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ご注意:苦痛・流血をともなう本編の過激描写は、小説としてのフィクションです。決して人体に試さないで下さい。死亡・大怪我・病気に至ります。

聖地の寡婦
■第三夜


 黒髪のネリッサはよい補佐になった。
 たいていの女なら逃げていくような手術にも立会い、よく観察して、次に同じ
施術をする時には必要な医療器具を事前に揃えて、手際よく的確にダビドに
渡すことが出来た。
頭蓋切開だけは「向こうへ行っていなさい」とネリッサを遠ざけたが、ネリッサは
青い顔をしながらも、血のかからぬ離れた場所から一部始終をじっと見ており、
頭の穴を塞ぐ銀板を助手が床に取り落とした時も、転がってきたそれをすぐに
拾って近くにまで寄り、患者の脳みそを間近にすることまでした。
 被征服民はもとの貴賎を問わず、帝国の奴隷である。
奴隷といっても、主人の意向ひとつで解放奴隷にし、帝国人民にしてやれる。
とはいえ、奴隷から解放されても明日からの衣食住に困るようでは奴隷のままで
いるほうが飢えずに済むわけで、たいていの奴隷は数十年の奉公の後、貯めた
給金を元手に手に覚えた職で店をはじめるなり、故郷に帰るなり、
或いはあらためて以前の、または新たな主人と雇用関係を結んで仕えるのが
通例だった。
 ダビドはネリッサをそれとなく観察し、よく気がつく頭のよい娘であることが
分かると、薬の調合も任せてみた。そうやって食べていけるだけの知識を教え、
早々のうちにネリッサを解放奴隷としてやるつもりであった。女の医師は
敬遠されるが、薬剤師ならば何処に行っても重宝される。


 悪寒と嫌悪に身をふるわせ、エウニケは、主の命に従った。
 両手両膝を床につき、腰を突き出す格好にさせられた女の上に男の大きな
影が覆いかぶさった。キュロスは女の尻を抱えるようにして、エウニケの肛門に
鼻先を近づけた。
「おとなしい顔をして、この前、お前はこの穴からいろんなものを捻り出していたぞ。
俺や医者や下僕たちの前で、よがり声をあげながら、道端で糞をする犬のように」
 ふっと息を吹きかけられた。女の息が羞恥のあまり乱れた。そんな寡女を責めるように、
エウニケの左手の刺青が赤く浮き上がる。
 わななき、ひくついている女の尻にキュロスはさらに恥辱を与えていった。
 布を絞ったようなすぼまりを指でつつき、キュロスはその上に唾液を垂らした。
エウニケは、床に顔を伏せ、肩で息をついた。
「怪我はもう治っているようだな」
 女のまわりを濡らしておいて、キュロスは小指の先をそこにあてた。男の指がそこに嵌った。
第一関節まで埋めておいて、キュロスは中で指を動かしてみた。う、とエウニケが小さな
呻きを上げた。
 キュロスは肛門をくつろげてやりながら、女の呻きを愉しんだ。
「もうあんなことにならぬよう、これから毎晩、お前のここを拡げて鍛えてやる。
医者からも遣り方をきいたのだ。帝国の性奴隷となった女には必要な調教だ」
 哀しく喘いでいるエウニケから身をひいて、キュロスはそんな女を後ろから眺めた。
細い腰からまるい尻へと曲線が続き、ほっそりとした二本の脚が左右に投げ出されている。
エウニケの全身は次に何をされるかわからぬ恐怖と緊張で、汗をかいていた。
 キュロスは両手で女の尻をわし掴んで揉んだ。それからおのれのものをしごき、
寡婦の陰裂を肉竿でなぶった。このまま後ろから犯すのだ。
 犯されても頑なに貞操を守っているようなところのあるエウニケは、成り上がりの
キュロスにとって、難攻不落の城を前にした時に等しい、征服欲をかきたてる女であった。
「お前を淫乱な女につくり変えてやる」
 女の秘処をねちこくいじくるキュロスの目はまだエウニケの肛門のすぼまりの上に
とまっていた。本来であれば声をかけることも出来ぬほどに高貴な女を、専属の奴隷と
して使っている歓喜に、キュロスは昂ぶり、おののいた。
 キュロスはおのれをエウニケの中に突き入れ、後ろからはげしく腰を振りたてた。
「こうして特別に大切にしてやるぞ。俺が飽きるまで、たっぷりとな」


