ご注意:苦痛・流血をともなう本編の過激描写は、小説としてのフィクションです。決して人体に試さないで下さい。死亡・大怪我・病気に至ります。

聖地の寡婦
■第七夜

 すり鉢の中に、乾燥させた薬草を入れて、木製のすりこぎで鉢の底を
擦るようにかき混ぜる。
 両手でしっかりとすりこぎを握り、鍋の底の焦げをこそげ取るようにして、
薬草を鉢の内側に刻まれた溝にこすりつけ、時折、鉢の底を叩くようにして
細かく潰す。
異物が鉢が擦れ合うごりごりとした手ごたえがすっかり軽くなるまで、ネリッサは
すりこぎをこじるように動かして、その作業を続けた。
 机の上に開かれた薬学の本は、催淫剤の作り方のところに、重しが
置かれていた。
 ネリッサは表情を崩さぬまま、すり棒を回した。
 これは、エウニケに使うための薬なのだ。
 昨日のエウニケは椅子に坐らされ、両膝を椅子の肘掛にかけるような
かたちで大きく股を拡げられ、いつものように、舌咬み防止の、口枷を
嵌められていた。
椅子の背に回されて固定された腕も、絞るようなかたちに縛られた
乳房も、ネリッサが到着した頃にはすでに拘束が完成しており、恥ずかしい
体位にされたエウニケは首を傾けて、外に突き出したつま先をふるわせ、
羞恥のあまりに目を閉じて、唇をわななかせていた。
「よく来た、ネリッサ。今日は時間があるのだろうな」
「はい。キュロスさまが用事をつくって下さったおかげです」
 薬を入れた籠を持ったネリッサは、キュロスの許へといそいで行った。
びくんと、エウニケが縛られたその身をふるわせた。無防備になった部分が
あまりにもあらわなので、恐怖も倍増なのだろう。
ネリッサはエウニケの足の裏に触ってみた。
労働とは無縁の階級の出であることを示して、赤子の肌のように柔らかだった。
女を怯えさせるために、キュロスとネリッサは椅子の両脇に分かれて立ち、
しばしの間、無言で、そんなエウニケを見下ろした。
 はだかで椅子に縛られた女は、前を隠すことも出来ず、唇をかみ締める
ようにして、彼らの辱しめの視線に堪えていた。
 ネリッサは見惚れた。見ても見ても、見飽きぬほどに、美しい女だった。
蛙のような格好にされていても、その美は損なわれてはいなかった。
 この淑やかな寡婦を、清らかな、工芸品のように美しいこの貴女を、卑しい
解放奴隷の男と、帝国軍によって奴隷の身分に落とされた女が二人がかりで
思う存分におもちゃにするという趣向は、成り上がりのキュロスを大いに
興がらせ、キュロスは口実をつくり、ダビドに嘘の用事を頼んでネリッサを
屋敷に通わせては、秘事に参加させるようになっていた。
 真昼間からこんなことを、とネリッサは抵抗したが、そのうちに慣れた。
荒くれ兵士の奴隷にされた女の末路を、エウニケも辿っているだけなのだ。
「他の連中にも披露して、存分に羨ましがらせてやりたいが、エウニケは
理由あって、外には出せぬからな」
 キュロスはエウニケの左手の甲を指した。
 エウニケを外には連れ出せぬ、その理由を、ネリッサはもう知っていた。

 キュロスは、エウニケの首に首輪をつけていた。その鎖の端は、余裕を
もたせて、椅子の脚にくくりつけられていた。
 キュロスはネリッサの見ている中で、エウニケの顎を持ち上げた。
「鎖が音を立てた。エウニケが苦しそうに、唇を小さく開く。
「この前の、痒み薬は効いたぞ」
 キュロスはネリッサにその時のことを聞かせてやった。
「エウニケは、陰部の痒みに悶えて、泣きじゃくりながら、疼くところを
淫具でかき回し、突いてくれるようにと俺に懇願したぞ。俺は聞こえない
ふりをして、どこをどうして欲しいのかちゃんと言えるようになるまで、
放置しておいたのだ。息も絶え絶えに悶え狂うとは、あのことだな」
 エウニケの白い肌には、擦過傷が散見された。
