ご注意:苦痛・流血をともなう本編の過激描写は、小説としてのフィクションです。
決して人体に試さないで下さい。死亡・大怪我・病気に至ります。



蔦の塔



■五.

 ぼくは何度、それを夢の中に見ただろう。
 冬の朝、まだ降り止まぬ雪が窓をひらりとよぎる無音の中に、父と病の人が
身を重ねて眠りについている。
 父に愛されたあの人は、塔の中で受けているいつもの悪夢も父の手ですっかり
拭われて、そのからだを男にあずけたまま深く眠っている。床の上には、外された
足枷がおとなしい猫のように落ちている。
 夜の歓びの余韻に幾重にも包まれた、しずかな呼吸。幼子のように男の胸に
すがり、手足をからめたまま男の腕の中で安らかに眼を閉じている、病の人。
 雪影は、二人を眠らせる。
 そしてその夢想の中で、いつしかぼくは父となり、父に代わってあの人を愛し、
この腕に抱きしめて、いつまでも、その眠りを見届けるのだ。


 父が国王に対して真っ向から逆らった抜歯の件のほかにも、父をひどく
憤慨させたことが、もう一つだけあった。
 それは、母に関わることだった。
 宮廷に出ても、容貌からも話術からも、とうてい誰からも相手にされない母は
ほとんど館から出なかったが、そんな母の許にしばしば手紙を寄越す、高貴な
身分の男がいるというのだ。
 いつ頃から彼らの間にそのやりとりが始まったのかは分からない。
母に手紙を送りつけてくるその男は、『公爵』と呼ばれていた。
「その方は塔には入れないよ」
 苦々しく、父はぼくに教えた。『公爵』は父の許にも手紙を送ったらしかった。
「確か、先祖がたてた武功により莫大な財産を相続した方だ。普段は領地で
お暮らしなのだが、最近になって都に出てこられた。その財は減るどころか
金融業と手を組んで、いまでは一国を傾けるほどの巨額となっているという話だ」
「母上が、変な感化を受けないとよいのですが」
「好きにさせておきなさい」
 父は不愉快を隠さなかった。公爵は父に、蔦の塔へ案内してくれる
ようにと頼んできたのだ。
 その時、父と公爵の間でどのような話し合いがあったのかは分からない。
だが父は公爵にそれを許さず、公爵はひとまずは訪問を取りやめて引き下がった。
 ところがその後、公爵は直接国王へとそれを頼みこんだ。ところが、現国王は
『公爵』のことを胡散臭い男として嫌っており、蔦の塔の姫君に逢わせよという
公爵の願いを却下して、さらに何ごとにも陰険が徹底している王は、ぼくの父に、
公爵を拒否してもよいという権限を授けた。
 その頃からである。母の許に、公爵からの手紙が届くようになったのは。
とはいっても、それを読むのは母であり、母は読みおえると公爵の手紙を暖炉の
火にくべてしまうため、その内容までは分からなかった。
 やがて、ぼくはそのことを忘れた。
 公爵という男がどのような種類の男か、もしもその時に少しでも知って
いたならば、忘れるどころか父の英断に大いに安堵したに違いなかった。

