ご注意:苦痛・流血をともなう本編の過激描写は、小説としてのフィクションです。
決して人体に試さないで下さい。死亡・大怪我・病気に至ります。

【異教徒の妃】
◆六幕
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 或る有力貴族の屋敷に、火が放たれた。
包囲した王の近衛兵の手により、その家の者たちは使用人もろとも
皆殺しになり、また、その家出身の後宮の女もひそかに宦官の手で始末され、
不浄門から棄てられたとのことであった。
 その貴族が経路を隠して王に献上した奴隷用の淫具には、王の寵愛の異教徒の
子宮を裂くための、針山の仕掛けが仕込まれていた。
念入りに調教をほどこしていた女奴隷をそのようなかたちで損なわれた王の怒りは凄まじく、
貴族の発注に応えてその責具を作った、はるか遠方の植民地の職人も探し当てられた。
 連行された職人は王の前にひれ伏し、ふるえ上がりながら、ゆるしを乞うた。
「ご用命があればそれをおつくりいたすのが我らの仕事でございます。
まさか、まさか、王のご寵愛の後宮の方に使用されるものとは、どうして知ることができましょう。
貴族のお種を孕んだ身の程知らずな性奴隷を懲らしめる為のものであると、お道具を
お求めの貴族さまの使いは、そのように仰っておられたのでございます」
 王はその者を鞭打たせた上で、往来に放り出した。

 後宮に供出した血族の女たちが王の子を生むか否かに将来の利害をかけている
宮廷人たちは、いよいよ、盛んに囁きあった。
「あの王が、さほどに後宮の異教徒女にご執心であるとは」
「先代王が後宮に異教徒をおいたことがあったが、その女も、現皇帝が譲り受け、当時
たいへんなお気に入りであったとか」
 王の寵が、ひとりの女の上にこれほどながく留まったことはかつてない。
おそらく、その強情な異教徒は改宗を拒むことでいぎたなく生命をのばし、王の関心を煽りたて、
その心を繋ぎとめているのに違いない。
(異教徒に並々ならぬご関心を持たれるのは、やはり、女が異教徒であることが
王の征服欲を常よりもそそるからなのであろうか)
(しかし惜しかった。その性具で遠慮なく女をもっと突いておれば、女を死に至らしめられたかも
しれぬものを。それこそ、異教徒女が王のお種を宿されでもしたら、ことだぞ)
(どうかな、ここは一つ我らで知恵を合わせ、異教徒が孕まぬうちに何とか手を打っては。
王がその異教徒を寵愛するかぎり、我らには何のうまみも転がってはこぬぞ。
場所が閉ざされた後宮とあっては難しいことではあるが、毒物でも食事に混ぜて与えてやっては)
(その、昔いたという異教徒の女は、なぜ死んだのです。薬と淫薬を使って、改宗させたのでしょう)
(王座につくのに合わせて、王が奴隷から妃に引き上げてやろうとしたところ、女がそれを拒んだからとか)
(王の求めを拒んだ後宮の女は、いかなる理由があれ極刑。激昂した王は女の両手首を切らせ、
三角木馬に跨らせて、そのままそこで失血死させたそうだ)
(なんと、王のお怒りの凄まじきことか)
 そこへ、彼らにさらなる衝撃を与える一報がもたらされた。
それは宮廷人たちを、おおいに愕かせ、悔しがらせ、またとんでもないことだと慌てさせた。
 王は、後宮に監禁中の異教徒女に、異教徒のまま「妃」の称号を賜るとか。
奴隷の女に対しては、まだしもひそかに巧妙な暗殺もはかれよう。
しかし王の妃となってしまえば、それへ危害を加えることは、すなわち王への叛逆である。


 宦官の医師たちは、寝台に横たえられている女の脈をみ、熱をはかり、検診した。
膣内に傷を負った女は、それが治るまで、宦官医師たちによって世話を受けていた。
 夢うつつのうちに、女は聖堂の夢を見た。
戦火の中、脚を引きずりながら聖堂に駆け込むと、そこには、誰もいなかった。
修練女たちが塔の階段を昇っていた。脚の悪い女には、そこにも追いつけなかった。
女は、神の名を呼んだ。
祭壇の前に膝をつき、一心に祈った。女はそれしか知らなかったから、そうした。
そしていつものように、誰も、何も、女には応えてはくれなかった。
幼い日、修練女として生涯を閉じ込められた時と同じように、神は、女に何も応えてはくれなかった。
聖堂はしんとして、静まっていた。