ほとんどが、キュロスが縄で縛ることで出来た傷だった。柔らかい布を束ねて
使っていても、汗で湿ってくると、それは女の肌に擦り傷を負わせるのだ。
ネリッサはエウニケの白い肌を丹念に辿り、傷を確認してまわった。
あとで、手当てをしてさしあげなければ。
「四肢を縛られた格好でおあずけにされた、女のよがり踊りは、見ものだったぞ」
 キュロスの話はなおも続けた。
「せっかくだからいろいろ言わせてやったのだ。
『お前の主は誰だ?』『キュロスさまです』『奴隷女のお前のすることはなんだ』
『わたくしは、ご主人さまの慰安物です』
『俺の奴隷にされて嬉しいか、それなら嬉しいと言え。専属の性奴隷としてお好きに
して下さいと懇願してみせろ』。エウニケはすべてやったぞ。いつもよりも、熱心にな」
 この美しい人が。
ネリッサは軽蔑の視線をエウニケにあてて、そして妙に昂ぶってくるのを覚えた。
エウニケの白い胸の先には、誘うような赤い乳首が、二人の手で尖らされるのを
待つように小さくこごえていた。

 すりこぎが軽くなってきた。
ネリッサは、砕いた薬草を、すり鉢から乳鉢へと移し変えた。
 乾燥させた薬草と、その他の動物性の練り剤を乳鉢の中に入れて、乳棒で底を
擦るようにかき混ぜる。圧搾粉砕された薬が、かすかな匂いを立てていた。
 キュロスはネリッサにも淫具を渡し、それでエウニケの膣を満たすことを命じた。
入り口のほうで手こずったが、奥まで挿入してしまうと、あとはいつもの作業と
同じだった。
「手際がよいな」
 エウニケの膣の底をゆるゆると突き、焦らすようにかき混ぜたりしているネリッサの
手許を見て、キュロスが褒めた。
 椅子の後ろに立ったキュロスは両手でエウニケの乳房を揉んでいた。
 エウニケの喘ぎがせり上がってきた。無抵抗な奴隷でいることを仕込まれた
清楚な女も、この性感帯責めだけは、たまらないようだった。
「同じ女だから、弱点もよく分かるのだな。女の指で、肉芽も可愛がってやれ」
 二人がかりで、とろ火で炙られるように責め抜かれた女体は、何度もびくびくと
痙攣した。深く突かれるたびにエウニケは声を絞って、紐で固定された膝頭を
ふるわせた。
 首を振り立てながらエウニケが声をあげ、縛られたその身を引き攣らせる
頃には、責めるネリッサの手まで、エウニケが吐き出した淫らな水でびしょ濡れに
なっていた。
 ネリッサは、壁の薬棚から薬実の入った瓶をおろした。乳鉢の中に、瓶から
取り出した実を加え、再び乳棒をつかった。こりこりと音を立てて、実が潰れていった。
大きく拡げられたエウニケの内股の白さ、静脈を浮かべた肌の、あのすべらかさ。
充血した小さな肉芽の敏感さと、慈悲を乞う切ない顔。昂ぶりを堪える呻き声。
こうして乳鉢の底を探っているよりも、エウニケの、あれのほうがいい。


 出来上がった丸薬を乾燥させるために屋上へ上がり、作業板ごと
煉瓦焼の屋根の上においた。
 はしごに脚をかけると、通りかかったダビドが下で待っていて、最後の数段を
降りるのを支えてくれた。
 聖地の空は雲ひとつなく、蒼く澄んでいた。
「何の薬だ」
「気を鎮める薬です」
 屋根を見上げているダビドに、すらりとネリッサは言った。
 夕方に、風呂をつかおう。ネリッサは袖口をつまんだ。
 今日は診療所もさほど忙しくないようだ。ダビドさまは、いつにも増して夜に
優しくして下さるだろう。
「ネリッサ」
「はい」
「キュロスの家の、下男の具合は」
「はい。定期的にダビドさまが処方した薬を届けています。薬のおかげで
良くなることはなくとも、痛みはそれで消えるとか」
「キュロスの話から、胃炎を疑っているのだが。一度、診てやらねばな」
「いいえ」
 強い声にならぬよう、ネリッサは注意深く言った。
「たかが奴隷のことで往診など、とキュロスさまがおっしゃっておられました。
