ご注意:苦痛・流血をともなう本編の過激描写は、小説としてのフィクションです。決して人体に試さないで下さい。死亡・大怪我・病気に至ります。

聖地の寡婦
■第十二夜


 ネリッサは砂塵の舞う聖地の通りを渡り、閑静な住宅地にある診療所へと戻ってきた。
 まだ戦の煙が消えぬ頃に間に合わせの天幕から始まったダビドの診療所であったが、
移転するにつれて環境が整い、最初の頃の野戦地のような混雑期が過ぎると、余裕が
できるほどに日々は落ち着いた。
 井戸端に出たネリッサは頭にかぶっていた薄布の被り物をはずし、砂を払った。
帝国人の所有物となった身であるが、ダビドはかなり奴隷に自由を許しており、日課の
作業さえやっておけば何も言われなかった。しかしそれも、もし逃亡した際には
世にも惨たらしい処刑が待っているからこその、奴隷の自由であった。
 水を汲み上げて手を洗い、顔を洗った。覗き込む井戸水は、ネリッサを映さず、
何も映さず、冷たく、黒かった。
 (……あああ)
 黒に黒を重ねたような、さざなみが井戸水の表面に立った。ネリッサは桶を
井戸に落とした。あえかな女の声がネリッサの耳を打った。それはしだいに切羽つまり、
ひいひいとした泣き声に変わり、拷問室の石壁に響く喘ぎ声となった。
「ふん、もうこんなにどろどろじゃないか」
 ラウラが鞭の先でエウニケの陰部の具合をさぐった。
 開脚寝台に架けられたエウニケの四肢が突っ張り、もがき、もがき切れずに革紐の
間でがたがたと揺れ動くのを、女の股を舐め取るような近くからラウラとネリッサは眺めていた。
ふたたびラウラは手にした鞭の先をエウニケの膣の中にうにうにと、こじ入れた。
はだかにされた女囚は、はかない声を絞り、喉を詰まらせて首をのけぞらせた。
ひ弱く白い女の内股が魚の腹のようにびくびくと震えた。責具をふくまされている
脚の間からは床に零れ落ちるぬるいものがあった。身も世もなく悶えているエウニケ
の顔は、それでも女二人が新たな嫉妬と憎悪をその両眼に迸らせるほどに、美しかった。
 ラウラはエウニケの乳首をつまんで引っ張った。
「悦んでいるようだね」
 エウニケは、膣に痒み薬を塗られたのだった。
 ラウラとネリッサは女囚の乳首にも痒み薬を塗りたくった。エウニケの乳首は
すぐにかたくしこって勃起し、ぴんと立った。エウニケは哀しい悲鳴を迸らせた。
「肛門には、淫薬を入れています」
「お前の主人は性奴隷を使って、よくこんなことをするのかい?」
「いいえ」
 エウニケの足首は拘束されて左右に開かれていた。ネリッサはエウニケの足を掴むと、
足の指の間にも痒み薬を塗っていった。腹にも、わき腹にも、やわらかな腿の内側にも。
エウニケを貫く痒みは、痒み針を持ったミミズや毛虫や毒虫がぞろぞろと皮膚の表面と
裏側を痛がゆく這い回るような無間地獄となった。
「ア、アーッ」
「ラウラさま、口枷を」
「仕方ないね。この淫乱女に惨めったらしい泣き声をもっと上げさせてやりたいところだけど」
 ラウラがエウニケの口をこじ開け、そこに舌噛み防止の器具をはめ込んだ。
ひっくり返った蛙のような格好で縛られているエウニケは、泣きじゃくり、痒みのとまらぬ熱い膣に
慰めの淫具を求めて、自らむなしく腰を上下に揺らしはじめた。
 もはやエウニケは自分が何をしているのかも定かではなかった。痒みの苦痛にその理性は
どろりと溶けて、腰を動かしていることすら忘我のうちだった。
それはまるで人間に捕まって熱い砂の上に横たえられた、人魚の踊りだった。
「ほーら、もっと踊れ」
 ラウラは嗤った。女囚は血を吐くような悲鳴を上げた。ラウラはエウニケの陰部をさぐり
エウニケの肉芽を硬い鞭の先でなぶった。敏感なところを擦られたエウニケは泣いてもがいた。
美女という美女を目の仇にするラウラにとって、捕らえたエウニケは極上の獲物だった。
ラウラはあえてエウニケの膣を放置し、痒みに燃えるその周囲をつつきまわった。
「失禁してみせな。面白いから」
「ダビドさまには、奴隷を苛むようなご趣味はありません」
「思ったとおり、つまらない男だね。淫薬をかませてある肛門はどうするんだい」
「これ以上はもう」
 ネリッサは砂時計に目をやった。
「これ以上は、この囚人が持ちません」
