられた貴女のおからだに、わたくしと
この塔の主の二人がかりで、惨い検査をいたしました。先王は貴女の
もう一つの穴もご征服になることをお望みでしたので、医師と相談の上、
肛門だけは事前にわれらの手でほぐして差し上げておりました。
貴女はとても痛がってお泣きになっておられました。膝を開かれ、両脚を
上げられた格好のまま、幾度も小さな声で『やめて』とすすり泣き、
触れられるたびに哀願されておられました」
 父がこの男と共に、病の人の処女検診を担っていたとは、知らなかった。
青褪めている女の手を握り締めて、男は病の人を見上げた。
ぼくは病の人の肩を支えた。可哀想に思い出すだけでも辛いのか、失神しそうだ。
しかし、蔦の塔を訪れた客人がその話をしたいのならば、病の人は辱めの
一環として、それを聴かなければならないのだ。
「羞恥と絶望に沈む貴女に湯浣腸をして差し上げました。
湯浴みにおいても隅々まで我らの手で清めさせてもらいました。
新床にも同席し、先王の行為を容易ならしめるべく、それを
手伝ったのも我々でした。蒸せるように暑かった王のご寝所で、
貴女はずっと、お目を閉じておられました」
 数年前に遊蕩がたたって突然死した先王は、固太りした醜男で、変態じみた
方法で女を酷く扱うことで有名であった。
 さぞや厭わしかったであろう最初の蹂躙のことを持ち出されると、病の人はいつも
ひどくおののいて、嘔吐することさえあった。老王はこの若い女の心までも
引き裂いてしまっており、その傷口は七年経ってもまだ生々しく、塔に幽閉されて
以後の奉仕とは違うところで、苦しみの記憶となって女を貫いているようだった。
 そして、そんな女の怯える様子みたさに、わざとしつこく傷口をえぐり、
往時のことを病の人に尋ねる客もいた。
『崩御なされた先王さまは、どんな道具で、どのように貴女を愛でられたのです?』
『嘘をついてはいけませんよ。先王さまのお楽しみの場には、居合わせたことが
あるのです。先王はきっと貴女に、ここを、こうしたのではありませんか。ほら、ここ』
 外国から帰ってきた父の友人は、恐怖に縮こまっている病の人の白い手を
おしいだき、そこに接吻した。
 女を見上げる男の目には、狂おしい情欲が浮かんでいた。
 見慣れた光景だ。
男たちは好奇心と同情をもって、この塔の女に逢いに来る。
そして、もとは高貴な出の、修道院にいた女の、俗世の垢に染まらぬ姿、
足枷を嵌められた無力なその様子を目の当たりにして、かつて憶えのないほどの
残忍な獣欲を覚えるのだ。
 低級娼婦に試せぬことでも、彼らは、この方にやった。
病の方がこの塔に幽閉された最初の頃、特にそれは酷いものだった。


 新王が即位し、御世が変わると、ぼくの父は病の人の延命のために
王に或ることを願い出た。
 贖罪の日数を大幅に減らし、女の肌が傷つくようなことは極力禁じる勅令を
いただきたいと。
「国王の思し召しがあった時に、あの方のからだが使えないとあっては
申し訳ないことです」
 新王はその父親に似て陰湿で好色であったから、月に一度の楽しみにしている
蔦の塔の訪問の障碍となるものは、何においても除けておきたく思った。
 王は、自分の番の際に病の人を存分に苛むためにも、病の人をあまり弱らせ
ないようにしたいという父の申し出理由に納得し、快くそれを許した。
「七年前------」
 外国から帰ってきた男は感嘆を隠さなかった。
「ご記憶にはないかもしれませんが、七年前、先王がそれをお果たしになる間、
貴女のほそい足首を両側から持ち上げていたのは、わたくしと彼でした。
それだけでなく、先王のご征服が終わった後には、別間にて我らも貴女を辱め、
