ご注意:苦痛・流血をともなう本編の過激描写は、小説としてのフィクションです。
決して人体に試さないで下さい。死亡・大怪我・病気に至ります。



蔦の塔



■七.


 奥方さま
 女体とは快楽と苦痛のはざ間にこそもっとも感度が高まるもの。
神のご采配で、支配を受ける女の器官はそのように創られているのです。
しかし、やりすぎては逆効果。
可愛がってやることを忘れると、それはただの恐怖と心身の破損にしか
過ぎません。真の屈服というものは、痛みと恐怖からは導き出せぬのです。
メスに精を植えつけることくらい、下等な獣にでもできましょう。しかし人間は
被支配物に対して、もっと複雑で高度な過程を踏むことが可能です。
絶対君主となり、そして可愛がってやらねばなりません。
厭いながらも、穢されるからだはそれを裏切った服従の反応をみせる。
抗いながらも、逃れようもなく悲哀を迸らせて自ら陥落してゆく。
その按配と匙加減こそが調教の要であり、面白いところなのです。
新しく蔦の塔の管理人となられた奥方さまにおかれては、どうかこの点をよく
お心得下さいますよう。


 水槽を囲んだ男たちは、女の顔を水中に押さえつけていた。
下半身側に回った下男が、病の人の脚の間に坐り、その女陰にじっとりと
性技をほどこしている。
 使い終わった張型が地下室の床に何本も投げ出されており、それは
病の人の足首を床に固定している鉄の楔の方にまで転がっていた。
「溺れさせるなよ」
 水中から引き上げられるたびに病の人は、はげしく咳き込む。そしてすぐに
また髪をつかまれて、水の中に沈められる。
 男の膣責めの動きが速くなると、水槽から水をあふれ出させて、びくびくと
女が尻もはげしく震えだす。
「淫乱め」
 病の人の白い尻を見つめながら、母は吐き捨てた。
男が別のかたちの張型を取り上げた。それが押し込まれると、ごぼごぼと
水音が立った。抜き差しを加えられた女が暴れだした。
「息をさせろ。殺すなよ」
 下男が道具を外し、おのれの肉棹を後ろから病の人に突き立て始めた。
「手ぬるい」
 母はぼそりと暗く呟いた。
「これでは公爵さまのご希望にはほど遠い」
 母の足許には、水槽から引き上げられた病の人がずぶ濡れのまま投げ
出されていた。髪を乱し、白い肌をつめたく濡らした病の人のその横顔は、
ぞくりとするほどに艶だった。
 病の人の尻を靴先で母は蹴りつけた。下僕に命じて膝が外を向いた
蛙のような不恰好なかたちに病の人の脚をひろげさせると、母は病の人の
はずかしいところを近くから覗き込んで指を入れていじくった。
 美しい人の膣の奥には、まだぬるいものが残っていた。
 母は目を吊り上げた。
「この女がこれほど悦んでいるようでは、征服したことにはなりません」
「奥方さま、今日のところはこれまでに」
 控えていた医師が進み出たが、母は無視した。
引き立てられてゆく囚われの女を見る母の目には、一片の同情も
憐憫もなかった。


