ご注意:苦痛・流血をともなう本編の過激描写は、小説としてのフィクションです。決して人体に試さないで下さい。死亡・大怪我・病気に至ります。

聖地の寡婦
■第六夜


 どんな男だったのだろう。
考えても仕方がないが、男の嫉妬で、気になってしまう。
寡婦の刺青を取り去ることを、泣きながら、あれほどに
抵抗していたくらいなのだ、死んだ夫を、エウニケはよほど愛していたのだろう。
だから死んでから、もう随分と経っているというのに、あれほど強く情も残って
いるのだろう。
 (不可能だ)
 拳で机でも叩きたい気分で、ダビドは椅子に坐り、棚に並んだ薬瓶を
睨むように見つめた。
 (不可能だ。死んだ者を、何年にも渡って、愛し続けることなど)
 それでは、お前はどうなのだ。
心の中の声が、ダビドに訊ねた。
お前も、ずっと、アテナのことを想っていたのではないか。しつこく慕い、
懐かしみ、その面影を、想い出を、女々しくいじましいまでに、夜中中いとおしんで
いたのではないのか。
 アテナとは、幼馴染で、揺り籠の頃から一緒だったから。
 思いがけぬかたちで、早くに死別してしまったから。
 その死に目にも、埋葬にも、立ち会えず、まだ夢のようだから。
 一つ一つ、言い訳をしてみても、そのどれもが、片端から水泡のように実感なく
消えていってしまう。
 長年、自分を支えるためにすがりついていた或るものが、いよいよその効力を
失い、忘却の彼方へと去ろうとしている。
 前を向いて、明日を生きるための、アテナを喪ったという動力源が、失速し、
失効しようとしている。
 わすれたい。わすれたくない。忘れたほうがいい。忘れてはいけない。
 この問答を何万回も繰り返して、あえて麻痺させてきたこの心が、違う女のことで
いっぱいに、張り裂けそうになっている。
 死んだ亭主を、まだ愛している、他家の女奴隷のことで。


 おおいに自己嫌悪し、自嘲しながらも、気がつくと、ダビドはエウニケの
ことばかりを考えている。
 どう見ても、エウニケは主のキュロスを嫌悪していたから、エウニケにしてみれば
厭わしい限りの隷属だろう。
 奴隷となった女はそういうものだ、と理性は片付けようとしていても、他でもない
ネリッサに対してお前がやっていることと同じではないかと、己の身勝手さを
責めようとしても、思考の隙間では、ずっとエウニケのことばかりを案じている自分がいる。
 あれから、キュロスの家に遣いをやろうとしていたところ、キュロスのほうから
診療所に現れて、刺青を除去した痕のエウニケの経過をダビドに教えた。
「そろそろ、エウニケは使えるのか?」
 キュロスは、それを訊きにきたのである。
 薬を持たせて返したが、その際、キュロスはぶつぶつと、
「あの女、奴隷のくせに、女王さま気取りでもったいぶったり、俺を拒否したり、
そうかと思えば、力の抜けた人形のように黙っているばかりで、可愛げのない。
亭主とそうしていたように振舞えと言っても、貞淑なふりをして頑なになるばかりで
いっこうにはかどらん。あれは俺を馬鹿にしているのだ。
誰が寡婦のお前を、総督の寡婦狩りから匿ってやっていると思っているのだと
怒鳴りつけても、いっそ獄舎に繋いで欲しいとぬかしよって。懲らしめてやったら
ようやく俺の前に屈服したがな。あの美貌と白い肌を傷つける男はいないと
最初から男をなめてかかっているのだ。思い上がっためす犬め、そのうちに
俺さまの力を思い知らせてやる」

 ダビドは大きなため息をついた。
この男、以前こちらが女奴隷をいたわってやれと言ったことを、全然理解していない。
相変わらず、エウニケに対してそんな非道を繰り返しているのか。
