ご注意:苦痛・流血をともなう本編の過激描写は、小説としてのフィクションです。
決して人体に試さないで下さい。死亡・大怪我・病気に至ります。



蔦の塔


■一.

 ぼくの館には、父が管理している女の人がいた。
とても若くて綺麗な女の人だ。
でも、その女の人は、ひどい病気に罹っていた。

 女の人は、館のいちばん奥にある、蔦のからむ塔に隔離されていて、
その病気のために、一歩も外に出ることがなかった。
 いや、出ることをゆるされてはいなかった。
女の人の足首には鉄枷が嵌められており、その鎖の端は、壁や、床に打ち込まれた
留め具、または寝台の柱に、たいていの時は繋がっていたからだ。
 女の人は、ひどい病気だった。
だから毎晩のように、父や、館を訪れる父の友人たちが、その女の人を
蔦の塔で介抱し、どこが悪いのか、よく診てやらねばならなかった。
診察を怖がってひどく暴れるので、父や父の友人たちは力づくで女の人を
押さえ込んだり、手足を革ひもで縛ったり、薬を飲ませたりしなければならなかった。

 館のはずれに蔦の塔は立っていた。
使われている部屋は、三階か四階分で、そのいちばん上が、女の人の寝所だった。
そこには父かぼくしか入れない。たいていの時、ぼくが女の人の姿を見るのは
塔の階下にしつらえられた寝室や、居間、診察室だった。

 診察に集まる男たちは、一人の時もあれば、複数の時もあった。
いずれの時にも、蔦の塔と女の人の管理人である、ぼくの父が必ず
立ち会うことになっていた。
 彼らが往診に来ると、女の人は下僕たちの手によって、ドレスを脱がされる。 
診察室には、寝台の他にも、変わったかたちの寝椅子もあった。
 それは書庫の本でみた異端審問の椅子に少し似ていた。そこに女の人が
縛り付けられると、まるで腹を出したかえるのような格好になって、両脚が上になり、
腰が前に突き出すような格好になって、お尻の穴までみえるのだ。
 椅子は、脚をおくところが二股に分かれており、側面のハンドルを回すと、
膝を立てた女の人の両脚が、左右に開く仕掛けになっていた。
 両手を上に上げた格好で開脚された女の人の足の付け根には、薄紅色の亀裂が
蜜をたたえて閉じていて、やわらかなそこは濡れた花びらを重ねたようだった。
「どうしました。優しくしてあげますよ」
 塔を訪れた貴族たちが言い聞かせても、女の人は拘束用の鎖やひもが
垂れ下がっているその椅子をひどく怖がって、目に涙を浮かべてしまう。
集まった男たちは、そんな女の人を安心させるように笑って眺めている。
 コルセットも外されてはだかにされた女の人は、華奢なお人形のようだ。
その白い肌は、陶器のようだ。寝台に横たえられたその乳房やお尻をぼくは
うっとりと眺めて、触れてみる。
 両手で胸を隠して俯いている女の人に、塔を訪れた男たちは何度も促す。
どうしました。わたしたちの命令がきけませんか。鞭が欲しいのですか。
 診察を受けるのと、鞭と、どちらが女の人にとっては怖いのだろう。
患部に治療を受ける女の人は、いつも、ひどく声を上げて、悶え、泣いていた。
 或る日、女の人は気絶してしまった。
父は付きっきりで彼女を看病した。ぼくが熱を出した時でもあんなではなかった。