 思いがけずふたたびその名をきいたのは、例の、外国帰りの男の口からだった。
 所領地の視察からようやく館に帰ってきた父は、外国から帰ってきた男を
見ると再会を喜び、さっそく男が病の人を慰めたと知ると、その感想を聞きたがった。
「驚いた。まったくあの人は穢れていない」
 男は率直に病の人を褒め称えた。
「まるでまだ征服されていない処女地のままだ。先王に貫かれたあの初夜の、
清い乙女のままだ。高級娼婦のように温存していたのだね。感度はよくなったが」
 わがことを褒められたように父は喜んだが、男が病の人に肛門調教を
行ったと知ると、少し顔を曇らせた。父は近くに立っていたぼくを振り仰いだ。
 ぼくは弁解した。
「いつも、あの方はあれを辛そうにしておられますから、次に誰かがそれを
求めた時の為にも、少しでも慣れておいたほうがよいかと思ったのです」
「女体は、調教しだいだよ」
 男は肛門に出し入れするための淫具を両手でしごきながら笑った。
それは固形の玉を連ねたもので、太い玉と小さめの玉が交互に肛門に刺激と
休憩を与えるようになっており、それを挿れられると病の人の肛門は、まるで
唇のようにすぼまったり、きつそうに拡がったりを繰り返す。
「括約筋が切れて使い物にならなくなっては困るので、潤滑油も多めに
塗りこめて差し上げてから、ひと玉ずつ挿れるのだ」
 男の話では、それは「芋虫」という名の淫具だということだった。
「手をかけて拡張するうちに、尻の穴の方でもよい声を上げて下さるようになったよ。
これを埋めてずぼずぼと動かすと、腰をくねらせて、泣きながら悦んで下さる。
膣の方を指で探ると、これが素直に濡れておられるんだ」
「止める権利はわたしにはないが」
 父は男に頼んだ。
「後ろの穴に怪我を負われてしまって以来、あの方はひどくその行為を
怖がるようになっているのだ。あまり惨い仕打ちはしないでくれ」
「わかった。では初歩までにしておこう」
 外国帰りの男は、思ったよりもあっさり父の頼みを聞き入れた。病の人が
可哀想だというよりは、もとから、そちらの穴への嗜好は特にない男なのだろう。
ぼくもその「芋虫」を病の人に使ってみたことがあるが、玉をじっくりと押し込んだり
じらしながら引き抜いたりするたびに、病の人が肛門をすぼめて「あ」と切ない声を
放つのがかわいくて、しばらくの間、お気に入りの調教道具になった。

 そのまま外国帰りの男は蔦の塔の客室でいつものように病の人の
もてなしを受けたが、帰り際にふと思い出したように、父に訊いた。
「『公爵』が都に来ているのだって?」
「宮廷にいる」
 父はその話はしたくなさそうだったが、男は気がつかなかった。
「これは何年も前に、『公爵』の開いた宴に招かれた者の話だがね」
 そう断っておいて、男はその宴の模様を教えてくれた。
公爵は、南方から肌の黒い大男たちを連れて来て、用意の女たちを
客人の見ている前で好き放題に陵辱させたのだという。
 漆黒の肌の大男たちによって犯される女たちは凶暴な獣に貪られる無力な
兎も同然であった。前からも後からも無理やりに犯されている女たちの様子を
集った客人たちは間近から眺めて愉しんだのだという。
「それだけならば、何も珍しいことじゃないがね。さすが公爵というべきか、その
見世物に使われた女たちは、ほら、あの政治事件で失脚した高官たちの、
その妻女だったということだ。見覚えのある顔がたくさんあったそうだ。つまり
公爵は金で落魄した彼女たちを買ったのだ。『公爵』は遊び方を心得ておられる。
そそる光景だったろうね」
「その程度のお遊びならいいのだが」
 みなまで言わず、父は黙ってしまった。父は異様なまでに『公爵』を
警戒しており、その他にもまだまだ黒い噂は聞き及んでいるようだった。


 身分も名も抹消された上でこの国に囚われたあの人のことを父は何と
呼んでいたのだろう。ぼくと同じように、「貴女」だろうか。
それとも、二人だけの時にしか囁かぬ、何か愛しい愛称でもあったのだろうか。
 愉楽の極みにおいて、病の人はうるんだ眸で、父の姿を切なげに仰ぐ。
父に抱かれている時だけは、他の誰にも見せたことのない、静謐な、至福
そのものの顔をする。
 ぼくは病の人と一緒に風呂につかる時間が好きだった。
風呂桶の中で、片膝にあの人を跨らせるようにして坐らせて、ぼくは
病の人のまるい乳房に顔を埋める。どこまでも白くすべすべとしたあの人の
からだは、湯の中ではいっそう柔らかだ。
 陰部にあたっているぼくのものを、病の人は避けるような素振りをみせる。
そのたびに、ぼくは女の細腰をかかえて、抱きなおす。髪を結い上げている
女の首筋にぼくは口づける。
「自分で挿れて。腰を動かして下さい」
 女の耳朶が羞恥で赤くなっている。それを唇でなぞる。
湯船の縁に手をかけて、病の人は男のものを咥えたその腰を上下させ、ぼくを
悦ばせる。途中からはぼくも手伝い、女の腰を掴んで動かしてやる。
 どんなにしても違う。何度あの人を熱く抱いても、どうしても違う。
ぼくのからだの下、極点でほどけてゆく病の人の、そのからだのどこを探っても、
どんなに追い詰め、淫らな声を上げさせてみても、それは見つからない。
あの愛にとけた安らかな顔を、ねだるような唇を、病の人は、父にしか向けない。