 ラウラは黙って砂の落ちかけていた砂時計をひっくり返し、一から砂が落ちるように戻した。
ネリッサはエウニケをうかがった。その間にも、エウニケは縛られた不自由なからだで暴れ、
腰を上下させ、開脚された脚をひくつかせてラウラの鞭におのれを擦りつけようとし、髪を
振り乱して泣いていた。口から唾液をたらし、眉根を寄せて、時折懇願するように切なく
目をひらいては、呻き声を苦しく振り絞っていた。
 独房に入ってきたネリッサの声に、見えない目でエウニケが浮かべた戸惑いの表情。
ダビドが何か無理をしたのではないかと、ダビドの身をひたすらに案じていた、あの女の顔。
両肩から背に流れおちていたエウニケの美しい髪、みすぼらしい囚人服を着せられていても
なおも牢獄に輝くようだった、あの姿。
 砂時計がさらさらと砂を落とした。
「……ダビドさまは、肛門検診まではきっとされていないでしょう」
 目の前にある蕾のようなすぼまりをネリッサは棒の先でつついた。エウニケはすぐに
足指をそらして反応した。白くまるい尻だった。
(ダビドさまはエウニケを抱いたことはなくとも、ここに触れなさったことはあるのだ)
 女の不浄の孔を見据え、ネリッサは砂時計の静かな音をきいた。
 ネリッサは淫棒を選び、それをラウラに渡した。
「潤滑液はいらないだろうね」
「はい。キュロスさまが調教済みです」
 ラウラはにたりと笑って女の脚の間に立つと、どんな淫売でもたまらないという売り文句の
ついた奇怪な形状をした責具の先端をエウニケの肛門にあてがい、狭孔に埋め込んでいった。


 水桶が暗い井戸に落ちた。
ネリッサはそれを引き上げて、埃だらけの足を洗った。
(お許し下さい……もう、お許し下さい……)
 痒み薬を中和する薬を塗ってやっている間も、エウニケは弱々しく悶え、うわごとのように
許しを乞うていた。
 感情的ですぐに激昂したり興奮したりするラウラよりも、ネリッサははるかに
拷問吏に向いていた。囚人をひややかな目で観察し、その状態を的確に判断し、
いちばん効果的なことを選ぶことが出来た。
 独房に戻されたエウニケは自分では立つことも坐ることも出来ないほどに衰弱しており、
投げ出されるままに床に伏せってしまった。ネリッサはラウラに言った。
「これなら、鎖はいらないでしょう」
「わかってないねえ」
 床に落ちていた鉄枷を取り上げて、ラウラはほくそ笑んだ。
「鎖は、この淫売に卑しいめす犬であることを思い知らせるためのものなのさ」
 ラウラはエウニケを引き起こしてそのほそいからだに首輪と足枷をつけると、
「エウニケ。この次は痒み薬を仕込んだまま縛り上げ、お前を一晩中放置しておいてやるよ」
 言い捨てて独房から出て行った。
 ネリッサはぐったりしているエウニケに薬と水を飲ませてやった。
 こんなにうまくいくとは思わなかった。
 ダビドがエウニケの囚われている監獄に向かったときいて、居てもたってもいられず
その後を追った。ダビドはもう監獄から帰った後であったが、ダビドと入れ違いになったことを
門衛から教えられたネリッサは、ふと、手籠の中に手製の薬を持っていることを思い出した。
ラウラという女が評判どおりの性悪女ならば、うまく取り入れるかもしれない。
 それは成功した。
 ラウラは自分を侮辱したあの憎らしいダビドの女奴隷が、ダビドをひそかに裏切り、こちら側に
ついてエウニケに制裁を加えるという趣向に、大喜びして飛びついたのだ。
 口端からよだれを垂らさんばかりにして、ラウラは気に食わぬ女をいたぶる新しい責め手の
登場を悦んだ。
「キュロスの家でもこうしていたって?」
 痒みと肛門責めに悶えるエウニケをみおろし、ラウラは腹を抱えて嗤った。
ラウラはダビドへの怨みと嘲弄をこめて、ダビドが愛する女の性器にさらなる辱めを加えていった。
「あの医者にそれを教えてやりたいものだねえ。この淫乱女をまだ清楚な女神として
崇めているらしき、あの世間知らずの馬鹿男に」

  
 井戸端にいるネリッサの足許に冷たい水が流れた。
首枷をつけられた首をぐったりと傾け、小さな唇で水を呑んでいた獄中の囚われびと。
その性器は焼け爛れるようにして今もほてっているはずなのに、エウニケの顔は