 王が見舞いに訪れたのを知ると、女はふらつく脚で床に下り、久しぶりに会う
王の足許に身を投げ出した。
女は、王が自分を見棄てずに、こうしてまた来てくれたことが、或る理由から、嬉しかった。
「調教をお与え下さい。わたくしを虐めて下さい。わたくしは虐められて悦ぶ淫乱な
異教徒のめす犬でございます」
 ささやかに呟くと、従順と服従を示すべく、女は、”賤しき異教徒のめす犬”の体位をとった。
王はひややかな目で、そんな女を見下ろした。
女奴隷のこのしおらしさが、死を望んでのものであることを、王はご存知であった。
怒張したもので喉をふさがれた女は、王がはやくそれを抜いてくれるように唇をすぼめ、舌を這わせ、
拙い奉仕に励む他なかった。 
白く張り詰めた女の乳房が、女の喉を突く男の腰の動きに合わせて揺れていた。
 王は女を寝台にはこぶと、その細腰を後ろ抱きにして、膣の代わりに女の肛門におのれを沈めた。
張型で拡張されてきた女のそこは、まだ窮屈であったが、力づくで開かされた。
根もとまで咥えさせられた女は、やがて、痛みに麻痺したように、快楽の呻きを上げはじめた。
膝をもう少し開かせて、違う角度から女の肛門に攻め入ってやると、女の悦びようは
もはや隠せなかった。
 女の背にその逞しいからだを被せて、汗と涙に濡れた女の髪を王は掴んだ。
何に対して怒りを覚えるのか、王自身にも、不明であった。
「もっと悦べ。望みどおり、死を賜ってやる。尻をふれ、もっといやらしい声を上げてみせよ」
膣にも指を入れた。やがて汗ばんでいるそこが、男の導きに応えて、別のもので湿りはじめた。
 びくびくと腿をふるわせて、女が崩れ落ちた。
股間をはずかしい汁で汚して喘いでいる異教徒の顔は、上気して、よりいっそう、なやましかった。
聖堂で見かけたあの清い姿のままに、男の腕に閉ざされて、逃げ場なく、泣いていた。
 その女を、王はさらに不恰好な体位にさせた。
「王さま-----……」
 両脚を頭の上まで折り曲げられた女はもがき、抗い、死にそうな声を上げた。
その声はすぐに淫靡のうちに熔けて、男のものを抜き差しされるうちに、切れ切れのものとなった。
その姿にますます王は、昔この牢にいた女のことを思い出した。
拒み通した女、それは、年上の異教徒であった。あの時と、同じだった。
(貴方さまの言うとおりにいたします。これまでのように、ご命令に従い何でもいたします。
ですが、どうか、わたくしを貴方さまの妃になどと、怖ろしいことはおっしゃらないで)
(夫と息子が、貴方さまに殺された身で、どうしてそのような栄誉を賜ることができましょう。
お願いです、わたくしをこのまま牢の中で奴隷として捨ておいて下さいませ。
そして早く、わたくしを、神の御許に帰して下さい。夫と息子の許へ、いかせて下さいませ)
 からだの下で、異教徒の女が、呻き、はかなく喘いでいた。
不具を持つ貧しい孤児は、路上で乞食になるか、親族の手で僧院に入れられるのが常道である。
(だから修練女としてあそこに居たか。外の世界には、居場所なく)
 王は胸の中にある、その小さな顔を見下ろした。
 異教徒の女どもが小賢しくもそこに逃げ込み、頑強に立て篭もろうとする貞淑や信仰、羞恥や
不服従の無駄な砦を、今回も容赦なく打ち砕き、無慈悲に剥ぎ取った。
それは成功したはずであったのに、このかよわい女ひとりが、まだ、何かの不足を告げている。
骨の髄まで、女の身に服従と被虐の悦びを思い知らせることから始めて、まだ足りぬもの。
性奴隷としての従順を仕込み、こうして扱っていても、まだ、足りぬもの。
それが何であるのか、女のもとに通いつめる王は、どれほど女の肌を探ってみても
分からなかった。