「塔の中に閉じ込められている、病の女の人は、誰なの」

 母に問うと、母は顔を青くして、刺繍の手を止めた。
それから母は平然として、色の悪い爪をした指先でべつの糸をとり、刺繍を続けた。
「ぼうや、あなたも、あの方に興味がおありなのね」
 母の顔は笑っていた。
若くて美貌の父よりも、母はずっと年上の醜女だった。その笑顔は、皮膚を糸で
寄せたようにみえた。
 色糸で描く花文様から目を離さずに、母はぼくの見ている前で、器用に刺繍針をうごかした。
両親は西と東の棟に分かれて暮らしており、食事も寝室も別にして、滅多に
逢うこともなかったが、それは貴族の婚姻においては珍しくもないことだったから、
誰もがそういうものだと思っていた。
「どのようなお方なのか、母も知っていますよ。たいへんに美しい、高貴な出の若い方です」
 蔦の塔に閉ざされている女の人のことを、母は「病の方」と呼んでいた。
この館に父が連れ帰って来た時に、一度だけ、窓から見たことがあるのだそうだ。
「病の方のご様子はどうでしたか。よくないのだろうね。毎晩のように、方々から殿方が
お見舞いに通っておられるくらいなのだから」
 新しい糸が、針に通された。
「病の方に、瀉血や座薬を試してみては」
 唇の間で赤い糸を湿した母は、最初から最後まで、別のことを考える顔をしていた。
 ぼくは母から見舞いの品を預かった。
それは、父にばれないような、小さな品なのだ。
父と、父の友人たちが休憩をとりに別室にさがってしまった或る日、ぼくは女の人に
歩み寄った。
 美貌の父に似ていると、ぼくは誰からもそう言われる。
そのせいか、囚われの女の人はぼくの姿が視界に入ると、少し辛そうな顔をする。
使用人の女たちも、宮廷の貴婦人も、王妃さまだって、ぼくを疎かにはしないのに。
 蔦の塔の細い窓からは、灰色の冬の空とつめたい河しか見えなかった。
高い塔に閉じ込められた病の人は、いつも、この格子の嵌った狭い窓から外を見ているのだ。
「母からの見舞いです」
 父ばかりでなく、ぼくのような少年にすら、病の人は絶対服従を命じられている。
 さっきまで治療を受けていた女の人は、はだかのまま毛布にくるまれて、暖炉の前の
寝椅子に寝かされていた。
 柱の留め具と繋がれたままになっている病の人の足枷の鎖を踏み越えて、
ぼくの手は病の人の毛布をはがし、その白い乳房をあらわにさせた。


 女の人は病気だった。
あんなに若くて綺麗なのに、なんて可哀想なんだろう。
 だから、父たちは、女の人のまるいお尻を持ち上げて、お尻の穴の中に薬を詰めたり、
特殊な棒を使って調べたり、乳房や、脚のつけねに隠されている小さな腫瘍を抓んだり、
揉んだりして、患部の色やその腫れ具合、しこりの程度をいつも確かめていた。
 塔の客人たちは、常連もいたし、遠方からはるばるやってきた見知らぬ郷士もいた。
彼らは、入れ替わり立ち代り、熱心に女の人の治療に参加した。
 女の人はひどく嫌がって、最初のうちは声を立てまいと唇を引き結んでいたり、治療の中止を
求める涙を流したり、苦しそうに喘いだりしていたが、ある一線を越えると、きまって止めどもない
痙攣を引き起こし、ひどい声を上げはじめる。
 泣き声のような、哀願のような、そんな声を立てて、身悶えをおこす。
 男たちはそんな女の人の脚をもっと開かせると、女だけにある股の溝に、さまざまな
治療器具をあてがい、彼女の奥を繰り返し突いたり、実験的にかき回すことを
交代で続けるのだ。
 触診を受けるうちに、女の人の股からは内部の分泌液が滲み出し、露となって
こぼれ落ち、敷布を濡らす。病の人は頬を紅潮させ、頬に苦痛の汗を浮かべて、
診察のあいだ従順に耐えている。

 蔦の塔に閉じ込められた、病の方。
天窓の光や、蝋燭のともし火にふちどられている、さびしそうな、その白い顔。
ぼくはもう鞭の扱い方を父から教えてもらっていたけれど、それでも、足鎖で繋がれた
かよわい女の人を下僕たちにそうしてやるように、打ちすえるようなことはしたくない。
「だから、言うことをきいて」
 ぼくは、どうしてそうしたのだろう。
いつものように、母からの見舞いの縫い針で彼女の乳房を突いたり、痒みのともなう
軟膏をお尻に塗りつけたりする代わりに、ぼくは病の方のドレスを引き降ろし、
その白いお尻をあらわにさせた。
 塔を訪れる者には、それが誰であれ、病の人は誰にも逆らえなかった。
そして中でも、この塔の主であるぼくの父と、息子のぼくに対しては、絶対服従だった。
 ぼくはあの人の白い胸に手をおき、小さな乳首を指で摘んでみた。
固く立ち上がった、その小さなところを、ぼくは執拗にいじった。病の人が眼を閉じた。
「今日は、ぼくが貴女を治療してあげる。四つん這いになって」
 いつも父たちがそうしていることを、ぼくは女の人にした。
病巣を掻き出すために工夫を凝らした形状の道具を、彼女の女陰の中に埋め込んだ時、
病の人が哀しくふり絞った嘆き声があまりにも痛々しくて、ぼくは驚いて手を止めた。
けれど、病の人のまっ白いお尻や、そこに閉ざされた紅い花びらや、少し触るだけで
蜜を零す秘密の暗がり、揺れる乳房を目にしているうちに、陰部に挿れた治療器具を
引き抜くよりは、もっと押し込むことになっていた。
 ぼくは夢中で器具を動かした。片手で自分のものを握りながら。