 
 蔦の塔に通う客はいたが、母のもとに通う男はいなかった。
 女としての魅力のない、乾いた肌をした巌のような醜い年寄りに、関心を
持つようなもの好きなど、もとよりいるはずもなかった。
 もし母が、並の容姿と、快活な性格と、火遊びや浮気を生き甲斐とせぬまでも
貴族生活を謳歌するようなご婦人であったなら、父と母は互いに好きなことを
して過ごす、よくある貴族の夫婦であっただろう。
 しかし、母は依怙地で、内向的で、常に胸の裡に不平不満をたっぷりと
抱え込んでいるような、異常なまでに恨みがましい女であった。
 刺繍をして過ごしてはいても、その刺繍の図案はつづり手の何の感性も
歓びも感じられない、平凡な意匠に取り合わせのまずい色糸でみっしりと
埋め尽くされた、できばえの良くないものであり、そういった刺繍仕事ひとつ
とっても、母のやることは何らかの心地よさや優れた情感を、見る者の心に
呼び起こしてくれるようなものではなかった。
 その母の凝り固まった暗い情念は、館のはずれの蔦の塔を見つめる時にこそ、
もっともどす黒く燃え上がるようであった。『公爵』とやりとりを続けている母は、
それで気が紛れるどころか、以前にも増して、蔦の塔を睨みつけている日が
多くなっていた。そしてそんな時、母は最後には笑うのだった。
「そのうち塔にいるあの淫売には、天罰が下るのだ」
 塔から出られぬ女のために、父は、病の人が求めた刺繍の道具を一揃い
用意させて、塔に届けてやった。
 ぼくは反対だった。
「あの人が針や鋏を使って、衝動的に自分のからだを傷つけたらどうするのです」
 子供の頃、母が女の見舞いと称してぼくに針を持たせたことを、ぼくは
忘れてはいなかった。ぼくはそれを良かれと思ってやったのだ。瀉血をするのだと
信じていた。雪のように白いあの人の乳房があの時流した、小さな赤い血。それは
幽閉された女の涙のようであった。
 父は病の人に約束させた。
病の人に対して絶対的な支配力を持っていた父は、ただ病の人に、決して
勝手なことには使わないと、そう約束させるだけでよかった。
その上で、針は一本しか渡されず、鋏も、ごく小さい、先の尖りのないものにされた。
 幽閉の女は、限られた道具で、一日の許された時間、熱心に刺繍に打ち込んだ。
ぼくは女の隣に腰掛けて、それを見るのが楽しみだった。
魔法のように女の指先から編み出される小さな色彩世界は、この人の心の中に
大切に守られている、何かの美しい感情や感性の断片だった。
そしてそれは、洗練された色彩で、丁寧に、妙なる音楽のように美しく綴られる。
人一倍身なりに気をつかうおしゃれな父が、女の刺繍した布を帯に仕立てさせて、
それを肌身はなさなかった。その品は、誰からも褒められた。
 父は病の人を愛していた。病の人は、愛する父に見せるためだけに、まるで
その愛に応える微笑みや吐息をそうっと閉じ込めておくようにして、刺繍糸で
美しいものを作り上げていた。
 二人は蔦の塔の中で、彼らにしかわからぬ愛を綴っていた。