 ダビドは追い返せ、と怒鳴り声をあげた。
 今月に入ってもう何人目だろうか。
溜まりに溜まった兵士たちの性欲の吐き出し口は奴隷で間に合うにせよ、
少し落ち着いてくると、彼らはそれでは満足せずに、あらたな快楽を求めて
あやしげな試みに興味を向ける。
 征服された聖都には付近の都市から復興景気を見込んだたくさんのあやしげな
商人たちが流入してきていたが、それら商人が兵に売りつける粗悪品では
満足しない連中が医療薬での代用を思いつき、このところ盛んにダビドの診療所
へも、淫薬を求めに訪れるのだ。
「ただでさえ、医療品は不足がちなのだ。余分はないと言ってやれ」
 水でも撒き散らしたい思いで、ダビドは苛々と拳を机に打ち付けた。
どうせこの後は、さらに悪知恵をつけた兵士たちが仮病を装い、何とかして
媚薬になりそうな薬を手に入れようとやってくるに違いないのだ。それへの
撃退方法を考えるだけでも、頭が痛かった。
「軍中で性教育を徹底してくれ」
 ダビドは診療所を訪れたエラスムスに訴えた。
「心得のない連中が無茶をすれば、怪我人が増え、こちらの仕事が増える」
「こいつが、拡張器具か」
 きいているのかいないのか、エラスムスはそれを手に取った。
「女、或いは男奴隷の尻の穴を、この器具で辱しめながら開発しようというのだな」
 それは円筒を二つに割ったような形をしており、ねじで径が調節できた。
ごつい手の中でねじを回し金属製の拡張器具の口を開いたり閉じたりしながら
エラスムスは興味深げにダビドを振り返った。
「排便の困難を偽ってまでして、この肛門拡張器具を拝借しにくる輩が絶えぬとは、
俺にはそちらの趣味はないが、相当によいのだろうな」
「ばかなことを」
 ダビドは吐きすてた。
 肛門拡張器具は性技に用いるためのものではない。便通が困難になった者への
処置としてやむおえず浣腸と共に使うものだ。
 もちろん肛門とて、太古の昔から男女問わず性交に使用されてきた性感器官で
あるので、それを試みて悪いわけがない。その試み方が問題なのだ。
 穴を拡げる方法については、むしろ男娼や娼婦を扱う商人の方が詳しい。
彼らは性奴隷にそれを仕込むのに、危険な器具を使わず、油を用いる。
少しずつ拡張することが肝要で、尻の穴はそれでなくても、扱いに慎重な注意がいるのだ。
括約筋が切れてしまえば生涯たれ流しである。
 エラスムスはダビドの説明を関心をもって聞きながら、器具を片手に、ダビドに訊ねた。
「聖都に来てから、これを使ったか?」
「使った」
 ダビドは認めた。他でもない、あの寡婦エウニケに。

 キュロスがエウニケの中に突っこんだ淫具は、だいぶ奥にもぐり込んでしまっていた。
 ダビドは使いを出して、診療所から拡張器具をはこばせた。
 身を引き裂かれるような悲鳴をあげてのたうつ女体を、男たちは押さえ込んだ。
怪我をしている場所にさらに拡げていくのであるから、痛いに決まっている。
が、心を鬼にしてダビドはエウニケにその処置をした。
 真っ白い女の尻が眼の前にあった。穴から血を流していた。
 嵌めこまれるだけでもそうとうに異物感があるはずだ。ダビドは女の肛門に
橄欖油を入念に垂らし、不細工な器具を埋めていった。
 寝所の中はまるで家畜の出産現場のような様相になってきた。途切れ途切れに
上げる女の呻き声は、拡張器具のねじを回していくにつれて酷いものになった。
 泣きながら「口をきく家畜」はもがいた。
「おゆるし下さい。裂けます……裂けてしまいます」
 実質にはさほど穴を拡げてはいないのだが、キュロスがめちゃくちゃなことをした
せいで、その傷口は火のように燃えて痛むはずだった。
 肛門が開いたところで、女の尻を立てて漏斗を差込み、ダビドはゆるく温めた
橄欖油を狭穴の中にそそぎ入れた。
「ヒ、ヒィッ」
「油浣腸か。こいつの下腹をもんでやろうか」
 キュロスが目をどろりとさせて言った。ダビドは下僕に命じて、桶を用意させた。
 直腸に熱い液体が渦巻く感触は、直腸で虫が暴れているような悪寒を女に与えた。
エウニケは喘ぎ、膝をすり、その身を苦しそうにそらした。
我慢してもしきれるものではない。
「ああ、あ……いや」
 浣腸されて咽び泣く女を見るキュロスの眼は血走っていた。
「エウニケの服をすべて剥ぎとれ」
「出てきた」
 女の体内から噴出してきた液体が桶で受け止められた。放出にあわせてキュロスが
挿れた淫具の紐がちらりと見えた。ダビドはその紐の先を鉗子で引っ掛け、引きずり出した。