 さいわいなことに、粗野なキュロスはその粗暴な振る舞いの一面で、エウニケを
「お姫さまか宝物のように」大切にしているのも本当なので、本腰いれた虐待者には
なるまいが、自慢と誇張と思って話半分にきいてはいるものの、漏れ聞くエウニケの
いたましい様子に、ダビドの胸は波立った。
目の前で喋り散らしているキュロスを殴り飛ばしてやりたい衝動を抑えるのには、
職業的な冷静さを必要とするほどであった。
 キュロスはなおも、言い募った。
「性奴隷の調教には、それ専門の調教師を雇うのが近道だ。調教師は複数雇おう。
連中と共に、あの女を従順な性奴隷にしてやるのだ。俺が飽きたら、いつでも高値で
貸し出し、売り飛ばせるようにな」
 エウニケを手放す気などさらさらないくせに、キュロスはそんな話をして
ダビド相手に自慢をしているのだろう。
 寡婦狩りの目を逃れるために、おおっぴらには入手した美しい女奴隷を
披露できぬキュロスであるから、なおのこと、共犯者のダビドには何でも話すのだ。
 どうしようもないもので、腹の底では「エウニケのことをもっと知りたい」
「貸して欲しい」と思っている男の本音もあって、ダビドはキュロスの喋るままにさせておいた。
 わすれたい。わすれたくない。忘れたほうがいい。忘れてはいけない。
 自分の物でもない女奴隷のことを、こうまで気にしても、不毛だ。


 それからも、時々、キュロスはダビドが手隙の時間に、ダビドの診療所を
訪れるようになった。それでなくとも、軍隊訓練で日々傷が絶えぬ男であるから、
どうせならばと、手当てはダビドにすべて一任する気になったらしく、打ち傷や擦り傷を
そのままにして、軍馬でやって来るのだ。
「そういえば、あんたのところの女奴隷は。黒髪の」
 キュロスはいかつい顔をぐるりとまわし、続き部屋の診療室の方へと向けた。
「ネリッサのことですか」
 内心で身構えているダビドには気がつかず、キュロスは何かを言いかけて、やめた。
かえって、ダビドの方が気になった。
「ネリッサが、どうかしましたか」
「いや。たまにここで見かけるのでな。目の保養だ」
「はあ」
「エウニケを手に入れた俺も運がいいが、あんたも運がいい」
 「それはどうも」、うんざりとダビドは応えた。
 隆々たる筋肉のついた体躯を持ち上げてキュロスが帰ってから、ダビドは
ネリッサを室に呼んだ。ネリッサは裏の離れにいた。
「え。キュロスさまが」
 ネリッサは不思議そうな顔をした。
 もしやキュロスがネリッサに手を出したのではないかと思ったが、そうではないようだ。
 ダビドはネリッサの手を見た。
 先ほどまで薬草を扱っていたのか、切り揃えられたネリッサの爪は少し、薬草の色に
染まっていた。
 何か言いかけて、言えない時、人はそこに、何をこめているのだろう。
秘密だろうか。後ろめたさだろうか。危険だろうか、保身だろうか。
「ダビドさま」
 今日のネリッサは、艶のある長い黒髪をゆるく束ねて、助手が贈った飾紐を
その上から巻きつけていた。ダビドを見つめて、ネリッサは指示を待っていた。
 奴隷は、ものを言う道具。
 奴隷との恋は、成り立たない。
だからたとえ寵愛の奴隷を持つ人であっても、彼らは奴隷のことを、こう言うのだ。
 「愛玩物」と。
 奴隷には、人権がない。
その代わり、奴隷には、奴隷から解放されるという希望が残されている。
もっとも主に恵まれた奴隷は、以前の暮らしよりも贅沢で快適な環境と、愛する主から
離れることを嫌がって、解放されることを奴隷の方から放棄することもある。
ダビドの許にいる老奴隷もそのくちだ。父から譲られた老僕は、ダビドを
自分の息子のように思い、この聖都にもついてきて、献身的に尽くしてくれている。
