ご注意:苦痛・流血をともなう本編の過激描写は、小説としてのフィクションです。
決して人体に試さないで下さい。死亡・大怪我・病気に至ります。



蔦の塔



■八.


 母が命じた。
「これからそなたを調教して下さる公爵です。挨拶なさい」
 下僕たちが、病の人を跪かせ、その頭を掴んで下げさせた。
その前には、公爵がいた。

 ふたたび地下におろされた病の人の両手と両足首には、鉄枷がかけられていた。
ごうごうと焔を吹き出して、地下牢の焔が四隅から熱気を送った。女の乳輪を
撫ぜていた公爵の指が、女の乳首を抓んだ。それはすぐに固くなった。
目を閉じている病の人の顔から目を離さずに、男の手は女の脚の付け根にも伸びた。
「脚を開かせよ」
 公爵の命はただちに実行に移された。母がそれを手伝った。
女の陰毛をかきわけた男の指はその小さな充血の上を往復した。
敏感な極点をしつこく擦り上げられた病の人が小さく喘ぐのを、両脇に控えた下僕が
押さえつけた。病の人は足枷で繋がれた両脚を、頼りなくふるえさせた。
 公爵は指を三本揃えると、女の花びらを分けて、その秘穴に潜りこませた。
内襞を掻き出すような動きで、真下から淫靡な振動を女に与える。
 女壷をえぐられて、病の人が苦しげに細眉を寄せ、加えられる辱めに拘束具を
打ち鳴らして腰を前後にゆすり、ふらついた。
耐え切れずに閉じようとする女の膝を下僕が押さえ、左右から固定する。
公爵の指の動きが強く、早くなった。
「いかがでしょう、公爵さま。公爵さまのお高いご趣味にかないますでしょうか」
 母が公爵に訊ねた。公爵は無言だった。
手枷足枷の打ち付けられる音が地下室の石壁に響いた。公爵の与える手淫は
かつて女を蹂躙した他の男たちとは比べものにならぬほどに執拗で、巧みであった。
男の手の動きに促されて、女の脚の間からは断続的に淫らなものが飛び散り、
床に落ちはじめた。
「公爵さまに可愛がっていただいて、よほど嬉しいようですわ」
 ようやく公爵が手を引いた。
喘いでいる女を見つめながら、公爵は下僕がはこんできた水盤で手を清めた。
 母は公爵に擦り寄った。
「如何でしょう。公爵の指示書のとおりに調教しておりましたが、なかなか
強情な女で、調教の按配が難しゅうございますの」
 言いながら、母は公爵の前に膝をつき、起立した公爵のものをあずかると
その手でしごきはじめた。
 それは通風孔から地下室を見下ろしているぼくには、吐き気がしそうな光景だった。
母は狂った狂信者のようにして、公爵に心酔し、自らすすんで淫売の真似をしているのだ。
「公爵のお越しをお待ちしておりました」
 椅子にかけた男のものをさすりながら、母の目は潤み、そしてそのかたちの
悪い唇を幾度も色の悪い舌先で湿した。
 残酷にも、公爵は求める母に、その口ではさせなかった。
醜女のぬるい唾液に包まれるなど彼でなくともごめんだったろうが、公爵は母を
侮蔑的に干しておくことで、かえって母を支配し、従わせているようだった。
 公爵は滾るものを、母に呑ませることも、母に始末させることもしなかった。
その時がくると、公爵は未練たらしく見ている母の前で、病の人の口の中に
硬くなったおのれを押し込んだ。
「卑しい女だけあって、便壷の芸だけは巧いようです」
 母が悔しそうに呟いた。
その間、公爵の目は病の人の美しい顔かたちをじっと見つめていた。
 嚥下が済むと、病の人は下僕たちの手でその口腔と股間を清められた。
地下室においても病の人は雪の精のようなその美しさを失ってはいなかった。
そんな女の横腹を蹴りつけ、踏みにじってやりたいという顔をして、母は目を吊り上げた。
公爵は、そんな母の顔を横目でとらえてうっすらと笑い、いつもやっているように
病の人を調教してみるようにと、母に求めた。