 宮廷の宴は退屈だった。
群がってくる淑女たちをうまいこと避けて、ぼくは友人たちと示し合わせて
夜風の涼しい露台に出た。
「ここにいるどんな貴女よりも、君のところのあの方のほうが美しい」
 友人たちはぼくにお世辞を寄せた。彼らは数日前、蔦の塔に通ったのだ。
「よがり哭きをたっぷりと見せてもらったよ。正直、最初は『雄鹿の館』の女に
勝るものはないだろうと思っていたのだけどね」
 友人の一人が通ぶった。彼は『雄鹿の館』の永代使用権を持っており、
あの館の女たちを使うのがお気に入りであった。
「大勢で押しかけてしまって悪かったかな。最後のほうはお声ももう出なかった。
娼婦たちと違い、蔦の塔の方は正真正銘のお姫さまというのがいいね」
 別の友人が同意した。
「おいたわしい。王女さまがあのような辛い境遇に堕とされるとは。
まあ、それも愉しめるところなんだが」
「あの足枷の鎖が工夫だね。どんな体位にさせても邪魔になるどころか、
いっそ哀れで、哀しげで」
 友人たちは満足げに頷きあった。
「雪のように色が白い方だ。肌もきめ細かくて、吸い付くようだった」
「あそこもね」
「色も形状もきれいだったし」
「よく調教してあると感心した。今度は薬を使ってはいけないかい?」
「ものによる。後に残るようなものは駄目だ」とぼくは言った。
「楚々としたあの風情で、口淫し、四つん這いになって尻を振って
下さるのだから、たまらないね」
「次はいろんな道具を持ち寄って、どれで可愛がって欲しいかあの人に
選んでもらうとしよう」
「お好きにどうぞ」
 広間では着飾った貴婦人たちが光の下で笑いさざめいていた。
宴の華やぎを見つめているぼくの脳裡には、病の人がその真心と、そして失った
自由への憧憬をこめて作った、何枚もの、美しい刺繍が夢のように浮かんでいた。
 ぼんやりしていると、友人がぼくの袖を引いた。
「『公爵』だ。君をお呼びのようだ。こちらを見ている」
 何の用だろう。
しかし、母と付き合いのある相手でもある。ぼくは気がすすまぬまま、あやしげな
噂のある、その男の許へと歩いて行った。