陵辱いたしました。あれは、城の牢の中でのことでした」
 男は、椅子の後ろに立っているぼくを振り返り、昂奮した様子で言った。
「あの時は、満足にできなかった。この方は泣いておられた。三日三晩つづいた
先王の仕打ちが酷くてね。ほんの少し乳首に触れるだけでも、悲鳴を上げてしまう
ほどだった。だから、彼と共に、二人がかりで寝台に押さえつけて、ようやく行為を
果たしたのだよ」
「そうですか」
 病の人は、そうされる為に、この国に差し出された女だ。誰がどう扱おうと、それは
咎められるべきものではない。
 軽蔑などと、とんでもない。
病の人は、修道院で祈りの一生を送るはずの方だった。
先王の兄の血をひいているということが、病の人の運命をねじ曲げた。
彼女は叛乱を二度と起さぬ証として、当時の王が求めるままに、できるかぎり高貴な
身分の美女として王に差し出された詫びの品。
一切の人権を剥奪され、名も消され、叛乱への制裁と征服の証として、この国の
王と男たちに犯されるだけの存在としてこの塔の中に繋がれた、犠牲者なのだ。


「豚のように、豚小屋で飼ってやるといいのに」
 ぼくの館にいる病の人のことを、宮廷たちのご婦人から下女にいたるまで
女たちは散々にけなして、憚らなかった。
 男たちの口から洩れ聞こえてくる、病の人の、その際立った美しさや、しとやかな
哀しい風情が、なおいっそう、女たちの嫉妬心を煽るようであった。
「よくも生き恥を晒しているものね。いくら自害などしたら係累の住まう地に
侵略の裁きが下るからといって、案外、いまの境遇が愉しいのではなくて」
「そうよ。本当に身を恥じる心があるならば、自害などせずとも、病気になってとうに
はかなくなっているはずよ」
「その女、よほど好きなのよ、あれが」
「殿方が訪れると、自らドレスを脱ぎ、犬のように四つん這いになってそれを
求めるそうよ」
「自分でお気に入りの性具を咥えて男を待っているそうじゃない」
「お尻のあそこから、おつゆをずっと垂らしているとか」
「けがらわしい」
「修道院から出ることが叶って本当は本望なのでしょ。男をあれほど通わせて
いるところをみると、志願してこの国に来たとしか思えない。生まれつきの
淫乱女だわ。なんていやらしい」
 蔦の塔に通ったことのある男たちの口から病の人の容姿や、その
従順可憐な様子を聞き出しては、女たちはいっそう口汚く病の人を罵った。
「先の王さまに取り入って、王さまの上で腰を振りながら命乞いをしたのだとか」
「男たちのあれをしゃぶりながら、ドレスや宝石をねだっているとか」
「うまくやったものね。計算高い女だから、閨の手練手管も、男に媚るのも
巧いのでしょうね」
 蔦の塔の女をよく言うものなど、女たちの中には誰一人としていなかった。
また、男たちのほうも、塔の中の女にひと目逢うなり、その恥じらいや、怯えた顔、
足首の枷にすっかり昂奮してしまい、散々に女を犯した後で、実際に高価な
贈り物を寄越す者が絶えなかった。
 どこかしら、自由のない、徹底的に弱い立場におかれた清楚で高貴な
美女というものは、男たちの加虐欲と庇護欲の双方を強烈にそそるものらしく、
男たちは足繁く蔦の塔に通って来ては、女を愛で、共有し、おのれらに
仕えさせていた。
 あの繊細な美しい人が、男たちの前で惨めな痴態をとらされて、
「お好きな張型を挿れて可愛がって下さい」だの、
「心をこめて口淫いたします、ご満足いただけるように努めます」だの、
「お願いでございます。今日は、わたくしに浣腸を与えて下さいませ」だの、
思いつく限りの恥ずかしいことを言わされて、行為を強要させられて
いる時、男たちの間にあって病の人は、もともとの品位と恥じらいに