 病の人は、まずは水責めにかけられた。
息継ぎは頻繁に入れられたが、突かれるたびに、病の人は水中で水泡を吐いた。
「あのように嬉しがるのです。お見苦しくて恐縮ですわ」
「姫君は水が苦手のご様子だが」
「根性の悪い、図太い女の証拠ですわ」
 続いて、女体は三角木馬の頂点に架けられた。か弱い女のからだは、少しの間も
その責め苦に耐えられなかった。
 木馬を揺さぶられると、病の人は髪を振り乱し、血を吐くような悲鳴を振り絞って
汗を噴出し、すぐに全身を硬直させた。
 女に究極の激痛と恥辱を与えるその器具は、異端審問裁判所においても
悪魔の道具とされて、滅多には使われることのないものだった。母は、公爵を
喜ばせ、その歓心を得ようと、病の人にそれを使ったのだ。
「こうして懲らしめてやるのがちょうどいい、卑しい女なのです」
 踵の高い靴を履いた母は鼻息を荒くして、下僕たちに指示をとばした。
「木馬を揺すっておあげ」
 砂時計をちらりと見遣って、数秒もしないうちに、公爵はすぐに中止させた。
 とてつもなく簡素で、機能的で、苛酷な責道具にかけられた病の人は、
下僕の手で木馬から抱き下ろされた途端、背中に腕を縛られたまま床に崩れ落ち、
異常な刺戟を下部に受けたことで起こる生理的な反応として、がくがくと全身の
筋肉を震わせながら、失禁と脱糞をしてしまった。
 女の脚の間から、途切れ途切れに尿がほとばしる音が地下牢に響いた。
「ご覧下さいませ公爵、あの女の、あの行儀を。はしたない」
 その惨めな様子に母はおおいに笑ったが、公爵は笑わなかった。
 医師に介抱されている女を前に、公爵は母に対して、軽蔑のまなざしを向けた。
「女性に、ましてやこのように高貴な美しい方には、極度の苦痛を与える
水責めや木馬責めは無粋です。お可哀想に、このような目にあっていたとは。
地下牢の演出は悪くない。しかし、姫のおからだに重大な障害でも残ったら
どうするのです」
 医師に抱きあげられた病の人は、鎮痛剤を与えられて泣きじゃくっていた。
「散歩が出来なくなったり、性器が壊れては使い物にならない。それがお望みですか」
「公爵。そのようなつもりでは」
「貴女には失望しました」
「公爵さま」
「この方は王のお気に入りです。王はこの方を不憫に思われ、暇があるたびに
塔に通うことをお考えになっておられます。王妃さまの手前遠慮されて
おられますが、近々狩りに出ると偽って、またこの塔にお泊りになるそうです」
「それは。栄誉なことでございます」
「その方を、こちらに」
 公爵は、母に言ったのではなかった。公爵の手は、病の人を招いていた。
医師の手で手当てを受けて、よわよわと息をついている美しい女の姿態に、公爵は
目を光らせた。
「どうしたのです。言うことがきけないのですか。こちらに来るのです」
 公爵は片手を差し伸べた。
よろめきながら素足で石床を踏みしめ、陰部を洗浄された病の人は下僕に
押し出されながら、男の許へと連れて来られた。
 公爵は、女の秘処をめくり、三角木馬の与えた傷がすり傷程度であることを調べた。
「美しい方だ」
 男の指がさきほどのように、病の人の小さな顔や乳房をなぞり、その乳首を抓んだ。
公爵はびくついている病の人の耳に囁いた。
「これから貴女はわたしのものになるのだ。この塔の以前の主であった方から
わたしはそれを頼まれているのだ。わたしの命令は、亡くなったその方の命令と
同じものとしてきかなければならない。わたしの命令は故人の命令と同じものだ」
 公爵は繰り返した。
「これからはわたしが貴女の主だ。亡くなられた方がそう頼んだのだ。わたしの命令は
故人のものとしてきくのだ」
 嘘だ、とぼくは叫びそうになった。
しかし、弱った病の人の頭には、その男の命令は父の命令であるということだけが
しっかりと染み付いてしまったようであった。
 公爵ははだかの女をおのれの膝に乗せ、腰の上に跨らせた。女が尻を上げて
逃れようとするたびに、公爵はそれを引き戻した。
 男の陽物はたちまちのうちに立ち上がっていた。公爵はがらりと調子を変えて
怖い声で病の人に命令した。
「お前の奉仕を見せるのだ。腰を動かせ」
 男は、母が鬼のような顔をして背後からそれを見てることを知っていた。
「蔦の塔の新しい主人の命に従うのだ」
 病の人の陰裂に男はそそり立つ楔をあてがい、女の腰を深々と押し下げた。