苦悶をとどめて疲れてはいても、清く、先刻の淫虐の痕跡は微塵もとどめてはおらなかった。
「もう一度診察するわ。四つん這いになって」
 藁の上でネリッサは命じた。独房には二人きりだった。
「はやく」
 抗うすべもないエウニケの囚人服の裾をまくりあげ、ネリッサはエウニケの
白い尻をむき出しにさせると、籠から取り出した張型をエウニケの膣に挿し入れた。
「ヒッ」
「力を抜いて」
 痒み薬の余韻がまだ疼いているとみえて、エウニケは観念して四つん這いになり
尻を差し出した。
 ネリッサは男性を模した張型をエウニケに含ませ、痒みを宥めるように、ゆっくりと
後ろから抜き差ししてやった。エウニケの腰が揺れ、じゃらりと鎖が鳴った。
わずかな抵抗感はやがてぬるみの中に吸い込まれていった。
「あ……」
 張型に衝かれた女は、やがて男のものにそうするように、窮屈に張型を締め付けてきた。
 美しいエウニケ。
 キュロスの家から取り上げられた私のおもちゃ。
 エウニケが放つ弱々しい呻きを聴きながら、ネリッサは陶酔した。監獄長官や獄吏、キュロスや
ラウラが穢したところを、自分がダビドの代わりとなって、こうして清めているのだと思った。
 ネリッサはダビドと味わった閨での一体感をそのままエウニケへのこの行為に転化し、半ば
ダビドとなって、エウニケを丁寧に狂わせていった。こうしたいが為に、監獄の中に
入ったのだと思った。
 身分ある貴女を、夫に殉ずるべき寡婦を、自分が愛している男に愛されている女を、この手で辱める。
倒錯と征服欲、嫉妬をない交ぜにした快楽が独房にいるネリッサを惑溺させた。
 自覚はなかったがキュロスの家でエウニケをかわいがっている時から、ネリッサは愛憎を超えて
この美しい年上の寡婦にのめりこんでいた。いくつもの薬を試し、淫薬を与え、キュロスのような
下郎に捕らわれた姫君を手なずけるようにして、この手でエウニケの性感帯を開発してきた。
野蛮なキュロスには出来ない方法で。そして他人の所有物であるエウニケには手を出せない
ダビドの代わりとなって。
 エウニケが捕縛されてから、ダビドは一度もネリッサを寝所に入れていなかった。
 差し出された女の白い尻があった。ネリッサは張型のうごきを速めた。女体責めは焙るように
したほうが効果を上げると知ってはいても、今日は我慢できなかった。
 ずぶずぶと淫具を抜き差し、零れ落ちる淫水を肉芽にこすりつけ、やさしく揺することを
繰り返した。まるで何かの仕返しのように、女の弱点を丹念に責めた。
「ああ……」
 びくびくっとエウニケがふるえて落ちた。ネリッサは喘いでいるエウニケの腰を掴んで
もう一度エウニケの尻を上げさせると、ぬるんで火照ったところに籠から取り出した別の
淫具を突き立てた。
 すり鉢を擂る動きで女の暗がりを拡張し、熱くしてやりながら、ネリッサは繰り返した。
女のほそい腰や脚が悶えてひくついた。
「エウニケさん。これはダビドさまに云われたことなの」
 エウニケは波のように襲ってくる強い刺激にもはや声も上げられず、半ば麻痺したまま
枷の嵌められた首をふり、藁に伏せってすすり泣くばかりだった。
「ダビドさまがあなたを案じて、こうするようにと云ったのよ。そのためにダビドさまはわたしを
監獄に遣わしたの。ね、これを覚えているでしょう」
 狭い牢の中に女の喘ぎと性の匂いがたちこめた。
 ネリッサはエウニケの片手を掴み、後ろに回させてその手に淫具を握らせた。
それはキュロスがエウニケに試し、その後ダビドがエウニケの体内から取り外して
診療所に持って帰った、あの淫具だった。
 半分尻に埋まった責具を自分の手で握らされたエウニケはむせび泣いた。ネリッサは
そのエウニケの手を取って、一緒に動かしはじめた。
「ダビドさまはあなたを愛しているわ。エウニケ」
 どうしてこんなことを言うのだろう。ネリッサはエウニケの手を離さず、エウニケ自身に
抜き差しをさせた。
「すっかり淫乱になったのね。これならいつでも性奴隷として売り物になるわ」
ネリッサはエウニケに強調した。
「貴家に生まれたあなたが、はだかで競りにかけられて、帝国人の慰み物となるの。
鎖をつけられて宴に出され、恥ずかしい芸を披露するの。あなたは美しいから、きっと