引き裂かれて身も世もないほどに嘆くのであったが、そうであればあるほど、
男たちは病の人に執心し、女をさらなる恥辱と被虐の極みに追い詰めて
いくのが常であった。
 それは、病の人がいつまで経っても巷の貴婦人や娼婦たちのように
男たちに対して媚態をみせることがないだけに、いっそう清純なものとして、
男たちの心に残るものだった。
 ぼくの館を訪れる男たちは、蔦の塔の女を、女神のようにも、奴隷のようにも
扱っていた。それは父の友人で、外国から帰ってきたばかりのこの男にとっても、
どうやら例外ではないらしかった。
「ドレスを脱いで下さい。隣室が処置室ですか。ではそちらにて、話の続きを
いたしましょう」
 やがて掠れた声で男はそう求めた。


 病の人は、ぼくの父を愛していた。
それは乙女の最初で最後の恋だった。
生涯を塔に幽閉された女の、幽囚の日々の唯一の慰めとして、彼女は
ぼくの父を熱愛していた。
 客人のどのような命令にも従わねばならない病の人は、辛い最中にあっても、
ひとこと父が、
「そうしなければいけないよ」
 優しく重ねて命じるだけで、女にとっては、それが父から与えられた至上のものに
変わるかのようであった。
 客人に酷く責め立てられてすすり泣いている病の人は、その最中も父だけを求め、
父の姿だけを探し、父の腕にだけすがりついた。
 身も心も、病の人は完全に、ぼくの父に隷属していた。父の慰めさえあれば、女は、
どのような辱めにでも耐えるといったようだった。
 それは至極当然の成り行きであったろう。
ぼくの父は、乙女であった彼女のからだをはじめて詳細に調べた最初の男であり、
先王の次に彼女を犯した男であり、客人を連れて来るのも、彼らが女を陵辱するのを
見守るのも、女を世話し、宥め、その涙をぬぐってやるのも、彼女の足首の枷を開錠し、
錠をするのも、すべて父を通して為されることだった。
 ぼくの父は、蔦の塔に幽閉された女にとって、いわば絶対神のようなものだった。
先王に処女を散らされた後、それを慰撫した男は、女を優しく抱き、忌まわしいものを
そうすることで拭い去り、べつのもので満たし、清めてやったのだろうと思う。
 病の人は父への愛をもって、その正気を保っているようなところがあった。
それがために、女は、どんな仕打ちを受けようと処女性を失わず、誰もが驚くほどに、
いつまでも清純な、初々しいはじらいと悲哀を保っていた。
 乙女の哀しみをもって、女はおのれを恥じ、そしてその汚辱にまみれた身をもって、
全身全霊でぼくの父を頼り、すがっていた。 <
 そして父も、そんな女をこよなく愛した。
女を膝に乗せてやり、その股に手を差し入れて慰撫してやる父は、しがみついてくる
女を片腕に抱いて、何度その小さな耳朶に愛の言葉を囁いたことだろう。
優しく繰り返される男の技巧に吐息を洩らして喘ぐ女の腰を抱き、父はどれほど、
病の人のしみ一つない白い肌を、その繊細な性感を愛でただろう。
愛によって濡れてゆく愛玩物を、男の熱意と、支配の満足でもって父は調整し、
人格のない性奴隷から、ひとりの恋する乙女に戻してやっていた。
 美貌の父と、いつまでも初々しい囚われの女の姿は、嫉妬で気が狂いそうに
なっているぼくの目にも、一枚のきれいな絵画のように、お似合いのものであった。
塔に閉じ込められた女が父にすがる純真さは、それほどに、清かった。
いたましいほどに。


 椅子に固定された病の人は両脚を左右に大きく広げられ、次の
措置を待っていた。
外国帰りの客人は、かの地で求めてきた道具を台の上に並べて、ぼくに見せた。
それらは、客人が貴人たちに頼まれて、各地で収集したものなのだという。