薬を呑めば元気なのだし、それで充分だと」
「そうか」
「はい」
 下男の病の話はキュロスの作り話だが、ネリッサの裏打ちもあり、ダビドは
すっかり信じ込んでいるようだった。
「お前の帰りが遅いようなので、よほど悪いのかと思っていたが」
「ついでに、キュロスさまお屋敷の台所でお食事をいただいておりますから……」
「そうだったな」
 若くして皇帝の主治医団に抜擢された方でありながら、こういうところが、
善良で、ぬけていらっしゃるわ、とネリッサは淋しいような、愛しいような想いで
女の言葉を疑うことを知らぬダビドの顔をぬすみ見た。
 きっとキュロスさまは、わたしの話の中に、わずかでもエウニケのことが
出てきはせぬかと思っておられるのだわ。
(まさか、貴方の愛していらっしゃるあの寡婦が、キュロスさまばかりではなく
この卑しいわたしにまで好き放題に嬲られて、生き恥をかかされているとは
思わないでしょうね)
 ネリッサはエウニケに浣腸までほどこし、桶を跨がせて排泄させ、キュロスに
差し出すことまでしていた。
 キュロスに肛淫をされているエウニケは、陸に揚げられた人魚のように力なく、
かぼそい声を放ちながら、ネリッサの見ている前で、為されるがままにのたうち
まわっていた。
 また、キュロスは、ネリッサが調合した淫剤を、エウニケに呑ませることあった。
後ろ手に縛られ、漏斗を咬まされたエウニケに、ネリッサは薬を注ぎ込んだ。
無理やりに昂奮に追い上げられた美しい女は頬を紅潮させて、キュロスと
ネリッサの二人がかりの責めに身を委ね、乱れあがって陥落してしまう。
男の肉棹を咥えて上下しているエウニケの股ぐらに目を据えて、ネリッサは
思ったものだ。
(この様子を、ダビドさまにご覧いただきたい。それでもまだ、このような
淫乱な娼婦を庇いたて、お求めになるのか、きいてみたい。解放奴隷と奴隷娘の
おもちゃにされて、首輪をつけられ、惨めによがり狂っているこのめす犬を)
 答えは、わかっていた。
 ダビドはきっと、そんなエウニケですら、愛するだろう。ネリッサには
与えられることのない、その熱い心を傾けて、エウニケを敬い、抱くだろう。
どれほど犯されても、穢されても、内側からかがやくようなエウニケの美しさは
変わらなかった。
(エウニケをもっとキュロスさま好みの奴隷にしなければ。ダビドさまが愛想を
尽かすまでに、最下層の娼婦のように、あの美しい人を、身も心も
キュロスさまに服従させて、他の男など目に入らぬ、泥人形に改造して
しまわなければ)
 そうやってネリッサは、むなしくもわき上がってくる黒い嫉妬心を宥めた。
奴隷であるこの身とダビドが結ばれるはずもないが、これはダビドの為なのだと
思うことで、どんなことでも出来る気がした。そうすることにより、ダビドとエウニケの
間を裂ける気がした。エウニケがキュロスの従順な奴隷である限り、ダビドは
エウニケを諦めるしかないのだ。
 ネリッサは診療所に戻るダビドの背中を見つめた。かなわぬ想いに
悩んでいる男の背中を見つめた。誰が知らなくとも、臥所を共にしている
女だけは、男の想いがどこにあるのかを知っている。
 あの人のことは、忘れてもらわなければ。
エウニケもダビドのことを愛しているのなら、なおのこと、もう二度とダビドの前には
身を恥じて現れることがないように、あの女を辱めてやらなければ。
 ネリッサは屋根の上の薬を見上げた。それから、首をまわして、監獄のある
方角の空を見た。


 市中を見回っていたダビドは、輿をとめさせた。
「ここで待っているのだ」
「お一人では危険です」
「構わない」
 供を連れずに、輿をおりたダビドは単身でくもの巣のような路地へと
分け入っていった。
聖地陥落の直後の混乱期は過ぎたものの、ダビドの目には、汚水の