 ぼくは、十一歳だった。
母が老いた醜い女であり、それと比較して、父が若く美しい男であることの残酷さは
分かる年齢になっていた。
夫婦としてというだけでなく、あまりにも彼らは不釣合いだった。
しだいに、ぼくは母の許から離れて、父の許で過ごす時間が多くなった。
 ぼくの父は最初から、ぼくが蔦の塔に出入りすることを禁じなかった。
それどころか、病の人の治療中も近くで見ておくことを許していた。
「わたしが死んだ後は、お前がこの塔の管理人なのだから」と父は云った。
 なるほど、蔦の塔の所有者は父だった。だけど、病の人は、父のものではなかった。
父は病の人の管理人であり、病の人は、国王のものだった。
 男たちは、国王の持ち物である病の人に対していつも丁重な言葉遣いで、「命令」する。
すると、美しいあの人は、おどおどと、そして諦めきったような哀しそうな様子で、何でも
言うことをきくのだ。どんな恥ずかしい姿態を求められても、ぼくたちの見ている前で
おとなしくそうするのだ。求められるままに腰をくねらすようなことも。
 それが終わると、病の人は、父の手で清められた。
父はこの美しい病人を愛していた。子供心にも、それは分かった。
喘ぎ声も枯れ果てたようになっている病の方を抱きしめて、その首や乳房に
接吻する父ははっきりと、病の女を、愛していた。

 いつものように、塔の中で病の人が触診されていた。
客が休憩に出て行くと、父はぼくを振り返り、手招いた。
「今日は、お前が可愛がってさしあげなさい」
 おそらく父は、先日ぼくが病の人にした勝手を知っていたのだろう。
あの後、病の人は出血してしまい、父はぼくを怒らなかったけれど、やり方が
間違えていることを、こうして教えてくれようというのだ。
 ぼくの前には、病の人のお尻があった。
うつ伏せにされた女の人は尻を高く上げられるかたちに縛られて、股の溝には
治療に使っている器具が、父の手に押さえられて突き刺さったままになっていた。
 ものを咥えたまま透明な糸を引いている女の肉襞の顫動は、じっとしていても
耐え難いものを女のからだの深部に与えているようであり、病の人は眉ねを寄せて
それに耐えていた。
 ぼくは父から譲り受けたその棒を握り、ためしに、前後に振り立ててみた。
病の人が、ひどい声を上げた。
「傷めつけてはいけないよ」
 父がぼくに注意した。
「もう十分に潤わせてあるから、軽く突くだけでも、すぐに効果がでる。女の人には
優しくしてさしあげなければいけないよ。辱しめてあげることで、女の人は
とても愛しいものになるのだよ」
 女の白い尻の合間だけが、薄紅色の花の色をしていた。陰毛はもう湿っていた。
今度は、器具を前後にゆっくりと押し引きしてみた。角度を変えて、引き抜いてみる。
こつが分かってくると、少しずつ突きこみを速くした。
 細腰をふるわせて、あ、あ、と女の人が細い声で喘ぎだした。壊れ物のように繊細な人だ。
なんて綺麗な人なのだろう。母や、館ではたらく大勢の侍女たちとは、まるで違ってる。
乳房を揺らして、女の人が悶える。四肢を固定している拘束具が打ち鳴る。
器具と擦れて溢れ出た淫水が、ぼくの方にまで飛んできた。女の足指が切なく
敷布をかきむしる。
 あ、あ、あ、……
 内部の収縮がきつくなった。父がぼくに代わった。
下口から蜜を零し、四つん這いに繋がれたまま、病の人は幾度となく痙攣した。
父の愛撫は、女のからだも、その変化も、熟知したものだった。
 病の人はやがて乳房を突き出すようにして背をそらし、がくりと崩れ落ちた。
ぼくはその姿にいつも、野蛮な猟師たちに射抜かれる白鳥の精の断末を重ねたものだ。
まだ喘いでいる女のそこからは、父がそそいだものが、少し外に落ちていた。
身をふるわせて泣いている女の人の乱れた髪を優しく撫ぜて、父はぼくに微笑みかけた。


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