 『公爵』とは、背の高い、痩身の、鷹のような目つきをした四十がらみの
男であった。総髪はすでに白いものが混じっていたが、冷酷で知的な目を
しており、その厳粛な態度からは、何ともこちらに居心地の悪い思いをさせる、
冷え冷えとした強いものが漂っていた。
 こちらの心まで見とおすような目つきをして、公爵はぼくに向かって微笑んだ。
ぼくは礼をした。
「母がいつもお世話になっております」
「お逢いしたいものだと思っていました」
 公爵はぼくに気さくに盃を渡してくれた。
よく響く低い声、定めし、説教家にでもなれば、炎のごとく氷のごとく、壇上から
人々を魅了してしまうだろうと思われる、そんな力のある人物とみえた。
 ぼくは警戒していた。
公爵がぼくを呼びつけたわけは、母のことを話すのでも、父のことを話題に
するのでもない、この男が求めるものは蔦の塔の病の人に他ならぬのだと
直感的に思われたからだ。
 だが、公爵は病の人のことについては、一切触れなかった。
 漫然とした宮中用の会話を重ね、狩りの話をしている時だ。
「狩り」
 公爵の目が、暗くかがやいた。
「狩りはお好きですか」
「ええ、まあ」ぼくは答えた。
「それでは、ぜひ一度、わたしの領地においで下さい」
 公爵は親切に申し出てくれた。
「いろんな獣がおります。お好みのままに、お好きなだけ、お狩り下さい」
「ご厚意感謝します」
「どういった獲物がお好みですか?」
「そうですね。鹿とか」
「なるほど。若鹿。それとも年増」
 そこでようやくぼくは、公爵が獣ではなく、女の話をしていることに気がついた。
公爵の目は笑っていた。
「----それとも、蔦の塔の方のような?」
 いつの間にか、公爵の手がぼくの肩に回っていた。
公爵はぼくの肩を抱き抱えるようにして、楽人の奏でる音楽が流れている
広間から静かな廊下へと連れ出し、ぼくの耳に囁いた。
「ちょうど、領地から一人の女を都に伴って来ております。なかなかに
美しい女です」
「はあ」
「乳房の豊かな、腰のほそい、若い女です」
「……世話をさせる女は必要ですから」
「左様です。肉便器は必要です。下僕たちの為にもね」
 いつ階段を下りて、別棟に通じる廊下に出たのかも定かではない。
ぼくは背後の公爵に導かれるようにして、蝋燭の並ぶ通路を歩いていた。
「その娘の父親が、わたしの靴に泥をつけましてね」
 荒げることのない公爵の声音だった。
「お詫びに、その男の娘が何でもするというのです。それで、まずは処女を
差し出させました。美しいことで評判の娘でした。その手の慎ましい女は
いるようでいて、探してもなかなか見つからないことは、世の多くの男たちが
嘆いているとおりです。せっかくですので肉奴隷として改造した上で、この都で
付き合いのある貴族の館に、順番に送り届けてやりたいと思います」
 控えの間。扉が並んだ、その一室。
部屋に入るなり聴こえてきた呻き声は、女のものだった。何か白いものが
机の上にあった。それが女の裸体だと知れるまで、少し間があった。
 背後で公爵が笑った。
「貴方のお母上は、わたしが行うこういった懲罰の話を、いつも喜んで
聴いて下さるのですよ」
 口枷を嵌められた女の目はとろりとしており、後で思い返せば淫薬を
たっぷりと盛られていたのだろう。
 若い女は下半身に責め苦を受けている最中であった。その両の乳房は
縛り上げられて、両乳首にも錘つきの責具がついて揺れていた。
 鞭や淫棒を手にした下男たちは、公爵が入ってくると、礼をして退いた。
 歩み寄った公爵は、女の首に嵌められた首枷の鎖を引っ張った。
「お客さまだ。挨拶をするのだ」
「ウググ」
 女はぼくに向かって、こくこくと首を動かした。縛り上げられた乳房がぶるりと
揺れた。その尻からは淫具の紐が尻尾のように垂れ下がっていた。
「ウグ、ウググ」
 公爵に首輪を引っ張られた女は、机の上からどさりと床に転がり落ちた。
公爵はその地位から、幾たりかの特権を有していた。私的裁判権。領民の
処女を奪う初夜権。貴族以下の者に対する私的制裁権。
 床に這いつくばり、女は公爵の靴を舐めた。それからぼくの靴を。
 公爵を見上げる女の目には、薬による効果なのか、犬が飼い主を求める
それに似た媚びと懇願があった。
「続けよ」
 下男の手が女を押さえつけ、その尻の穴に別の張型を埋め込んだ。
調教を受ける女は、ひっひっと呻き声を上げて、その尻を振り立てた。
「何でもするから、父親の手足を切り落とすことだけは止めて欲しいそうです」
女の股間からは淫汁が飛び散って、身動きするたびに床を濡らした。
「ウグ、アググ」
「今後は、公爵さまのお城で、ずっとお仕えしたいそうです」
 涙に濡れた顔をして、女はぜいぜいと喘ぎ、何度も公爵の靴を舐めた。
下男たちはほとんど無表情にそれをやった。彼ら自身の肉棒も調教に使われた。
 公爵は女を引き起こすと、その乳房を揉んだ。
「腰の振り方が足りぬ。満足な奉仕ができるまで、服従を教えて躾けよ」
 女の膣と肛門を責め立てて動いている張型を凝視しながら、ぼくは
非難したいのか、逃げ出したいのか、もう分からなかった。
 視界がゆがみ、血の気が引いた。
その女は、どことなく病の人に似ていたのだ。もちろん病の人のほうがはるかに
美しかったが、しかしそう見えたのだ。ぼくは公爵の手を振りほどくと、
一目散に逃げ出した。
 
 外界から隔てられた塔の中、人知れず静かに紡がれていた病の人と父の
世間に隠れた蜜月は、ほどなくして突然に終わった。その年に流行った疫病が
国王と、ぼくの父の命を、あっという間に奪い去っていったのだ。

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