 塔から母が出てきた。
待ち伏せていたぼくは、母の前に身を投げ出した。
「母上」
「どうしたのです。お前は病気だと聞いていましたが」
 ぼくは母のドレスの裾にしがみついた。目の下にくまが出来ている息子の顔は
母にとっては、死んだ夫の顔を思い出すものであった。
「母上。ぼくを病の方に逢わせて下さい」
 あれから、半月が過ぎていた。
「お願いです。病の方に逢わせて下さい」
 蔦の塔に公爵の姿がない日はなく、そして病の人の調教は、母の手から
公爵の手へと完全に移行していた。
 蔦の塔の管理人として傍観するだけの立場に追いやられた母は、それでも
塔の中に入れないよりはましとばかりに未練たらしく立ち会ってはいたが、
多くの男たちと同様、公爵までもが病の人に魅了されてしまったとあっては、いかに
その調教の内容がきつくとも、母にとっては病の人に公爵を奪われたも同然、
内心のその憤怒はいかばかりかといったところであった。不満のままに母は鼻を
鳴らして、その細い目で後ろの塔を振り仰いでみせた。
「公爵がまだお愉しみの最中です。あの女が何度も気絶するので、そのたびに
最初からまたやり直しなのです」
「見るだけでよいのです。見物だけでよいのです。決して病の方には触れません。
かつてそうだったように、ぼくを立ち合わせて下さるだけでよいのです」
 母はぼくを見下ろした。その手には、塔の鍵があった。
「お前が不埒な真似をしたら、その罰はすべて、あの女が負うのですよ。お分かりかえ」
「決して触れません」
 しかし母は、残酷にも、ぼくの前を通り過ぎようとした。
「母上。母上」
 夜空には赤い月が出ていた。母はこれ見よがしに、じゃらじゃらと鍵束を鳴らした。
それは蔦の塔の鍵と、病の人を牢に繋いでいる、鉄枷の鍵だった。
 母は口端を吊り上げて目をほそめた。
病の人に逢わせてくれと願うぼくの顔の上に、夫の面影を見ながら、おのれを
顧みてはくれなかった夫に、男たちに、母は復讐を決めた。
 月明かりに照らされた蔦の塔の壁が曇った色で光っていた。母は言った。
「お前をあの女に逢わせるのは、あの女をもっと懲らしめてからにしましょう」
「母上」
「公爵はそれをお禁じになったけれど、三角木馬は愉快だったこと。まあ見ていて
ご覧、そのうちあの図太い女も、容色が衰えて飽きられる日がくるのだ。そうなったら
血が止まって両脚が壊死して腐り落ちるまで、一時間でも一週間でも、あの女を
三角木馬の上に飾っておいてやるのだから」
「母上……」
「そうなったら、あの女の両手両脚を切り落として、豚小屋に住まわせてやろう。
家畜たちの糞尿でお化粧をほどこしてやる。自慰の芸を仕込んで往来で見世物に
してやる」
 げに怖ろしきは、怨み深い、執念深い、嫉妬深い女のやることである。
おのれの体面を少しでも傷つけた女には、何がなんでも見世物にして恥辱を与えて
やらねばならぬと、母はかたく思い込んでいた。母のような女にとっては、それが
何よりの、自慰絶頂にも等しい大快楽なのだった。
 もうぼくを顧みることなく、母は立ち去った。