とびきりの見世物になるわ」
 強調すればするほど、女囚に半自慰を強いて辱しめているその行為は、執拗でゆがんだ
ものになった。自分の手で淫具を押し込まれながら頬を紅潮させて喘いでいるエウニケは
ネリッサの言葉を理解しているのかいないのか、顔をゆがめて、唇をふるわせた。
「ダビドさまはあなたを愛しているわ」
 エウニケは壁に頬をつけ、喘ぎながら下半身から湧き上がるものを切なく堪えていた。
汗ばんだ髪がはりついたその上品な顔には、愛するダビドが夜伽をさせているところの女奴隷に
苛まれる恍惚感すら次第に浮かび、淫薬なしでもその声はひどく艶めいて、錯乱したかの
ように甘く乱れはじめていた。
「暑いでしょう」
 ネリッサはエウニケの囚人服をすっかり脱がせた。
 キュロスやラウラの監視なしにエウニケを調教する。こんな機会は滅多にあるものではない。
ネリッサは後ろから手を差し入れて、エウニケの淫核を爪の先で小刻みになぶってやった。
首枷を嵌められたはだかのエウニケは爛れた声を上げはじめ、乳房を揺らして弓なりになった。
「敏感なのね。この次はお浣腸をしてあげる。気持がよくなるお薬をたっぷりと注入してあげる」
 何を言われているのかもよく分からないまま、エウニケは頷いた。被虐の果ての忘我に
陥ったその目はうつろで、陰毛まで湿らせながら、エウニケは子供のうわごとのように
小さな声で、何かを苦しく懇願していた。
「いや……いや……」
「そう、痒いのがいいのね。あの薬がそんなに気に入ったのね」
 ネリッサはエウニケの首輪を引いて、その頬に接吻した。ラウラはネリッサを気に入り、
今後も監獄に通うようにと言っていた。忙しいダビドは下僕の動向などにいちいち気をとめない。
買い物に出るふりをしてキュロスの家に通っていた時のように、エウニケのいる監獄に通うように
なっても、今度もうまくごまかせるだろう。
 あ、あ、と女が自ら張型を求めて細腰をふり立てはじめるのを、ネリッサは深い満足でもって
軽蔑的に眺めた。
「診療所に帰ったら伝えるわ。あなたがダビドさまの心遣いにどうやって応え、どう感謝
していたかを。ダビドさまは、それはそれはあなたの身を案じて、奔走されておられるのよ」
「ダビドさま……」
「腰をふりなさい。もっと」
「西の門……」
「え?」
 エウニケはふらりと揺れて、床に崩れ落ちた。慌ててネリッサは張型を引き抜いた。
女の股から滴るもので床の藁が濡れた。
「西の門の、記念碑に。顔役が、そう……」
 西の門。
 攻防戦において、帝国軍が新式の破城槌を集中させてようやく破壊し、占領の
糸口を掴んだ、聖地の西側の大門。
 そういえば、先刻エウニケに飲ませた薬には、催眠効果もあった。
責めることにより、はからずも自白効果を上げたのだろうか。エウニケの忘れていた
記憶が呼び起こされたのだろうか。
「エウニケ。西の門がどうしたの。そこにあった碑が、聖地の財宝に関わりがあるの」
「……」
「答えなさい」
 すごい秘密が訊き出せるかもしれない。
ネリッサは耳を澄ませた。ラウラは他の棟を見廻ってでもいるのか、いっかな戻ってくる
気配がなく、外の見張りもさっきまでは覗き窓から牢の中を見ていたが、今はもういなかった。
 ネリッサは昂ぶる気持のままにエウニケの首輪を引っ張った。
女の白い裸体は、唇と胸の先と陰部だけが、処女のそれのように薄く色づいていた。
「答えなさい。知ってることを全部吐くのよ、エウニケ」
 どうしよう。また薬を飲ませようか。この女はダビドの名にあれほどの反応をみせていた。
淫薬で責めてやり、ダビドの命が危ないとでも言えば、おとなしく白状するだろうか。
 ラウラはそのうちエウニケを三角木馬に乗せてやると言っていた。ネリッサは対抗心で
目を燃やした。この美しい女は私のものだ。腹を裂いてでも、私が白状させてやる。
「エウニケ」
 エウニケの張り詰めた白い乳房を睨み据え、ネリッサは厳しく責めた。
「エウニケ。答えなさい。これはダビドさまから頼まれたことなのよ」
 美しい寡婦は意識朦朧として、屠られた可憐な鳥のように力なく、首を傾けて目を閉じていた。


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