 ぼくの泣き言に、友人たちは肩をすくめた。
そりゃもう、どうしようもないよ。
「お気の毒だとは思うけれど、もともとそういう運命の方だったのさ。
王族の方だといったところで、言ってみれば敗国の王女。庇う人間は
この国にはいないよ。蔦の塔に幽閉された時点で、あの方のお命はもう
終わったも同然だったのだ。けど君がそこまで頼むなら、君の母上に
こちらから頼んで、あの方を蔦の塔に見舞ってあげてもいいよ」
 しかし母は、彼らがぼくの親しい友だちだと知ると、彼らの訪問を断り、
蔦の塔には入れなかった。
「ごめんあそばせ。目下あのお方をこの国に合うように、調教しなおして
いるところでございますの。もとより、あなた方のようなお若い方の嗜好には
沿わない、不出来な品なのです。卑しい女ゆえ、粗相も多く、とてもご満足には
届くまいと存じます」
 ぼくは、藁にもすがる思いで新しく即位された王にも同じ事を頼んでみた。
彼は、まだ王子であった頃に、蔦の塔に通われたことがあった。
「ああ、あの方」
 王は、病の人を好ましくよく憶えていた。
「外国から娶った妻が嫉妬深いので、おしのびは控えていたところです。
そういうことなら、余が征服にうかがいましょう。新しい王がそれをするのだから、
誰も文句を言わないだろう」
「王がおはこび下さいましたら、あの方も、どれほど王を歓迎いたしますことか」
 王はまだお若かったが、幼少より宮廷の糜爛に首まで漬かっていたため、少々の
趣向では愉しまれなかった。その王が期待に満ちた顔をぼくに向けた。
「あの方は、まだ美しいだろうね?」
「たとえようもなく」とぼくは即座に答えた。
 王はにっこり笑った。
「そうか。余も数々の美女をたしなんできましたが、あの方ほどの悦びを
くれる女はいなかった。秘密に献上されたおもしろい玩具があるので、それも
持参してあの方を慰めてあげることにしましょう」
 ぼくは平伏した。
「蔦の塔の管理人であった父が亡くなり、現在は、わたしの母が塔の鍵を
握っております」
 青年王はぼくを慰めた。
「お悔やみを。余も、同じ流行病で偉大な父王を亡くしました。しかし互いに
喪も明けたことです。この国の王は余であることを知らしめるよい機会。
病の方への征服は、その一つとなるだろう。余が王であることは、あの方を
蹂躙することで証明されるのだ。それには父から引き継いだ廷臣たちの前で
それを行うことが肝要です。その上で余の手から、彼らにもあの方を与えよう」
「御意のままに。末永くあの方を生かしておくことが、陛下のご威光にも
つながることになるでしょう」
「そのようにしよう。それでよいな、『公爵』」
 王は首を振り向けて、玉座の後ろの垂れ幕に向かって云った。
深紅の垂れ幕の陰から出てきた公爵の姿に、ぼくは喉を絞められた気がした。
公爵は硬直しているぼくを見つめたまま、微笑みを浮かべて、親しげに
若い王に答えた。
「はい、ぜひ、そのようになさいませ。廷臣たちの前でその方をはだかにし、
帝王として命令し、奴隷としての奉仕をさせるのです。陛下と、陛下の臣下の
肉剣で繰り返し貫いて、新しい支配者を思い知らせて差し上げるのです」
「公爵は、まだその方に逢ったことがないのだったな?」
「先の王と、こちらの方のお父上にそれを止められておりました」
「それはいけない」
 王は口許に指先をあてて、考え込んだ。
その間も、公爵はその顔に笑いを浮かべてぼくを黙って見つめていた。
「その方が赦しをねだって懇願しても、決して止めてはなりません」
 公爵は王に念をおした。
「陛下、これは陛下の征服の儀式でございます。その方の涙や体液は、
塔にまで遠征にうかがった陛下が当然受け取るべき、成果でございます。
伝え聞く限りでは、その方はいかなる辱めを受けても気品を失わぬお方とか。
それならば、なおのこと王に相応しき逸品かと」
「血税のように搾り取れともうすか」
 くすくすと青年王は笑い、「かよわき方ゆえ、情けをかけるよ」とぼくに
向かっては安心させるように、微笑みかけた。
 ほどなくして王は、蔦の塔の管理人であるぼくの母にあてて遣いを立てた。

 館に遊びに来た新王とその廷臣たちは、蔦の塔に三日間ご滞在だった。
 王をお迎えするにあたり、病の人は地下牢から塔の上階に戻されたため、
ぼくはその様子を知ることが出来なかった。
 王はまた、ぼくの母も蔦の塔から追い払った。
ご婦人が見ている前ではたつものもたたぬからと笑って仰せであったが、
王としても、母のような年老いた醜女がその細い目を据えて寝所に居合わせる
ことは、単純に気分の悪いことだったのだろう。
 ぼくは塔の壁に額をつけて、病の人の為に祈り続けた。
時折、分厚い塔の壁を通して、真上から男たちの笑い声が洩れ聴こえて
くることがあった。その度にぼくは、はっとして顔を上げた。しかし、そこには
堅牢な塔と、広い空があるばかりだった。
 賓客の世話に追われて塔を出入りしている下僕たちの一人を買収して
知ったところによると、王は、しごく満足しているということだった。
「お食事中も、膝の上にあの方を乗せておられます」
「ご入浴も、王が手ずから、あの方を洗われております」
 女の悲鳴が聴こえた。
ぼくは塔を仰いだ。病の人の声だ。幾度となくこの塔で聴いてきた、あの人の、
あの声だ。
 不意にがっしりとした手で肩を掴まれた。
「しっかりして下さい。こんなところにいてはいけません」
 それは疲労と苦悩に朦朧としたぼくの頭の見せた、幻影と幻聴だったのだろう。
塔の陰の草地に転がっていたぼくは、のろのろと、顔を上げた。
「王の医師です。先の王からひきつづき、現国王陛下にお仕えしております」
 かすれた目で、ぼくはその男の顔を見分けた。
父が存命の頃、病の人の歯を抜こうとした王を、父と共に止めてくれたあの
医師だった。ぼくは、医師の差し出す腕の中に崩れ落ちた。