排水口の位置や、鳥まで首を突っこんでいる生活用水の貯水槽の蓋の
有無など、気になるところが多々あった。
 聖都の地図をひろげて、難点のあった箇所のしるしを書き込む。
裏路地に入れば、汚物が散乱していたり、共同井戸のそばで動物を
飼っているなど、不衛生な点も途切れなかった。
「買わなくていい苦労を自らかって、それで感謝されるかといったら、ただの
口煩い男として疎まれて、お前の評判が下がるだけだぞ」
 エラスムスはあきれていたが、ダビドが赴任した街には疫病が出ないという
厳然たる事実の前には、エラスムスが心配するほどの反発はなく、ダビドの
進言は「ダビド医師のご指摘です」のひと言で優先的に通されて、問題箇所には
すみやかに工人が送られていた。
 ダビドはこれを、無報酬で、医業の合間の余暇に行っていた。それを見て
総督は、「物好きな。あの医師は偉人か、さもなくば変人だ」と嘲笑した。
「最初の妻を疫病で亡くした?」
 エラスムスの説明に総督は太い眉を吊り上げた。
「ははあ、それで、あの男は疫病の防止にあれほどの力を注いでおるのだな。
それなら、奇行の理由もつこうというものだ」
 何とかダビドの面目を傷つけずに総督を納得させることに
成功したエラスムスは、ほっと胸をなでおろした。
 地図をたたみ、ダビドは、建物と建物に挟まれた聖地の青い空を見上げた。
 アテナは、疫病が原因で死んだのではない。
 それでも、そういうことにしておかなければ、心が崩れそうになる。アテナとの
想い出が崩れてしまう。
(ダビド、ダビド。あなたが留学から帰ってきたら、もう二度と離れないわ。
揺り籠の頃から一緒だった、わたしたち。おじいさんとおばあさんになるまで、
仲良く一緒に暮らしましょう)
 唯一この聖地でみた月の女の面影だけが、あの冷たい夢だけが、この心に
水のように、沁みとおる。

 エウニケのことを思っていたせいだろうか。
ダビドは、その女に、気がついた。
 ラウラとかいったか、監獄の中で、女王のように振舞っている寡婦だ。
ごでごてと飾り立て、険のきついその顔に顔料を塗りたくった女は、魔物の
女神のごとくに輿の中に坐り、裏路地の暗がりをじろじろと見回していた。
 供人がそのラウラにすりよって告げた。
「お求めの寡婦は、この辺りにはいませんでした」
「本当だね」
 たっぷりと脅しを含んだ声で、ラウラは供人を睨み付けた。
「この辺りに、エウニケの乳母が住んでいたという情報があるのだよ。あの女、
小汚いねずみのように、こそこそと、ここに隠れているのではないだろうね」
「その乳母はすでに死んでおります。家も、空家でした」
「ちっ。またはずれかい。手間をかけさせやがって」
 男のような言葉づかいで吐き棄てると、ラウラは鞭で輿の床を叩いた。
「エウニケを見つけたら、ここまでこのあたしに無駄手間をかけさせてくれた
お礼をたっぷりさせてやる。聖都の宝物の管理には、この街の顔役が
関わっていたのさ。夫の死後、その顔役の囲い者になっていたエウニケ
こそが、その場所を知っている寡婦なのに違いないのだからね」
 ぎりぎりとラウラは鞭の柄を手の中できつく握った。
「逆さ吊りにして煙責めにしてやるなど、まだ甘いね。顔役の家でエウニケは
お姫さまのような暮らしを与えられていたそうだ。寡婦のくせに、慎みというものが
ない女なのだろう。そんな女には、たんまり制裁を加えてやらないとね」
「戦の混乱の中で、街の顔役は死んでおります。エウニケもその時に……」
「生きてるよ」
 ラウラは、目を吊り上げた。
「そんな図太い女が死んだりするものか。あたしは調べ上げているんだ。
奴隷に捕まって焼き場にはこばれる途中で、どこかのお節介な医者が
エウニケを助けたそうだからね」
 じろりとラウラの目が、物陰に隠れているダビドの方へと向けられた。