ダビドも、幼少の頃からしたしんでいる老僕のことは、実の祖父のようにも思え、老いて
働けなくなっても家に残しておいてやることを決めていた。
 では、このネリッサは。
「ネリッサ」
 何とか、用事をひねり出して、ダビドはネリッサに言った。
「まだ市場は閉まってないはずだ。台所に行って、香料を点検し、足りないものが
あったら、それを買いに行っておいで」
「はい」
「他にあったほうがいいものがあれば、お前の判断で、買い足してもいい」
 ダビドは、ちらりと窓を見た。日が暮れるには、まだ時がある。遅くなるようならば
男衆をつけてやらねばならないが、市場はそう遠くないし、空が翳るまでには
帰ってこれるだろう。
「気をつけて行くのだぞ」
「はい」
 ネリッサは返事をして、出て行った。

 
 ネリッサは籠を下げて、ダビドの屋敷を出た。
 左手に、監獄の建物が見えた。
全体的に低い建物であるが、円形の塔を東西に備え、それが遠くからでも
監獄の目印となっている。
聖都中の寡婦が捕えられている砂色壁のその獄舎から目をそらし、ネリッサは速足で
街路を突っ切った。
 征服後、大陸一を誇る帝国の建築技術でもって再構築された聖都は、以前よりも
はるかに整然として、道幅もひろく、すでに蹂躙の痕もない。
 ネリッサは中心街よりもかなり西に外れた城壁寄りに住んでいたので、現在
ダビドが診療所を構えている高級住宅地の家々の見事さ、噴水のある庭、門構えの
立派さは、まるで違う国に来たように、目覚しかった。
 はなればなれになった家族のことを思うと、胸がつまった。
しかし、それは考えては駄目なのだ。そうでなければこの乱世、誰もが、生きてはいけない。
ネリッサも、そう教えられて育ってきた。
 わたしは、幸運だ。
 ネリッサは籠を持ち直した。
 ダビドさまは厳格だけど、優しいし、助手の人たちも真面目な働き者で、それとなく
気を遣ってくれる。
 もっと性根の歪んだ、奴隷を厩舎に閉じ込めて、家畜同様にしか扱わぬ
酷い主のほうが多いのだから、本当に、ダビドさまの奴隷となれて幸運だった。
 それなのに何故、わたしはこんなことをしているのだろう。
 ネリッサの足は、市場へは真直ぐに向かわず、キュロスの屋敷へと向いていた。
 昼間キュロスがダビドの診療所に来た時に、こっそり渡すはずのものを、ネリッサは
籠の中にしのばせていた。
「ネリッサか。入れ」
 キュロスの屋敷の裏門をくぐったネリッサは、何度か訪れて勝手知ったる
幾つもの廊下と部屋を通りすぎて、寝室へと歩いて行った。
 寝所の中からは、キュロスの声と、かすかな女の呻き声がしていた。
 ネリッサはそのまま、扉を開けた。
半裸のキュロスが振り返った。
「ちょうどいい、お前の薬が欲しかったところだ」
 哀れな女。
 ネリッサは奥にいるエウニケを一瞥した。
 キュロスの女奴隷は、両手両脚を広げられて、引き裂かれた白い花のように
寝台に縛り付けられていた。
 いつ見ても、エウニケはたいてい素っ裸にされており、その姿を見ると
ネリッサは何となく、女奴隷としての優越感を覚えた。エウニケが美しければ美しいほど
その無残な姿には、どことなく、人の嗜虐性を呼び覚ますものがあった。
 縛られたエウニケは先ほどまで、キュロスから性感帯を弄られていたらしく、頬を
紅潮させて、涙を流し、唇を小さく開いていた。その姿は、どきりとするほど、艶だった。
 みっともない。
 あえて、ネリッサは心の中でそう吐いた。
 キュロスのような男の性奴隷にされているこのエウニケに比べれば、わたしは
そこまで、おちていない。
 ネリッサはすたすたとそちらへ歩いて行った。長居は出来ない。
籠を探ると、その薬壷を取り出した。