 湿り気をおびた女の切ない喘ぎが、焔の赤い色と渾然一体になって
地下室に燃えていた。
「もはや、慰めなしではいられない、淫乱なからだになっているのだな」
「陛下のご征服の賜物でございます」
 若い王の手が張型を抜こうとすると、病の人は哀願のなき声をあげた。
 塔の外の通風孔からそれを見ているぼくの眼下で、病の人の尻がそれ自体
淫らな生き物となったかのように、慰撫を求めて張型を咥え、前後していた。
 青年王の隣には『公爵』の影がそびえていた。 
「急にお越しになるとの使者を受け、淫薬を呑ませた上で繋いでおいたのです。
陛下のお与えになる慈悲に泣きながら感謝しているのはそのためです」
「気がきくな」
「お時間がないとお聞きしておりましたので」
 公爵は病の人の乳首と、脚の間の蕾にも、秘薬を塗布していた。
それは、幼い頃、母がぼくに持たせたあの薬であった。女の敏感な赤い実は
膨れ上がって、王の手を求めていた。
「可愛い人だ。もっと可愛がって差し上げよう。もっとよい責具はないか」
「こちらに揃えてございます。お好きなものをお使い下さい」
「この方を、舞踏会に連れて行きたいものだ」
 病の人の肉芽に刺戟を与えながら、王は女の膣襞が新しい張型を咥えて
窮屈に蠢く手ごたえを楽しんだ。
「乳首と肉芽に淫薬を塗りこみ、膣と肛門に責具を与えた上で、ドレスを
着せるのだ。着飾らせて、声を上げてはならぬ、おとなしくしておくようにと、そう
命じるのだ。おもしろそうではないか?」
「陛下がお命じになれば、宴のあいだ、ずっと持ちこたえておりましょう」
「一曲くらい踊れるようになるかもしれぬぞ」
「それよりもドレスをめくらせ、性奴隷として見世物にしてやるのも一興で
ございます。隷属のあかしに陰部に責具をつけたままでいる姫の従順さには、
さぞや感心と感嘆が集まることでございましょう」
「これほどに美しい、高貴な性奴隷を所有していることを、自慢したいものだ」
 左右の柱に吊るされた女の白い脚が、苦しげに揺れ動いた。
宙をかいている足指に、青年王は宝石つきの指輪を与えた。
「王妃が産気づいたのでその隙に久しぶりにこちらに来れたが、本当なら
いつでもこうやって使えるように、余の寝所に、ずっと飼っておきたい」
 王は傍らに控えている医師に訊ねた。
「この方の言葉はまだ戻らないのか」
 医師は首を振った。
「そうか。無理もないことだが」
 残念そうに、王は吐息をついた。
まだ先の王が存命であった頃、彼は他の王子と共に、蔦の塔を訪れていた。
ぼくもそれに立ち会っていた。若い王子たちは病の人に恥ずかしい体位を
とらせ、病の人がしまいには泣き出してしまうほどの、さまざまないやらしい
言葉をその唇から言わせたものだ。病の人は彼らの求めるままに、卑猥なことを
そのきれいな唇にのせなければならなかった。
『王子さま、どうかその肉棒で、わたくしの膣の奥に、肉奴隷の刻印を捺して
下さいませ』
『辱しめて下さいませ。わたくしは王子さま方に征服された女でございます』
「出来る限り、この方をいたわって差し上げるように」
 女の脚の間に入れた腰を動かしながら、青年王は公爵に命じた。
女の脚が痙攣したように揺れた。王は征服の動きを速めた。病の人の中に精を吐くと、
王は病の人の薄紅色をした淫唇を指で左右に開き、まだひくついている蹂躙の跡地を
満足げに眺めた。
「この方に、余の子を生ませたい」
 後戯として、王は感じやすくなっている病の人のそこを指でやわらかく撫ぜた。
濁ったものが尻の下にも零れていることを、王は、公爵にもよく見せた。
「一度も懐妊したことがないのだったな?」
「畏れながら、この方は、もう受胎は出来ぬでしょう」医師が答えた。
「そうか。征服の一環として、孕ませてやりたかったが」
「他の方法で、いくらでもご征服下さいませ」
「どうして、このような陽の差さぬ地下室にこの方を落としているのだ?」
「たまには、このような趣向もよろしいかと」
 うやうやしく、公爵は頭を下げた。 

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