そこにダビドがいることを知っていて、ラウラはわざと聞こえよがしに言ったのだ。
 にやりと、ラウラは笑った。
 その目つきは爬虫類に似ていた。
「もっともその後、エウニケは行方不明になっちまったのさ。そのまま
総督の寝所に放り込まれていたら、捕まえるのも面倒がなかったのだろうけどね。
あの頃は似たような女たちがたくさんいたから、総督も、奴隷たちのことなど
いちいち憶えてはおられない。処女以外は顔も見ずに、その辺の兵士に
片端から適当に振り分けておられたそうだから、寡婦と名のつく女が何人
いたかどうかも、ご記憶にないのだよ。
エウニケは逃亡してこの街のどこかに隠れているか、兵士の誰かの囲い者に
なっている線が固いと、あたしは睨んでいるのだ」
「しかし、それなら、とっくに寡婦狩りの対象となって差し出されているはずでは……」
「ばかだね」
 ふん、とラウラは顎をそらした。
「総督の命によりこれだけ寡婦をかき集めているのに、エウニケは
提出されない。ということは、その男がよほどエウニケを気に入ってエウニケを
隠してるってことだ。男ひとり手玉にとるなんて、エウニケのような
卑しい女にはお手の物だろうからねえ。手練手管を尽くして、男を骨抜きに
しているに違いないよ。まったく、どこまでもいやらしい女だね。捕まえたら、
下男たち相手に、その手口を再現させてやるのだ。エウニケを聖女のように
崇めている低脳な連中に、その腐った淫乱ぶりを公開してやるのだ」
「ラウラさま。では総督に進言して、兵士たちの所有している奴隷たちを一斉に
検問してはいかがでしょう」
「監獄長官は総督の手を借りず、宝物の在り処を知る寡婦を自力で
探し出して、手柄にしたいとお望みなのだよ。だからこうして、あたしが
こんな汚い界隈に出向いてきたのじゃないか。まったく汚い路地だね。
臭い。気分が悪い。監獄に戻るよ」
 監獄長官の愛人となっているラウラは鞭を振り上げ、輿の担ぎ手の背を
ぴしりと叩いた。
「監獄にお戻り。ああ、臭い。きっとエウニケの恥ずかしいところも
こんな臭いだろうね。まあ見ておいで。あたしのもとに引き据えてやる
日がきたら、どれほど淫乱な女なのか、たっぷり検分してやるから。
晒し台に載せて隅々までえぐり、生き恥をかかせ、あたしの正義の力をこの聖都中に
思い知らせてやるのだよ。そのためにも、こうしてあの女の情報をかき集めてるのさ。
捕えたら、淫乱女の焼印をおして、狭くて臭いにわとり小屋に入れてやろう。
「エウニケの小屋」と立て札を立てて、晒し刑にしてやろう。
祭りのたびに引き出してきて、広場の真ん中で淫芸をさせてやろう。
宴には性奴隷として引き回し、恥ずかしい踊りを踊らせて、命乞いをさせてやる。
あたしの気分を害した女は、今のいままで、誰ひとりとして、あたしの復讐から
逃れた者はいないのだ。この街の女王はあたしなのさ。このあたしが法なのさ。
気に入らない者は容赦なく、叩き潰してやるんだよ。エウニケを使ってお前たちにも
それを証明してやるから、よく憶えておいで」
 がんがんと喋り散らしながら、ラウラのその手は、おのれの陰部に伸びており、そして
その目は性的な反応を示して、どろりと濁っていた。
 ラウラの輿が行ってしまうのを見届けてから、ダビドは隠れていたところから
通りに出て行った。
 エウニケは財宝のことなど、知らないと言っていた。
 亡夫の想い出が刻まれた左手の刺青を庇い、あれほどに大切にしていた。
 いまのラウラの話が本当ならば、エウニケは、財宝の在り処を知っていて、
それをダビドとキュロスに隠しているということになる。
 自尊心が傷つけられた気がして、ダビドは、街路に立ちすくんだ。

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