「キュロスさま。こちらです」
 熱を出したエウニケの為に熱さましの薬を求めて、キュロスが往来で逢った
ネリッサを屋敷に連れ帰った日、キュロスはネリッサに、あることを持ちかけた。
「薬に詳しい、お前なら」
 キュロスはネリッサの耳を抓まんで、熱い声で囁いた。
「性具商人が持っているような、おもしろい薬も、調達できるのではないか?」
 キュロスはネリッサに取引を持ちかけた。
それを用意できたら、この俺が、お前の主のダビド医師を守ってやる。
ダビド医師は有能なので、軍医の中には、嫉んでいる者も多いのだ。そいつらが
何かの妨害工作や、嫌がらせをせぬように、今後はこの俺が、ダビドを贔屓にしてやる。
そうすれば、軍医どもも、ダビド医師に手出しはしないだろう。


 奴隷あがりの隊長ごときが、皇帝の主治医団の肩書きを持つダビドを守るとは
片腹痛いはなしではあったが、ここは都から離れた、占領地である。
治安がよいとはいえず、さらに、ダビドは自分のことには無頓着で、市街の様子を
見回るのにも、気がむけば、供も護身用の剣もなく、ふらりと出て行ってしまうほどで
あるから、どこまであてにしていいのかは不明ながらも、ネリッサはダビドの為に、
キュロスの歓心を買っておくほうがいいと判断した。
 キュロスはネリッサの細腰のあたりを撫ぜながら、さらに言った。
「ダビド医師には恩もあるが、あの男は、くそ真面目でいかん。以前にも俺が
それとなく、その薬について話を持ちかけようとしたが、医学は神聖なものなどと
ぬかして、取り上げてはくれなかった」
「媚薬のことでしょうか」
 覚悟を決めてネリッサが訊ね返すと、キュロスはにたりと笑った。
 あとは、キュロスが所望した薬を、ダビドの診療所にある本を見ながら、こっそりと
調合すればよかった。
 生命に差し障る類のものではないと分かってはいても、自分で試す気には
とてもなれなかったが、その効能は、結局はエウニケに試した。
最初はおそるおそる、次第に、キュロスが求めるまま、種類を変えて、大胆に。
 これは、嫉妬だろうか。
 薬をすり鉢で練っている間、ネリッサは自問した。
ダビドさまがお心をかけておられる女を、めちゃくちゃにしてやりたい、ダビドさまが
ご覧になれば、汚らわしい性奴隷だと忘れていただけるような女になるまで、この女の
清楚さを剥ぎ取り、淫らに狂わせてやりたいという、どす黒くも、醜い嫉妬だろうか。
「今日は、お前が塗れ」
 にやにやと、キュロスがネリッサに命じた。薬壷を抱えたネリッサは、はっとなった。
「わたしが、でごさいますか」
「そうだ。お前が塗れ。どうした、新しい薬を持ってきたのだろう?」
 キュロスはエウニケの乳首を抓んだ。
 手の届くところに、女の陰部がすでに濡れてあり、そして女は、身動きされない
ようにされていた。
「……ア」
 彼らの会話に怯え、エウニケが身じろぎした。その目じりからは、はらりと
涙がまた零れた。一糸まとわぬ、秘部を晒したあられもない姿であるのに、
 美しいものをそうと感じる心の持ち主ならば、誰しもが、しんと心うたれるような
女だった。
 ネリッサは、エウニケの縛られている手を辿り、左手の甲を見た。そこには、
ダビドの手で切り取られた刺青の痕が、赤くなって残っていた。
女の腰は細く、すらりと伸びた脚はつま先まで整っており、仰向けにされているので
平らになっている乳房には、キュロスに触られてかたくなっている乳首があった。
乱れた髪がまつわっている顔は、これ以上はないというほどに、かよわく、品があり、
唇をひらいて、小さく喘いでいた。
 ネリッサは薬壷の蓋をひらき、匙で薬をとった。これは、ダビドさまの為なのだ。