 医師はぼくに食事をとらせ、薬を与え、睡眠をとらせた。それから、王たち
一行は一度、王宮に引き上げたことを告げた。
「あの方がとてもお疲れであった為、中断を申し立てたところ、王はわたしに
治療を命じて、お城にお戻りになりました。傷ついたり、膿んだりしては
お命に障ることもあることを、王はよくお分かり下さいました」
「怪我を」
「新しい道具を使ったところ、おからだには合わなかったのです」
 ぼくの目からは涙が落ちた。
「あの方は、大丈夫でしょうね」
 子供のようにぼくはすすり泣いた。
「地下室に閉じ込められたあの方は、大丈夫でしょうね」
「精一杯努めております。しかしあまりに庇うのもかえって逆効果。お命だけは
繋ぐ努力をしております」
「よくしてあげておくれ。父亡き後、あの人は孤立無援なのだから」
「性病検査もいたしております。あの方に性病の兆候はいまのところございません。
しかしお心は病まれたままです」
「休ませて差し上げてくれ。どうか、母にも頼んで、病の人に休息をあげてくれ。
国王にいつでも捧げられるように病の人を整えておくのが蔦の塔の管理人の
仕事だと言ってくれれば、それで通じるから」
「そのように、はかっております。お熱もあることですし」
 医師は顔を曇らせた。
「奥方さまはお聞き届け下さいました。別の理由によりです」
「この程度の怪我で、陛下へのご奉仕をおろそかにしたとは」
 王の一行が留守にした後、塔に入った母は、診察台に上げられた病の人を
睨みすえた。
「ずいぶんと寵愛を受けていたそうだね」
 母は病の人の脚を持ち上げるように開かせた。
「先代さま達に続いて、いまの王さまにも、媚を売って取り入ろうというのだろう。
ここに男たちのものを咥えて、いやらしい声を上げ、高価な贈り物をねだって
いたのだろう」
 母の手にした鉗子の先が、病の人の陰唇を引っ張った。
「ここに隠した、この穴で」
「奥方さま、おやめ下さい。この方が壊れてしまいます」
「この女の淫乱は薬などでは治らない。公爵さまに躾なおしてもらわねば」
 悪知恵に関しては、母は並外れて頭のいい女だった。もし男に生まれていれば
歴史に名を残す陰湿な拷問係となったに違いない。
 母は、女体をあまり傷めつけてしまうと「物」になってしまい、男たちの欲情を
そそらなくなることを、とことん熟知していた。出来るだけ女を無傷に、品よく美しく
整えておくほうが、男たちの劣情を煽るものであることを、自らの醜怪な
容貌からもよく理解していた。皮肉にもそのことが、病の人の命を辛くも守って
いるといってよかった。
「現在、病の方の受けているお苦しみは大変に深いものですが、お心の壊れた
あの方には、そのことがどこまで分かっているか。奥方さまは、『公爵』が訪れる日の
為に、病の方を万全に調整しておきたいとのご要望で」
 ぼくは呻き声を上げて、頭を抱えてしまった。

 陰険な母は、女の些細な欠点を取り上げては、そこを執拗につつくことを
ことのほか好んだ。
 かたちの悪い母のそれとは違い、白く張り詰め、かたちよく盛り上がった
病の人の乳房は、左右を比べた時に、ほんの少しだけ右側だけが先天的に
小さかったが、そのことに気がつくと、母は病の人の白い乳房に舌なめずりして
襲い掛かっていった。
 両膝を持ち上げられ、足を開いた体位にされて、鎖で天井から吊るされた
病の人の乳首と陰部に、母は薬を塗った。
それはぼくもよく知る、あの薬だった。
 そうしておいて、母は悶える病の人を眺めながら、その前で食事をとった。
全身を貫く痛いほどの痒みに悶えて、泣きながら鎖の間で揺れている女を眺めた。
そんな時、女の右の乳首には、錘つきの責具が必ずつけられていた。
「お前の胸の大きさを揃えてあげているのだ」
 にったりと哂って、母はワインを飲み干した。
 食事の間、母の小さな目は、錘を揺らして左右に揺れている白い乳房や、少しでも
楽になろうとして出来る限り脚を擦り合わせている病の人の下半身の動きにじっと
そそがれており、「淫乱女め。これが欲しいのだろう」犬に見せるようにして淫棒を
病の人の前にちらつかせては、それを与えるふりをして、手を引いた。
「いやらしい女には、惨めなおあずけの芸がよく似合う」
 病の人がよだれを垂らし、白目を向いてしまうまで、母はそのまま病の人を
痒みの中に放置しておくのだった。
 母直々の病の人の調教は、すぐに終わった。
 王のゆるしを得て、『公爵』が蔦の塔にやって来たのだ。

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