 異教徒の女が「妃」の称号を賜ったことを、牢獄の中の異教徒の女だけが、知らなかった。
女は依然として、地下牢に閉じ込められていた。
「この脚の不具は、生まれつきか」
 小さな踵、やわらかな膝裏、陶器のように白い内腿、脚の付け根の翳り、小さな爪を並べた足指。
持ち上げられた片脚に加えられる巧みな愛撫に、異教徒の女は胸をそらして吐息をつき、
男の手の中で足指をまるめた。
女の脚の間は、すでに濡れていた。
「わたくしは、賤しい、異教徒の……」
「訊いたことに答えよ。この脚のゆがみは生まれつきか」
 股間の器官を指責めされて、たまらなくなった女は小さな声で、ようよう答えた。
生まれつきです。わたくしは病で死んだ母のその胎から、とり上げられたのだそうです。
「お前の母ならばさぞや美しい女だったろう。聖堂にはいつからいたのだ」
 王は女の足指を口に含んだ。
そして女にいつもさせている口と舌の動きで、その小さな足指を吸い、指の間に舌を這わせた。
「神に仕えるようになったのは、いつからだ。どうして修練女になった。答えよ」
「幼い頃、から、ずっと、引き取ってくれるところが、なく……」
「ひくついて気持ちがよさそうだな。お前の神は、こんなことをしてくれたか」
 女は背筋を駆け上がってくる快感に喉をのけぞらせた。
腿を伝う男の指は、恥毛の剃られた女の陰部にもぐりこんだ。
「淫乱なお前を夜ごとに慰めてくれたか、ここを、このようにして」
「あ、……」
「自分から指を咥え込んでいるぞ。神に仕える女がこのざまか。見苦しい」
 牢に女の喘ぎ声が満ちた。
「そのような顔をしながら、まだ、逆らうことを考えているのだろう」
 異教徒は強情者。あらゆる手段を駆使しても、その最後には突っぱねる。
「興のない女にこれほどの手間隙はかけはせぬ」
 王は息を詰まらせている女を促した。
あらゆる恥辱を与え、辱め、支配し、完全に屈服させても、まだ足りぬもの。
女を問い質し、いくら責めてみても、女自身にも、答えられぬもの。
後宮の女たちには求めぬものを、王は、捕らえたこの女に求め、しかもそれが何かを、
この世の王として生きてきた男はついに知らず、また、聖堂の中で生きてきた女も知らなかった。
「どうして欲しい。くれてやろう、それをお前から、ねだってみせよ」
 女の耳に、その首筋に、唇に、王は噛み付くような接吻を与えた。
「天にも地にも、もう何処にも行くところがない女が、何を頑張っている」
 ひくっと女が瞼をふるわせた。
ずっと前から、もう何度も、繰り返し、その声は、女に届いていた。
王も、女にも、それは名のつけようのない声だった。互いに何を求めているのか
どちらにもそれが何か分らぬまま、王の声は、女の心の扉を、その夜も叩いた。
「お前を傷つようとした者共は、すべて処罰してやった。もう、あのようなことはない」
 男は、女の胸の先を口に含んだ。異教徒の頬に涙が伝い落ちた。
「異教徒のままでよいと云ってやっても、まだ素直にはなれぬのか」
 王の妃は、熱く泣きながら、目を閉じた。