他の男のものであるこの人のことはもう忘れて、亡くなった奥様のことはもう忘れて、
そして、わたしを見て欲しい。
 それは女の勘だった。
 きっと、ダビドさまと、エウニケは、深く想いあっている。
何の根拠もなかったが、人と人を見た時の、男と女を見た時の、何となくの、そして
まず外れることはない、それは確信だった。
 (エウニケをキュロスの性奴隷として、完全に改造し、繋いでしまうのだ。そうすれば
ダビドさまも、きっとエウニケのことを、諦めて下さる)
「今日の薬はなんだ?」
 淫具でエウニケの頬をさすりながら、キュロスが訊いた。
「痒み薬です。はげしく暴れると思います。舌を噛まぬよう、口枷を嵌めたほうが」
「よがり狂うようになる、あれだな」
 キュロスはにやつきながら、エウニケの上半身を抑え込んだ。
「ウ、ウウ」
 エウニケがいやいやと首を振り、枷を嵌められた口で、抵抗の声を上げた。
 ネリッサは、やわらかなエウニケの恥毛をかきわけ、匙ですくった薬をそこに持っていった。
溝はすっかり乾いていた。匙を動かして、エウニケの粘膜の隅々にまで薬を塗った。
エウニケの性器をじっくりと見るのは、はじめてではなかったが、いつ見ても、同性の
いやらしく、汚い処というよりは、はじらいそのものという感じで、いつまでも触れたり、
つついたり、可愛がったり、眺めていたくなる。
 エウニケが悲鳴をあげた。
「熱くなって、からだの芯まで蕩け、痺れるほどに痒く、痒すぎて狂いそうになるお薬です」
「しばらくは放置を愉しみ、その後で、淫具で慰めてやるぞ、エウニケ。その時にはお前の
口枷を外し、俺にどこをどうして欲しいのか懇願させてやる。涙を流して感謝するように、
躾けてやるのだ」
 よだれを垂らさんばかりにして、キュロスは棒状の淫具を手の中で揉んでいた。
 黙ってエウニケの陰部と乳首に薬を塗りたくりながら、ネリッサは、なおも
心の中で、これはダビドの為なのだと、根拠なく言い聞かせていた。エウニケの肌は
陶器のようにすべらかで、花びらのように、柔らかで、手の平に吸いつくようだった。
 奇妙なことに、ネリッサは、自分がダビドとなって、エウニケを愛しく愛撫しているような、
そんな気すらした。本当になんて美しい人なのだろう。この人が、ここにいる、この
野獣のようなキュロスの奴隷であるとは、何という冒涜だろう。
 憎いのか、愛しいのか、よく分からない気持ちだった。
 痒み薬が体温で溶け、粘膜に浸透しはじめるまで、時間はかからなかった。
 女の肌がびくびくと痙攣をはじめた。縛られた四肢を突っ張らせ、痒みが噛み付いた
股をぐっと開くようにして、エウニケが手枷足枷を引っ張って暴れ、哀しげな声を
上げはじめた。
 それがどれほどの痒みなのか、ほんの少しだけ手に塗ってみたことのある
ネリッサにはよく分かっていた。敏感なところに塗った以上、気も狂わんばかりの
効果だろう。背をのけぞらせ、踵を打ちつけ、エウニケが泣きじゃくって暴れていた。
はだか踊りをしている、杭に繋がれた妖精のようだった。
(こんな淫らなエウニケの姿を見ても、ダビドさまは、それでも、エウニケが好きだろうか)
「こちらが、中和のお薬です」
 今日は、本当にもう時間がない。遅くなったら、ダビドさまが心配する。
 エウニケの悲鳴がいっそうきつく、強くなった。発汗により、どんどんと痒みが
増して、その刺戟は激痛に近くなっているところへ、キュロスが悪戯をしかけたのだ。
 ネリッサは、寝台から遠く離れた小机の上に、小壷をおくと、いそいでキュロスの
家を後にした。


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