太古より変わらぬ基本形の他にも、とてもそれとは思えぬような奇怪な形状のもの、
仕掛けで先端が開くようになっているものなど、さまざまだった。
 男は別の箱を開けた。そこには、あらゆる淫剤や薬が揃っていた。
「潤滑は足りているようですね」
 女の淫裂を、男は二本の指で寛げた。
 すでにぬるんでいる病の人の陰裂へ何本目かの試作品の先端があてられた。
男は慎重に、それを女の奥へと埋めた。
「感度もいい」
 女の襞が内側に巻き込まれ、襞が擦れたようなきつい具合になっている。
「力を抜いて下さい」
 病の人が切なげに眉を寄せているのを見て、ぼくは女の乳首や腿の内側を
指先だけの力でやわらかく撫ぜてやった。
「素直に受け入れて下さい」
 病の人は吐息をついた。女が息を吐いたところで、男がそれを押し込んだ。
奥まで突かれた病の人は悲鳴を放ち、乳房をそらした。拘束具がぎしぎしと軋む。
病の人は泣き始めた。異物を咥えこまされた腰を自ら揺らし、逃れようとしては
かえって強く突かれてしまう。
 やがて足枷をつけられた女の腿がびくびくと硬直をみせた。
「悦んでおられる」
 満足げに、男がいったん淫具を抜いた。股間を濡らし、内股をひくつかせて
女が喘ぐ。
「抜かれては嫌なのですか。そんなに気に入ったのですね」
 病の人はふたたび張型を押し込まれ、突き上げられた。
男は幾度もその寸止めを繰り返した。そのうちに、異物を吐き出そうとする収縮が
快感と連動して、嫌がる心を女のからだが裏切り、病の人のそこは挿入物を
深く巻き込み、引き抜こうとしても、内部の顫動がそれを引き止めるまでになる。
真っ白な女の脚の間に突き立った奇妙な物体は、男が手を離しても、もう落ちなかった。
「いやらしい方だ」
 窮屈な音を立てて、ようやくそれは女の膣から外された。
 七年前、ぼくの父と共に先王に献上された病の人を組み敷いたことのある男は
病の人の淫部を触診し、感慨深げに溢れるものを指ですくった。
「随分と女になられた。こんなに濡らして」
 膣圧がいったん解けたそこは、淫水でぬるみ、荒い息をついている女の呼吸に
合わせて、ひくひくと小刻みな動きをみせていた。
 客人は病の人の乳房をもんだ。
「胸も少し大きくなったようだ。お尻の穴も時々は征服されているのでしょうね?」
「この方は、拡張をとても嫌がるのです」
 ぼくは病の人の花芯に指を差し入れて具合を診てみた。
まだ熱い。蕩けるようにやわらかくなった内襞がぼくの指に吸い付いて、
慰めに指を動かしてやると、淫水が滲み出てきた。
「嫌がる?」
「無理に道具を挿れられて裂けたことがあるのです。幸い大事には
いたりませんでしたが、しばらくの間、排泄させるのが大変でした」
「それは可哀想に。肛門も性感帯です。開発には、慎重な調教が必要です」
 瑞々しい色を失わず、男の意のままに開いたり閉じたりする女の濡れた器官に
目を据えて、外国帰りの客人は変わったかたちの道具を鞄から取り上げた。
それは望遠鏡に似た筒状になっており、ねじを回すと、先端の径が調節できる
ようになっていた。
 男は金属の棒の先に潤滑液を塗りつけた。
「何ですか、それは」ぼくは訊いた。
「肛門拡張器具です」
 病の人を押さえておくようにとぼくに頼んで、男は説明した。
「括約筋を切らないように、径は小さめから始めます。徐々に直径を大きくして
径の大きさに見合った拡張棒がたやすく直腸に入るように、これを使って肛門の
入り口を拡げてやるのです」
 病の人の尻の穴に、金属の先端が埋め込まれた。

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