 王が西方へ派遣した軍が蛮族を打ち破った一報に、都は沸きかえっていた。
戦勝祝いに、王は廷臣たちを連れて、離宮で宴をひらいた。
 異教徒の妃から王の寵がどうにも離れぬとみた宮廷人たちは、今度はこぞって、
異教徒の妃におもねり始め、王妃を讃えはじめた。
「妃さまは、さぞやお美しい方なのでしょう」
「わが所領地は妃さまの郷里に近ければ、お慰めになるよう、土地の花や果実を
後宮にお届けいたしましょう」
「それにしても、王はご寛大であらせられます。異教徒のままに、妃になさるとは」
「異教徒の妃が王にお仕えしているとなれば、異教徒どもも、さだめし、これからは
王を崇め奉るようになりましょう」
 王には、既に正室の「后」がいる。
王よりも十二歳も年上の王の従姉で、産まず女であり、ほとんど忘れ去れているような
存在ではあったが、正式な后がいるかぎり、後宮の女たちは、たとえ妃であろうと、
表舞台に出てくることはない。
しかし後宮で最も勢力がある女は、王をも動かす力を持つ。
王の子を生んだ女たちであっても奴隷のままに据え置かれていたところへ、初めて
登場した妃の存在は、たとえそれが異教徒であろうとも、政治的均衡に敏感な宮廷人にとって、
無視できるものではなかった。
 廷臣たちの間では、異教徒の妃が王の子を生んだ場合、誰がその後見人として
立つかの争いが、水面下で始まっていた。
 彼らは、少しでも己に有利となるように、自分が王に献上した淫具が異教徒の女を
屈服させたのだと、互いに言いあった。
「あれはよく効きますからな。お堅いことで有名な未亡人の股も、あっという間に従順に」
「おのおの方、女をよがらせるには大きさではなく、女壷のあそこを刺戟する形状がいちばんですぞ。
頭部は蛇の頭のかたちを模し、表面には蛇の鱗を刻んだ性具を、謹んでご奉納いたしましたぞ。
王妃さまはそれにて、可愛がられる愉しみをお覚えなさったに違いない」
「まだ不慣れな妃さまを気遣い、処女用の張型を特に誂えさせて、お納めしたのは、わし一人ですぞ」
なんのわしこそ、と自慢話に花が咲き、彼らは後宮奥深くに幽閉されている妃のことに想像を
逞しくし、間接的に妃を犯しているような不敬な想像に耽っては、妃を悦ばせる、次なる
「贈り物」について、吟味を重ねるのであった。
 宴のただ中に、早馬が駆け込んできた。
血相を変えた使者の報告に、離宮の大広間は、酔いも消し飛び、しんと静まり返った。
 王子、刺殺さる。
王族の男以外は立ち入りを禁じられている後宮の、三角木馬が据えてある地下室の
片隅において、その惨劇は起きた。
下手人は、地下の牢獄に閉じ込められていた、異教徒の妃。
兄王子の話すところによると、王妃は三角木馬に乗せようとした弟王子に抗い、
壁に架かっていた刃物の一つで、弟王子に襲い掛かったのだという。
「王の留守中、年長の王子さまたちは、お二人で王妃さまを牢にお訪ねになり、王妃さまの
無聊をお慰めであったとか。その最中、その災難に遭った模様です」
 外に出されていた宦官が年長の王子の呼び声に応えて内部に踏み入った時には、
床に倒れている弟王子の傍で兄王子が止血を試み、木馬の足許には、血濡れた刃物を
手にした異教徒の妃が、はだかのままで、人形のように崩れ落ちていた。
「宦官医師が駆けつけましたが、弟王子さまは、既に絶命されておられました」
「何ということだ」
 絶句して、廷臣たちは、王座にいる王を振り仰いだ。
王族へ危害を加えることは、すなわち、玉体を傷をつけるも同じこと。
異教徒の妃が王子を殺したとなれば、それは、王その人を殺したのと同じ、大逆罪。
先刻まで王の妃への世辞を並べ立て、妃への贈り物の内容で競っていた宮廷人たちは、その口を
ぴたりと閉ざし、おそるおそる、互いの顔を見回した。
彼らは当初、異教徒をひそかに暗殺しようとしていた陰謀をここにおいて暴かれた気がして、
不意に、そのことが怖ろしくなったのである。
 王座の腕木に片肘をついて、毛筋ひとつ動かさずに黙って聞いていた王は、使者に尋ねた。
「妃は」
「は」
 使者は、王の目とその静かな口調に竦み上がりながら、平伏して答えた。
人々も雷に打たれたかのように、王の沈黙に縮み上がった。王は、激怒しておられる。
「王妃さまは、無傷でございます。宦官たちによって牢に戻され、昂奮いちじるしかった為に
お薬で沈静を。宦官は王がお戻りになるまで、惨劇の場もそのままに確保しております。
王。いそぎ、都に還御を」
 側近が後ろから素早く王に囁いた。
「王子への危害は、いかなる理由があれ、極刑にございます。王妃さまはそれをご存知であったのやも
知れませぬ。しかしここで異教徒の妃さまをお怒りに任せて即断で斬首でもなされば、もしもこれが
巧妙に仕組まれた罠であった場合、畏れ多くも王の妃を亡き者にしようと謀った者の思う壷。
王妃さまへのご詮議は、慎重に」
「吟味はする」
 王は、立ち上がった。
牢を開けた時に異教徒女が見せる、怯えと、諦めと、何かへの頼りない祈り。
あの夜、泣きながら縋り付いてきた女が確かに見せたと思った、こちらへすべてをゆだね、
すっかり懐いてきたとみえたもの。
(-----また逃げるか。あの時と、同じように)
 王は居並ぶ廷臣たちを睥睨し、彼らの蒼白な顔を眺めた。
無関係を決め込もうとする者共の、その顔を。
誰ひとり異教徒の妃の為に、妃を庇うものはいなかった。
たとえ妃の位についても、王の寵なくば、またたくまに底辺に下がる、それが異教徒女の立場であった。


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