 その後、キュロスは別室で酒を用意し、ダビドをねぎらった。
 エウニケの腹から取り出したものを片手に、ダビドはぎろりとキュロスを睨んだ。
 あれから消毒し、汚物と血を洗い流してはあったが、歪な形のその物体は
見るだに淫靡だった。
 それは大きなものではなかったが、キュロスの扱い方が悪かったので紐ごと
奥へ埋まってしまい取れなくなったのだ。
「あなたの奴隷について口を挟む権利はないが、医師として言わせてもらいます」
 卓の上にごとりと責具を投げ出して、ダビドは自分よりも体格のいいキュロスを
医師の威厳をもって叱責した。
 帝国における奴隷とは確かに「ものを言う道具」であるが、牛や馬を棒で殴りつける
人間に尊敬は抱きようがないのと同じで、奴隷を惨く扱う者も、ダビドは吐き気が
するほど嫌いであった。
「性奴隷として仕込むにも、それなりの手順と手間があるものです。男は女よりも
力が強いのだ。エウニケのような華奢な女に手荒なことをするとどうなるか、それが
分からないのですか」
「奴隷商人がそれを売りつけたのだ」
 キュロスは悪びれもしなかった。
「女の尻にぶち込んでやれば、ひいひいとよい声で泣くというので買ったのだ」
「では、もう満足すぎるほどに、ご満足でしょう」
 ダビドは皮肉った。
 エウニケは最後には失禁をし、淫具が取り外された後も放心した目つきをして、
陰門から不浄物を滴らせながら、残量感の余韻に俯いて喘いでいた。
「傷口が開かぬよう、しばらくは流動食を与えて下さい。今後はなるべく処女にそうして
やるように、道具を使うにしても小さなものから優しく手ほどきをしてやることです。
それと寝所に閉じ込めていては不健康。一日に一回は散歩をさせ、エウニケに
太陽の光を浴びさせるように。これは預からせてもらいます」
 淫具を取り上げて、ダビドはキュロスの邸宅を後にしてきた。
 その道具は、診療室の机の上にある。エラスムスは眉を寄せた。
「こんなものが、よく初めての女のあそこに入ったな。キュロスめ、ばか力で
押し込んだのだな。奴隷上がりのあんな粗野な男の性奴隷にされるとは、
その美女も不運だった。痛ましく、もったいないことだ」
「同感だが、戦の常だ」
 むっつりとダビドは応えた。
 だからエウニケのことで思い煩うことはない。
 自分にそう言い聞かせながら、ダビドは診療記録の続きにとりかかった。
 そうではなく、本当は、エウニケに対して責任を感じているのだ。焼き場に
運ばれてゆくのを制止したあの時に、もし自分がエウニケを引き取っていたなら。
 キュロスには女を暴力的に酷く痛めつける趣味はなさそうだが、高貴な女を征服して
辱しめてやりたいという、成り上がりらしい屈折した嗜虐癖はたっぷりとありそうだ。
 手に入れた血統のよい犬か猫でも見るような目でエウニケを眺め、キュロスは承知した。
「それでは、昼の一定時間、こいつにも中庭を歩かせてやるとしよう」
 手折られた花の風情でエウニケはそのはかなげなからだを寝台に横たえていた。
女の左手の甲にある刺青が、立ち去るダビドの眼に焼きついて離れなかった。


 珍しく、急患のない夜だった。エラスムスは夜半になってようやく帰った。
ダビドが休もうとしていると、静かにネリッサが入ってきた。
「ダビドさま」
 若い娘の張り詰めた肉体が、ぴたりと温かくダビドに寄り添った。
 咎める気力もなかった。最近、ネリッサが自分を見る目の中には、敬慕を超える
ものが混じっていた。老僕や助手たちがけしかけ、ネリッサもその気に
なったのだろう。
 ネリッサは吐息をもらした。無言で女の脚を開かせて、やわらかなその器官を
揉んでやる間も、ダビドの頭の片隅は、いつものように醒めていた。
 アテナを喪って以来、ずっとこうだ。また失うのではないかという気持ち、
それでもやはりやるのかという自嘲、底に冷えたものを抱えたまま、行為に没頭
してゆく罪悪感と自虐。
「ダビド医師、みてみろ」
 また夢を見た。
 にやつきながら、キュロスがエウニケの陰唇をめくりあげてみせた。少女のような
薄い色をしたそこは生き物のようにひくついて、指を入れるとぬるりと潤んでいた。
「性奴隷にふさわしく、苛まれて悦ぶからだに調教してやっているのだ」
 肛虐を受けるエウニケが喘いでいた。いまダビドの体の下にいるのは、アテナでも
エウニケでもなく、奴隷のネリッサだった。ネリッサは夢ではなく、その快楽の声も
生々しい熱を帯びていた。
 ダビドはもう一度、ネリッサの中におのれを進めた。
「ご主人さま、ダビドさま」
 女の優しさを深く味わいながら、それでもダビドはやはり醒めていた。
 没頭しようとしても無理だった。女の手の甲に刻まれた印が夕べの蝶のように
脳裡にひらつき、離れようとはしなかった。
 愛する者を亡くしたあのエウニケならば、愛の思い出とその後の変転の寒々しさを、
自暴自棄ともいえるこの堕落を、隅々にまで分かち合い、慰め合えるのだろうか。


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